落ちこぼれ少女の成り上がり

王水

1 落ちこぼれの少女

 「エステル君、悪いが君をうちの研究室に受け入れることはできない」


 きっぱりとした口調で断言され、私はトボトボと部屋を後にします。


「はぁ、ここもダメですか......」


 もう何度目でしょうか、こうやって断られるのは。

 私がここエトワール魔法学園に入学して、もうすぐ1年の月日が過ぎようとしています。

 その間、私は今のようにお願いしては断られることを何度となく繰り返して来ました。


 魔法学園には、2年生への進級に際し、ある条件が存在します。

 それは進級時までに、どこかの研究室へと所属することです。

 

 魔法学園の生徒には、魔導師として能力の向上の追及が常に求められています。

 各研究室では、率いる教授の指導の元、より専門的な魔法の研究や教育が行われており、授業以外での魔法の上達を図るのに最適の場所となります。

 それにも関わらず、研究室に所属しない、あるいは出来ない者は、魔導師としての素質に欠けると判断され、退学を余儀なくさせられるのです。


 その研究室への所属の打診を、私はずっと断られ続けています。

 別に私の身分や出自に問題があるとか、そういう止むを得ない事情があるわけではありません。

 私の実家は、この魔法学園が存在する正統グランフォール王国の由緒正しき侯爵家の一員ですし、生母も父の正室であり、侯爵家出身の列記とした上級貴族です。

 そもそもそれ以前に魔法学園には平民出身の生徒も数多くいます。

 身内に重犯罪者がいるとか、そういうのっぴきならない理由でもない限り、普通まずその出自が問題にされることはありません。


 理由はもっと単純なものです。

 そしてあまりに単純であるが故に、どうしようもなく私はこうして窮することになっているのです。


 そう、私は魔法が使えないのです。


 曰く、昔の偉い方が言ったそうですが、「魔法とは、生まれ持った才能が全てである。故に、身に付く者はすぐ身に付くし、そうでない者はいくら努力しても無駄だ」なんて言葉もあります。

 その言葉に従えば、私には生まれ持った才能が無いのでしょうか。


 そうして私は気が付けば、周囲から"落ちこぼれ"と呼ばれる存在になっていました。

 

 それでも私は、例え何と呼ばれようとも、魔導師としての道を諦めるつもりなど一欠けらもありません。

 ですが、現在私が崖っぷちにいるのは、否定しようがない現実です。

 どうしてこんな事になってしまったのでしょう。


◆◆◆


 魔法学園入学初日、学園付属の寮を出発した私は、ルンルン気分で大講堂へと向かいます。

 そこには私と同じ服装の、真新しい紺色のローブ型の制服を身に着けた生徒達の姿がありました。

 その集団へと混ざりながら、ようやく私は魔法学園に入学した事実を肌で感じ取ることが出来、喜びに顔を綻ばせます。

 そうしているうちにやがて、入学式の開始の時間となります。

 学園長や、王国のお偉い方達の挨拶や祝辞を聞きながら、私の胸の内はこれからの学園生活に思いを馳せていました。

 憧れの魔法学園に無事入学し、これからは立派な魔導師に成れるよう、学友たちと切磋琢磨するのです。

 そんな風な希望を抱きながら、私の学園での日々は始まりました。


 しかし、そんな浮かれた気分で居られたのも、初めのうちの事だけでした。


 学園生活が始まってから、半月が過ぎ、いよいよ初めての実技の授業の日がやって来ました。

 座学の授業で習うことの大半は、入学の遥か前、幼少期からずっと魔法の勉強を独学で進めていた私にとっては退屈なものでしたので、私はこの日が来るのをずっと待ち望んでいました。

 

 「全員、第3実習場へ集合だ。遅れるなよ」


 担当の教師の指示で、私たちは学園の外れにある実習場へと向かいます。

 実技の授業においても、制服から着替える事はありません。

 常在戦場の心得が云々だそうですが、良く分かりません。

 ただ、この紺色のローブは魔法具の一種であり、耐熱・耐衝撃・耐突刺などに優れ、また、自動洗浄機能のついた特殊なものです。

 お値段もそれなりらしく、授業料・入学料が無料という破格の条件で王国全土から生徒を募っているにも関わらず、毎年の入学者数があまり増えないのは、このような授業に必要な道具一式を買い揃えるのが大変な為だと言われています。

