(1)キトゥン・ブルー

 デデンは、冬の惑星だった。

 一年の半分以上が暴風雪に閉ざされ、人間たちは地下にコロニーを築いて住んでいる。

 だがラドラムたちが到着したのは、貴重な春の季節だった。

 雪は一年中溶ける事はなかったが、寒さは緩み険しい山肌には澄んだ小川が流れ、動物たちが待ちに待った恋の歌を歌っていた。


「ラドラム。惑星デデンまで、あと三分零秒です」


 艦橋にプラチナの落ち着いた声が響いて、ラドラムは寝起きの呻きを上げて思い切り手足を伸ばした。しなやかな筋肉のバネは、野生の猫科獣のようだ。


「ん~……。サンキュ、プラチナ」


「どういたしまして」


 ブラックレオパード号は、宇宙港にドッキングした所だった。辺境の小惑星の為、小型船としてはやや大きい部類に入るブラックレオパード号が、ギリギリ着けられる規模だ。

 その名の通り、流線型の外装ボディは、闇より深い漆黒に光っていた。


 この船は元々、ラドラムの父親、ミハイルのものだった。

 ラドラムが物心ついた時からすでにミハイルは便利屋をやっていて、母親はいなかった。

 代わりにこの船のA.I.『pt-56001』が、物語を聞かせてくれたり、泣いた時はベッドを揺らしてあやしてくれた。

 その為、今も艦橋の片隅には、ベビーベッドや赤ん坊用のおもちゃがそのままになっている。


 ミハイルはプラチナの事を『pt』ピーティーと呼んでいたが、元素記号の勉強を始めたラドラムが、十二歳の時『プラチナ』と名付けて以来、彼女はラドラムの『母親』から『想い人』になったのだった。


 そのミハイルも、ラドラムが十七歳の時に船を出たまま、行方不明だ。

 そして、今日もラドラムは言い置く。プラチナに『愛してる』と。

 プラチナも同じ言葉を返して、三人は船を後にしたのだった。


    *    *    *


 春の間だけオープンする、地上に作られた一軒の酒場に、ラドラムたちはやってきた。

 辺境でも、酒場に集まるのは、腕自慢の用心棒バウンサー賞金稼ぎハンター、余所者の荒くれが多いのは変わらぬ事で、むっとする人いきれと煙草の匂いが出迎える。

 依頼人とは、この酒場で落ち合う約束だった。


「……で? どんな依頼なんだ」


 カウンターで並んで、ロディがブランデーをりながら隣のラドラムを横目で見やる。

 マリリンは、久しぶりの酒場で、男たちにちやほやされる事を謳歌していた。自称は二十四歳だが、そんな小娘では醸し出せない色気を振りまいている。


「守って欲しいものがある、って電文だったな」


 ラドラムは、ラム酒を含みながら言う。


「守るのは、人か、ものか」


「さあな。だけど、金が良いんだ」


 その言葉に、ロディが僅かにむせた。


「何だそりゃ。人だったらバウンサーに頼む筈だし、盗品とか、ヤバいブツなんじゃねぇのか」


 だがラドラムは、片頬を上げて不敵に笑った。


「これくらいでビビッてんのか、ロディ? 二か月分の給料が入るんだぜ。多少のリスクには目を潰れ」


 ロディは渋々といったていで、口をへの字に曲げた。


「ったく……一発逆転の仕事が多過ぎるんだよ、お前さんは。こつこつ地道に働いて欲しいもんだぜ」


 その時、二人の背に両手をかけ、マリリンが肩を抱いてきた。


「ラド、ロディ、聞いた? 酒場の裏手に、巨大犬ビッグドッグがいるらしいワヨ。見に行かない?」


 ビッグドッグとは、大きいものは体高五メートルにもなる、品種改良された文字通りの大型犬だった。希少種だが、『番犬』にはうってつけの為、ブルジョア層やこういった店で見かける事が多い。


「男たちと仲良く見に行って、親交を深めりゃ良いだろ」


 興味もなさそうにロディが言ったが、マリリンは悔しそうに、おもむろにポケットからハンカチを出して噛みしめた。


「それが、ハンターの中に、超能力者エスパーが一人居たの!」


「はは、それで男だってバレたか」


「笑い事じゃないワヨ、ラド! アタシは女の子ヨ! たまたま身体が男の子に生まれついただけ!」


 ワンピースの下の赤いハイヒールを踏みならして、地団駄を踏む。


「じゃあ今時、サクッと性転換すりゃ良いだろ」


「違いねぇ」


「親から貰った大事な身体に、メスなんて入れたくないのヨ!」


 ラドラムとロディが、いつもいつものマリリンの愚痴をさらりと聞き流し、軽くグラスを触れ合わせる。意見が合った時の、二人の儀式のようなものだった。


「ねぇ、一緒に行きマショ?」


 それでもしつこくマリリンは言い募る。


「マリリン、そのお化け屋敷ホラーハウス体質、いい加減やめてくれないか? 見たければ一人で行けば良いだろ。恐いなら、見に行くな」


「そうそう」


 再び、グラスが触れ合った。


「もうっ! レディに対して、何て冷たいのカシラ。分かったワヨ、一人寂しく見に行くワヨ。食べられちゃって、後で泣いても知らないんだから!」


「葬式は立派にあげてやるよ」


 ラドラムが背中越しにひらひらと手を振った。

 マリリンは、その背に思い切り舌を突き出してから、酒場の外へ出て行った。

 しばしあって、ロディが呟いた。


「……泣いて帰ってくる方に、五ドル」


「じゃあ俺は、食われる方に十ドル」


「ひでぇな」


 ラドラムの言葉に、ロディがくつくつと笑った。

 だが、その時。ビッグドッグと思われる吠え声と、高い悲鳴が上がった。マリリンの声だ。


「……まさか、本当に食われた訳じゃねぇだろうな」


 立ち上がったラドラムを仰ぎ見て、ロディが心配を滲ませる。

 再び、悲鳴が上がった時には、ラドラムは酒場の出口に駆け出していた。ロディも一歩遅れて続く。


 外は、先ほどまでの陽気とはうって変わって、春の嵐になっていた。

 横殴りの雪が視界をホワイトアウトさせ、目が慣れるまでに、一秒かかった。

 たかが一秒、されど一秒。もしも命のやりとりをする場面なら、文字通り命取りになっただろう。


「マリリン!」


 目が慣れると、酒場の裏手から雪の白をバックに、赤毛のマリリンがこけつまろびつして走ってくるのが見えた。

 姿を見て安堵したのか、二人の元に辿り着く前に、十メートルほど先で腰を抜かしてへたりこむ。


「ラド、ロディ……!」


「どうした、マリリン」


 酒場の裏手を指差して言葉にならないほど怯えているマリリンに、ラドラムが駆け寄って手を貸した。

 ロディは、無言でレーザー銃を抜く。船長の背中を守るのは、暗黙の了解だった。


「ひ、ひ、人が……」


「落ち着け、マリリン」


 蒼ざめてガタガタと震えるマリリンの上腕をしっかり握って軽く揺さぶると、ようやくマリリンは髪の色とは正反対な、ラピスラズリの瞳をラドラムと合わせて、ごくりとひと息飲み込んだ。


「人が、どうしたんだ」


「裏手に行こうとしたら、角で女の人と鉢合わせて……アタシ、ごめんなさいって言おうとしたの。そうしたら、白い服を着た連中が来て……レーザー銃で、その人を撃ったの! アタシも殺されると思って悲鳴あげたら、あっという間に逃げて行ったワ。あの動き……プロの軍隊か暗殺者ヨ!」


 再び、裏手で獣が激しく吠える。

 ラドラムとロディは、素早く目と目を見交わした。


「マリリン、お前は酒場に戻ってろ。ロディ、裏に行くぞ」


「ああ」


 ラドラムもレーザー銃を抜いて構える。建物の角にぴたりと着いて耳を澄ますと、さっと銃口を突き出して裏手に出た。

 そこには体高三メートルほどの白いビッグドッグが、何かに興奮して激しく吠え立てていた。

 人の気配はない。雪面には、おびただしい鮮血のあと。

 ラドラムとロディの鋭い視線が、目まぐるしく敵の姿を探して交錯する。

 だが、もうそこには誰も居なかった。遺体でさえも。


 ロディが警戒する中、ラドラムは膝を折ってそっと雪面に触れた。指に血液がついてきて、間違いなくたった今流されたものだと知る。

 確かに、ここまで少ない痕跡で引き上げられるのは、プロの犯行に違いなかった。おそらく、二度目にビッグドッグが吠えた時、戻ってきて遺体を回収したのだろう。

 もし目撃者がなく血痕だけならば、すぐに雪に埋もれて事件にはならなかった筈だ。

 ラドラムは立ち上がって、銃をおさめた。


「タイミングが気に食わない……」


「まさか、依頼人か?」


「かもしれない。今回の依頼人は、短い電文だけで依頼してきた。『仔細は会ってから』とな。簡単な綴りを間違えていたから、よほど慌てていたか、子供かと思っていたんだが……」


「子供!?」


 思わず、ロディが声を裏返らせた。


「おいラド、悪戯の可能性は考えなかったのか」


「金が良かったんだ」


 ガックリと、肩を落としてロディが独りごちる。


「そうだな。お前さんは、かねとプラチナには、滅法弱かったんだ……」


 その間も、太い鎖で繋がれたビッグドッグは吠えていて、酒場の野次馬たちが何事かと集まり始めていた。


「マズイな。ラド」


「何とかなるだろ。幾ら辺境でも、取調べくらいはするだろう」


 そして指に付着した血液を、手首に着けたプラチナ直結のウェアラブル端末にも触れさせて、囁いた。


「プラチナ。この血液の人物像を分析してくれ」


 プラチナの声がすぐさま返る。


『はい。ラドラム、戦闘をしましたか? 怪我は?』


 緊急事態など、プラチナが必要と判断した時は、そのウェアラブル端末からラドラムの身体情報や位置、状況まで、全て知る事が出来たが、プライベートモードではラドラムが命じた事だけをこなす健気なプラチナだった。


「大丈夫だ。ただ、拘置所ブタバコに入るかもしれない。その時は援護頼んだぞ、プラチナ」


『分かりました。どうか気を付けて、ラドラム』


「ああ、愛してるぜ」


『私も愛しています、ラドラム』


「じゃあな」


 通信は切れた。

 誰かが大量の血を見て通報したのだろう、レスキューと保安官シェリフが着いていた。

 マリリンが、大声で説明しているのが聞こえてくる。


「違うの! アタシ、殺されそうになったのヨ! あの二人は助けに来てくれただけ! 血は、女の人が撃たれたの。とにかく、アタシたちは被害者なんだったら!!」


 しかし振り返った二人の目に飛び込んできたのは、レーザー銃を構えるシェリフたちの姿だった。


「手を挙げろ!!」


「もう! 聞いて頂戴!!」


 二人は顔を見合わせて、もう幾度目になるか、危ない仕事には付きものの降参ポーズを取ったのだった。


    *    *    *


 ラドラムとロディは一緒の房、マリリンは向かいの房に収容された。

 あれから取調べを受けたが、真実を語っても『死体は何処に隠した』と詰め寄られるばかりで、全く話にならなかった。

 ラドラムは、硬くて窮屈なベッドに横になって、のんびりとした声を出す。


「良かったな、マリリン。シェリフにエスパーが居なくて」


「アンタの冗談は、笑えないトコが欠点ネ」


「素直に喜べよ。今日、お前を女扱いしてくれたのは、シェリフだけなんだから」


 マリリンが癇癪を起こす。


「うるっさいワネ! どうすんのヨ。大金どころか、またブタバコじゃない」


 ロディはベッドに腰掛け、ごそごそと逞しい胸元を探って、煙草を一本取り出して銜えたが、しまったといった顔をした。


「ラド、火、持ってねぇか」


「持ってる訳ないだろ。万病の元を隠す暇があったら、あの石頭たちを何とかする算段でも考えろ」


「ちぇ、お堅ぇな……」


 まだ若く、ロディと反対に連邦平均身長よりもやや小柄なラドラムには、硬くて冷たいベッドも苦にはならなかったが、いつも一緒のプラチナに『おやすみ』を言えない事の方が苛立ちを募らせた。『愛してる』と言えない事も。


 やがてロディとマリリンは眠りについたが、ラドラムはブロンドの後頭部に腕を回して枕にしたまま、プラチナを思ってまんじりともせずに夜を明かした。


    *    *    *


「おい、出ろ。朝だ」


 ぶっきらぼうな声に、ラドラムは痛烈に皮肉った。


「もうブランチの時間だぜ。食事は、ビュッフェなんだろうな?」


 制服の男は眉根を顰めたが、何も言わずに無言で三人を房から出した。

 後はお決まりのコース。所持品を返却されて、おざなりな謝罪があって、釈放だった。


「疑いが晴れた訳じゃないが、遺体が何処からも見付からない以上、拘置しておく訳にもいかない。……便利屋だと言ったな。今度何かあったら、ただで済まないと肝に銘じておくんだな」


 そんな捨て台詞まで吐かれたが、とにもかくにも三人は自由の身になった。

 ラドラムが一番にしたのは、返却されたウェアラブル端末から、プラチナにモーニング・ラヴコールを送る事だった。


「プラチナ、おはよう。夕べは離れちまってすまなかったな」


『おはよう、ラドラム。心配していました。身体に異常はありませんか?』


「ああ、お前におやすみが言えなくて、心は冷え切ってるけどな」


『ラドラム、寒いのですか? ジャケットのヒーターが壊れたのですか?』


「そうじゃない、寂しかった、って意味だ」


『私も寂しかったです、ラドラム。ずっと貴方の事を考えていました』


 その毎度のやりとりを聞いて、ロディとマリリンは、生欠伸を噛み殺していた。


「……アホらし」


 マリリンが半眼で呟く。

 だがひとしきり再会の喜びを分かち合ったラドラムは、真顔に立ち返って仕事モードに入った。


「で、プラチナ。シェリフは何て言ってた?」


『現場の向こうは、湖でした。詳しく調べた所、一箇所だけ、第三者が踏み抜いたと思われる氷の亀裂が見付かったそうです』


「何でぇ、俺たちじゃないって証拠があるんじゃねぇか!」


 ロディが憤る。

 ラドラムが唸った。


「一箇所だけ、か……。マリリン、賊は何人くらいだった?」


「えーっと……三、四人居たカシラ」


「て事は、あらかじめ湖の氷の厚さを測って、人数を合わせてきた筈だ。暖かい日が続いたんで、一人だけドジを踏んだって所だな」


「そう言えばそうネ。あんなに素早く撤退出来るのって、湖の向こうの森だけヨネ」


「全ては計算されつくした、暗殺劇だったってぇ訳か……」


 旨そうに紫煙を燻らせながら、ロディが酒場の扉を開ける。昨日と同じ匂いがした。


「なぁ、ラド。やっぱり、依頼人だったんじゃねぇか? やっこさん」


 昨日と同じ面子が、三人を見てひそひそと囁き交わすのが見て取れた。


「俺もそんな気がする」


 『便利屋』と聞いて、胡散臭いと言われるのは慣れっこだった。

 三人を胡乱に追う痛いほどの視線をものともせず、ラドラムはカウンターに座って店主に声をかける。


「ラムをくれ。……昨日、俺たちが捕まった後、人待ち顔の奴は来なかったか?」


 店主は、迷惑そうな色を隠そうともせず、だがグラスにラム酒を注ぎながら言った。商魂は逞しいらしい。


「昨日の新顔は、あんたたちだけさね。後はみんな、依頼待ちか小休憩の荒くれどもさ」


「そうか……ありがとう」


「それよりあんたたち、ベティに何かせんかったか? 昨日から、様子がおかしいんだがね」


「ベティって誰だ?」


「裏のビッグドッグだよ。ワシが餌を持っていっても、いつもなら尻尾を振るのに、唸るんだ。勘弁して欲しいね……」


 それを聞いたラドラムは、ちびちび飲っていたラム酒を一気に干し、勢いよくグラスを置いて立ち上がった。


「良い情報だ。これは、情報料と迷惑料だ。これからも贔屓にするんで、よろしく頼む」


 ラドラムは三人分の酒代と、その倍のコインをカウンターに転がすと、二人に顎をしゃくる。


「おいラド、景気が良過ぎねぇか?」


「そうヨ。アタシたちの給料に回して頂戴」


「ビッグドッグは頭が良い。奴が、何かを知ってるって事さ」


 裏手に回りながら、ラドラムはふと気付いてウェアラブル端末に話しかけた。


「おっと、忘れてた。プラチナ」


『はい、ラドラム』


「血液データの分析は出来たか?」


『はい。分析不可能、という分析が出来ました』


「不可能? お前が?」


『はい。厳密に言えば、地球発祥の人類ではない、という結果です』


 酒場の裏手ではベティが丸くなっていたが、三人が姿を見せる前から、すっくとその大きな頭をもたげ、毛を逆立てて威嚇していた。


「可能性で良い、詳しく聞かせてくれ」


『はい。この血液の持ち主は、染色体から、女性であると考えられます』


「それから?」


 ──バウワウッ!

 

 近付こうとするラドラムに、ベティが吠えた。


『エストロゲン、オキシトシン、プロスタグランジンなどに類似するホルモンの増加が見られ、この女性は出産したばかりだと推論出来ます』


「なるほど。サンキュ、プラチナ。愛してるぜ」


『どういたしまして。私も愛しています、ラドラム』


 通信は切れた。


「ベティ……良い子だ。分かるだろう? 俺たちは悪さをしない」


 牙をむいていたベティだが、ラドラムがじっと目を見詰めて語りかけると、次第に唸り声が小さくなった。


「ラド、どういう事ぉ?」


「シッ。静かに」


 唇の前に人差し指を立てて制すると、弱く吹く風の音だけが辺りを支配した。

 いや。ベティが唸るのを止めた事で、聞こえてくるようになった音がひとつあった。

 それは、か細く、だが生命の躍動を感じる、小さな『声』だった。ダ、アァ、ウァ、と、まだ言葉にならない天使のような笑い声を上げる。


「……赤ちゃん!」


 マリリンが目を白黒させた。

 雪原に白犬で分からなかったが、よくよく見れば、ベティが尻尾で守るように腹に抱き込んでいるそこから、声と小さな白い手が覗いていた。


「……ベティ。その子を、渡してくれ。大丈夫だ、危害は加えない。ミルクをやらないと、死んじまうだろ? その子を、守ってやってんだろ……?」


 ラドラムが片膝をついてそろりと這い寄ると、一瞬毛を逆立てたベティだったが、犬が腹を見せるように掌を上向けて広げて見せると、しばしあって大人しく一歩身を引いた。

 雪原の上に、白い毛布にくるまれた、小さな命が咲いていた。

 ラドラムは、素早くそれを拾い上げる。


「良い子だ、ベティも……お前も」


 両者に声をかけ、ラドラムは微笑んだ。

 それを見て、安心したようにベティは大きく伸びをした。ずっと警戒していたのだろう、眠っていなかったのか、途端に大欠伸をしてうつらうつらと眠りに入った。


「ほら」


「キャッ」


 赤ん坊を渡され、マリリンが取り落としそうになって慌てる。


「世話してくれよ。女なんだろ」


「アラ、それって男尊女卑ヨ! アンタがそんな亭主関白だったなんて、ガッカリだワ」


「でもお前、詳しいだろ。妙に」


 若干鼻を高くして、マリリンが赤ん坊をあやして揺すった。


「もちろん、レディとドクターの嗜みとして、妊娠から出産、育児まで完璧だけど」


 そして、毛布に埋もれている赤ん坊の顔を、そっと覗き込んだ。


「キャッ」


「今度は、何だ?」


 銜え煙草のロディも一緒に覗き込んできて、マリリンは即座に赤ん坊を遠ざけた。


「ちょっと、ロディ! デリカシーないワネ。煙草消して頂戴」


「こりゃ失礼」


 ロディは素直に従った。むくつけき三十路男でも、赤ん坊には弱いらしい。


「で、何が『キャ』なんだ?」


「見て……この子」


 毛布をめくると、赤ん坊の上半身が現れた。裸を毛布でくるんでいるだけだったが、その赤ん坊は、顔といい身体といい、全身がウールのような綿毛に覆われているのだった。瞳は、真ん丸だ。


「この惑星の人間か?」


「そう。到着する前、アンタが寝てる間に調べたのヨ。でも、まだ未確認だって……」


「この子が?」


「ええ。この惑星には雪猿イエティ伝説があるんだけど、乗り物じゃ行けないような、険しくて風の強い高山で二~三件しか目撃例がなくて……木立の見間違いとか、幻覚だとか言われてたの」


「じゃあ、殺されたのは、この子の母親のイエティで間違いないな。何で狙われたのかは、まだ分からないが……とにかく、ミルクをやろう。丸一日飲んでないんだから。……それにしては、機嫌いいけどな」


 ラドラムが首を捻ったのも無理もない。

 赤ん坊は、マリリンの長い赤毛を小さな小さな手で掴んで、ダァダァと楽しそうに引っ張っていた。


「ミルクを買って、いったん、船に戻ろう」


「あっ……」


「どうした?」


「生あったかい……」


「あ~……」


「ガキだから、しょうがねぇな……」


「このコート、お気に入りなのに!!」


 漂う香ばしい臭気に、マリリンが悲鳴を上げた。


    *    *    *


「ただいま、プラチナ」


「おかえりなさい、ラドラム。待っていました。……生命反応がひとつ多いようですが」


「ああ、新入りだ。ちびだけどな」


「クルーを増やしたのですか?」


「いや、赤ん坊だ。まだクルーになるかどうかは分からない」


 次の言葉までに、プラチナにしては珍しく、しばしの間があった。


「……父親は、ラドラムですか?」


 ロディが思わず噴いた。


「プラチナ、妬いてやがる」


「惚れた腫れたは、後にして頂戴! アタシ、シャワー浴びてくる!!」


 片隅に放置されていたベビーベッドに赤ん坊を寝かせ、コートを脱ぎ落としながらシャワールームに向かおうとするマリリンを、だがラドラムが引きとめた。


「ちょっと待て、マリリン! 先にこいつを何とかしてやれよ。俺たちはオムツの着け方なんて分からない」


「うう、も~……!」


 マリリンはどっちを優先するべきか迷って、右往左往する。

 その内、赤ん坊が元気よく泣き出して、マリリンは肩を落として赤ん坊の元に舞い戻った。涙目でオムツを着ける。


「尻尾があるワ! オムツに穴開けなきゃ……」


「……ラドラム」


「ん? 何だ、プラチナ」


「やはり、父親は、貴方ですか?」


 感情のこもらない筈の合成音声が、千々に乱れた。まるで電波の悪い星間映話だ。

 またロディが、盛大に噴き出す。


「こりゃ、修羅場だな」


「そんな訳ないだろ! 俺が愛してるのは、プラチナだけだ!」


「本当、ですか?」


「本当だ。愛してる、プラチナ」


「私も愛しています、ラドラム。……嘘発見器にかけて誓えますか?」


「ああ。何でも質問しろ。答えてやる」


 沈黙がおりた。


「……いえ。疑ってすみませんでした、ラドラム」


「あっ」


 小さな驚きの声が上がって、初めての修羅場は終わりを告げた。


「どうした、マリリン」


「これ……手紙カシラ。背中側にあったから、分かんなかったワ」


「そいつぁ、すぐ読まねぇとな」


「はい、オムツしたワヨ! 手紙はあとで読むワ! 今度こそシャワー浴びるんだから!!」


 汚れた毛布はダストシュートに放り込み、マリリンは全速力で艦橋を出て行った。


「凄いな、マリリン」


「ああ。オレだったら触れねぇ」


 再び機嫌よく、感触が面白いのかベビーベッドの中のおもちゃを握っては笑う赤ん坊を上から二人の男が覗き込み、ラドラムが手紙を手に取った。

 マリリンは『手紙』と言ったが、それはくしゃくしゃに丸められた赤ん坊と揃いの真っ白な紙で、果たして手紙なのかどうかも定かではなかった。

 だが皺を伸ばすと、文字らしきものが浮かび上がった。そう、らしきもの。遥か昔の象形文字のように、暗号めいた字体が綴ってあった。


「プラチナ、これ解読できるか?」


「はい。三分二十秒ほど時間をください」


「頼む」


 そして二人は、買ってきたレトルトミルクを温める事にした。

 だがラドラムもロディもミルクを扱った事がなく、熱過ぎると言っては冷ましぬる過ぎると言っては温め直しの繰り返しだった。

 あっという間に三分が経って、マリリンがシャワーを終えてバスローブで艦橋に入ってきても、押し問答は続いていた。


「何やってんの、アンタたち」


「いや、オレは冷てぇと腹壊すと思うんだよ」


「でもさっきのは熱過ぎだ。火傷するだろ」


「んも~、ホントに頼りないのネ、アンタたち。貸しなさい!」


 マリリンは二人の手からパックをひったくり、単刀直入に言った。


「プラチナ。これ、この子の体温くらいまで温めて」


「暗号解読、完了しました。温めながら、読み上げますか?」


「ええ。そうして頂戴」


 するとプラチナは、情感豊かに、手紙を朗読し始めた。


「『便利屋さんへ。私は、この惑星の先住民族です。山に住んでいました。けれど地球人に捕まり、この子を産みました。最初は私を珍しがっていた地球人ですが、だんだん命の危険を感じるようになったので、この子を連れて逃げ出そうと思います。私に万が一の事があっても、この子だけでも守って貰おうと、この手紙を書いています。どうか、どうか、よろしくお願いします』。この後に名前と思われる単語が書いてありますが、地球人の声帯では発音出来ないものです。レトルトミルクの温め、完了しました」


「ビンゴ。やっぱり、依頼人だったな」


 ロディが煙草に火を点けようとして、マリリンに睨まれ、しょっぱい顔でそれをしまった。


「イエティか……大金を支払えたって事は、どこかの富豪にでも狩られたか」


「我が子可愛さの、嘘かもしれねぇぜ? どの道、金づるじゃなくなったんだ。どうする、ラド。シェリフに通報するか」


「冷血漢。こんなに可愛いのに、シェリフになんて任せられないワ」


「でも、オレたちゃボランティアやってる訳じゃねぇぜ」


 便利屋などをやっていると、時に、他人の人生の分岐点に関わる事もある。ロディの物言いは、冷たいようにも聞こえたが、必要な選択だった。

 だがラドラムは、フォレストグリーンの瞳を爛々と光らせて、取って置きの悪戯を思いついた悪童の表情カオで片頬を上げる。


「いや……この子は、使えるぜ。プロを使って殺そうとしたって事は、この子が公になっちゃマズイ立場の奴って事だ。未知の生命体を、連邦に報告もせず手篭めにしたんだからな。父親を探し出して、大金をふんだくる。この子は、自立出来るまで俺たちが育てる。どうだ? 子育てなら、プラチナとマリリンがエキスパートだ」


「ちょっと、プラチナはともかく、アタシは育児した事ないワヨ!」


 マリリンから抗議が上がったが、ラドラムは一笑に付した。


「レディとドクターの嗜みなんだろ?」


「仕方ないワネ……男って、ホント身勝手」


「妙案とも言えるが、そいつぁ、ちぃっとばかし危ない橋じゃねぇか」


「ロディ、リスクの後には、大金ってメリットが待ってるんだぜ。人生、スリルがあるくらいがちょうどいいだろ?」


 ロディが頭を抱えた。


「ああ、忘れてた。お前さんはそうだろうよ。もっと堅実な船を選んでりゃ良かったぜ……」


「ねぇ、それより」


 あっという間にミルクを飲み終えた赤ん坊の背中をトントンと叩いて、手慣れた風にゲップさせながら、マリリンが提案した。


「育てるんなら、名前をつけなくちゃ。いつまでも、赤ちゃんて呼んでる訳にもいかないワ」


「そうだな……貸してみろ」


 ラドラムが、マリリンの手から赤ん坊を受け取った。顔を覗き込むと、赤ん坊は極薄いライトブルーの瞳をしっかり合わせて、白い綿毛に覆われた顔で声を上げ笑った。赤ん坊にしては豊か過ぎるくらい、くるくると変わる表情が、ラドラムにもあったらしい父性を僅かに刺激する。


「……仔猫の青キトゥン・ブルーだな」


「そうネ。とっても綺麗」


 生まれて間もない仔猫はまだ虹彩に色素が沈着しておらず、薄い青目に見えることが多い。これを『キトゥン・ブルー』という。赤ん坊は、ちょうどそんな瞳の色をしていた。


「男か、女か?」


「女の子ヨ」


「ようこそ。ブラックレオパード号へ。キトゥン」


 ラドラムの視線は新しいクルーを迎える船長の微笑みを、惜しみなく小さな彼女に注いでいた。


「え……キトゥン、って言った?」


「ああ。名前。キトゥンでどうだ」


「お前さんらしいな。仔猫ちゃんキトゥン、か」


「気障を売りにして生きてるもんでな」


 意外にも、クルーたちからは反対の声は上がらなかった。


「アンタが育てるって決めた子だもんネ。良いんじゃない? 可愛くて」


「決まりだ。キトゥン、お前の父親は誰だ?」


「アー……ダ……ダァ」


 ラドラムはふっと破顔した。


「言える訳ないか。……プラチナ、そういう事だ。世話を頼む」


 長い尻尾で確かめるように、ラドラムの頬に触れるキトゥンのふさふさした額に軽くキスをしてベビーベッドに寝かせると、早速プラチナがそれを揺らして彼女をあやし始めた。


「はい、分かりました。ラドラム。新しいクルー、キトゥン、データ更新しました」


「よし。そうと決まったら、情報収集だ。プラチナ、この子の父親に該当する男を、片っ端からデータ照合してくれ」


「はい、ラドラム。第一候補のデータを表示しますか?」


 その間隙のない返答に、ラドラムが座りかけたキャプテンシートから、危うく転げ落ちそうになった。


「もう分かったのか?」


「はい。先ほど読み上げた『手紙』に使われている紙ですが、非常に上質で、この惑星では政府要人にしか供給されていないものです。詳しくスキャンした所、メモ帳として使われていたようで、上の紙に書かれたサインと思われる人名の筆圧が一つ、見付かりました」


「メインスクリーンに、データを出してくれ」


「はい、ラドラム」


 返事と同時に、一人の初老の男の顔とデータが表示された。

 ロディが口寂しそうに、煙草のフィルターを奥歯で噛みながら、声音に焦燥を滲ませる。


「おい、ラド……。マジでやる気か? こいつ相手に」


「面白くなってきたじゃないか。しばらくは遊んで暮せるかもな」


「男って、ホンット最低!」


 そこには、この惑星の大統領アーダム・レムズの、有権者受けしそうな朗らかな笑みが、大画面に映し出されているのだった。

 データには、連続六期当選とある。地位にも名誉にも金にも、まだ未練があるだろう。

 元より、未確認の生命体を連邦に報告せずに独り占めしたあげく殺害した事実は、捕まればゆうに懲役三百年は食らうだろう罪だった。


「プラチナ。第三者が、こいつの名前をたまたま書いた可能性はないのか?」


「考えましたが、キトゥンが教えてくれました。彼女の父親の名前は『アーダム』と」


 言われてみれば、先ほどラドラムが問うた時、キトゥンが口にしたのは「アー」と「ダ」の音だった。


「まさか……まだ、生後二週間くらいヨ」


 ひとつの可能性に行き当たって、ラドラムはプラチナに鋭く切り込む。


「エスパー?」


「地球人が言う所のエスパーとは少し違って、元々種族的に備わった能力のようです。キトゥンの母親とも心を通わせていて、事情は飲み込めています。ベティと、ラドラムにとても感謝しています。……それと……」


 プラチナが言いよどむのは、修羅場の予感だった。


「……それと?」


 ラドラムが促すと、プラチナは合成音声を絞り出した。


「貴方の事を好きになった、と。急いで大きくなるから、『お嫁さん』にして欲しい、と……」


 不安に揺れるプラチナの声に、ラドラムは定位置、キャプテンシートに座ってタッチパネルに足を乗せて笑ってみせた。


「はは、尻尾の生えた花嫁か。俺にはロリコン趣味はない、安心しろプラチナ。俺が愛してるのはお前だけだ」


「私も愛しています、ラドラム。……浮気しないでくださいね?」


 宇宙船のA.I.には『男性型メールタイプ』と『女性型フィメールタイプ』と『無性型セクスレスタイプ』があったが、沢山の船を乗り継いできたロディも、この言葉には驚いた。


 一人でも船の航行を可能にする為のA.I.だったが、孤独を癒す為に、A.I.に性別が生まれた。

 だがこんなに真剣に、不要な筈の願いまでかけて、豊かに愛情を注ぐ言葉は初めて聞くものだった。

 キトゥンの存在が、プラチナの有り得ない筈の『こころ』を震わせているようだった。


「しない。お前だけを愛してる、プラチナ」


「私も愛しています、ラドラム」


「レトルトミルクを出しておくから、キトゥンが欲しがったら温めてやってくれ。世話はマリリンがするから、ベビーベッドの横に、予備のベッドを。船は港から出して、デデンの軌道上に乗せてくれ。今日の所は寝る。昨日、一睡もしてないんだ……おやすみ、プラチナ」


 艦橋には船長の為のキングサイズのベッドも収納されていたが、ラドラムはキャプテンシートで眠る事の方を好んだ。


「おやすみなさい、ラドラム」


 その声を聞くと、安心したようにすぐに寝息が上がり出す。

 ロディとマリリンは顔を見合わせて、こうなったらてこでも動かないラドラムを諦めて、


「アタシも寝るワ。イエティが何時間おきにミルクを欲しがるか分からないけど、子育てって大変なのヨ」


 ベビーベッドの横に、壁からセミダブルサイズのベッドがせり出してきて、マリリンはそこに座った。


「じゃあ、俺は部屋で寝かせて貰うぜ。育男イクメンじゃねぇんでな」


「シッシッ」


 マリリンは、わざと邪険にロディを追い払って笑う。

 ロディもしょげたフリを見せて、二人はそれをおやすみの言葉代わりに眠りについた。


 ブラックレオパード号が、軌道上を周回し始め、クルー全員が夢の中に居る頃だった。

 突然、最年少で新入りのクルー、キトゥンが奇声を発して泣き出した。

 横で眠っていたマリリンが、目を覚まして寝ぼけ眼を擦る。


「お腹空いたの、キトゥン……お~よちよち、そんなに大声上げないで。ラドを起こしちゃう……。プラチナ、ミルク温めといて。ちょっとあやしてくるワァ」


 欠伸交じりに言って、キトゥンを抱き上げて艦橋をフラリと出る。

 一瞬後、プラチナが『叫んだ』。それは初めての事だった。


「ラドラム! 起きてください! 危険が……!!」


 その言葉を遮るように、惑星デデンの一室から、命令が下された。


「撃て! 確実に艦橋を狙え!!」


 軌道上に、無音の爆発が起こった。ブラックレオパード号の漆黒のボディは大破し、宇宙に無数の破片をばら撒いた。

 それは中心部にある艦橋にもダメージを与え、メインスクリーンには亀裂が入り、何処かから急速に空気の漏れる音と、電子回路がショートする音が響き渡った。


 ラドラムは、頭から大量の出血をして倒れていたが、かろうじて意識を保っていた。手首のウェアラブル端末に怒鳴る。


「総員退避! 自分の命を一番に考えろ!!」


 それは緊急を告げる大音量のブザーと共に、艦内にそのまま放送された。

 ベビーベッドの方を見ると、そこにマリリンとキトゥンは居なかった。

 良かった。ラドラムは、急速な酸素不足に鈍る頭で考える。


 やがて重力制御装置が壊れ始めたのか、瓦礫と共にふわりとその身体が浮かび上がった。

 ラドラムの赤い血液とキトゥンの為に温められた白いミルクが、珠になって空中で混ざり合う。


「クソ……駄目か……。プラチナ……愛してるぜ……」


 呟いて、ラドラムは意識を失った。

 その三秒後、艦橋の壊れた自動扉を、バリバリと火花を飛び散らせて破る黒革手袋が覗いた。まるで紙のように強固な扉を裂いて現れたのは、漆黒の長い髪をなびかせた、黒ずくめの青年だった。ラドラムより頭ひとつ半以上高く、百九十を超えるだろう。

 床をトンと軽く蹴って、天井の辺りに漂うラドラムの身体を捕まえると、肩に担いで今度は天井を蹴って素早く床におりた。


「私も愛しています、ラドラム。安心してください。死なせません」


 青年らしい精悍な声色で呟いて、彼はラドラムを担いだまま脱出ポッドの方へと泳いでいった。

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