 それに私のように、遠方からやって来た人間は、学園の寮に入るか、学園都市内に部屋を借りる必要があり、必然生活費もそれなりに掛かります。

 私のような貴族出身の人間には、然程問題にはなりませんが、平民出身の方からすれば、いくら学費が無料でも、それ以外の費用が馬鹿にはならないのでしょう。

 そう考えれば、私は自身の境遇が非常に恵まれたものであることに嫌でも気付かされます。


 「よし、授業で習ったように、まずは周囲の魔力を感じ取る事から始めるんだ」


 魔法を使う為の最初にして最大の難関は、周囲の魔力を感知することだと言われています。


 魔法学園は、その性質上、魔導師が多く集まります。

 魔導師が多くいれば、その分だけ魔法の使用頻度も上がります。

 そうなると、大気中に存在する魔力がその分だけ活性化されます。

 体外魔力が活性化すればする程、魔力を感じ取ることは容易になるそうです。

 稀に、魔力がろくに活性化していない土地でも、魔力を感じ取り、そのまま魔法を使えるようになる人もいるそうですが、それは極僅かな例外に過ぎません。

 私もこの学園に来る前は、そういった例外を目指すべく何度も挑戦を重ねましたが、結局それは実ることはありませんでした。


 「おおっ、これが魔力なのか......」


 どこかから、驚嘆の色の混じった声が聞こえてきます。

 どうやら早くも魔力の感知に成功した人が現れたようです。

 声を上げた少年の手に、微かですが蒼い光が煌いているのが見えます。

 魔力の感知に成功すれば、その次の段階、魔力操作への挑戦権が得られます。

 その少年は一足飛びにそこまで至ったのでしょう。

 ......こういうのを天才という呼ぶのでしょうか。

 記憶では、彼は私と同じく侯爵家の出身だったはずです。

 ならば私と条件はそう違わないはず。私も負けていられません。

 そう思い挑戦を続けましたが、その日は結局、彼以外には、私含め誰一人も魔力を感じ取ることに成功したものは出ませんでした。

 その時は、始めはこんなものだろうと納得していたのですが......。



 魔法学園へと入学してから一ヶ月が過ぎ、2か月が過ぎました。

 その間、私は授業では勿論のこと、それ以外の余暇もほとんどつぎ込んで、魔力の感知に全力を傾けますが、努力の甲斐も空しく、未だに失敗続きです。

 そんな私を尻目に、私以外の貴族出身者の方達は、全員が魔力感知を成功させていました。後は早いもので、遅い人でも入学からニヶ月が経過した頃には、魔法の習得までこぎ着けていました。


 元々、この王国の貴族は、魔法によって栄達を果たしたもの達の末裔だと言われています。

 通説では、魔法の才能は、遺伝による影響が非常に大きいと言われています。

 親が魔導師ならば、子もまた魔法の才能があるのが一般的とされています。

 事実として、王国貴族の多くは、難関たる魔法学園を卒業し、国に正式に認可を受けた魔導師です。


 にも関わらず、私が魔法を使えるようになる気配は一向にありません。

 そうこうしているうちに気が付けば半年も経っていました。

 その頃になると、平民出身者にも魔力感知に成功した人が増え始めます。

 私以外の貴族出身者に至っては、既に全員が進学要件である、研究室への所属を達成しています。

 そんな中でも私は、一歩も前に進む事が出来ずただその場で足踏みしているだけでした。


 足掻き続ける私の苦悩など知らぬ顔で、無情にも月日は流れ、1年も残すところ、後僅かとなりました。

 もう猶予はほとんど残されていません。

 現時点で、私のように魔力感知すら出来ていない人は、もはや魔法の習得を諦めてしまったようで、既に学園から自ら退学してしまった生徒も数多くいます。

 魔力感知までどうにか到達出来た人は、残りの期間で研究室へと所属出来るように、必死に駆けずり回る姿が見られます。

 私もその中の一人です。

 もっとも私は彼らと違い、魔力探知すら達成できていないのですが......。

 

 それでも私は諦めるわけにはいきませんでした。

 なんとか学園に残り魔導師への道を歩みたい、ただその一心で、研究室への所属を目指します。


 侯爵家の息女という立場上、魔力感知さえ出来ていれば、将来性を見込んだとして、研究室への所属が認めさせる事は比較的容易だと言えます。

 ですが、それはあくまで魔力感知が出来ていればの話です。


 10年程前にも今の私と似た境遇に陥った貴族出身の生徒がいたそうです。

 その彼は、結局、魔法を使えないまま学園を退学となり、その数年後に失意の中で亡くなったと聞いています。

 そんなのは御免だという、後ろ向きな気持ちと、立派な魔導師になるという幼い頃に抱いた夢へと向かう前向きな気持ちが、綯交ぜになりながらも、私はひたすら足掻き続けます。


 いくつもの研究室へと、たとえ評判が良くない研究室だろうと形振り構わず、お願いして回りました。

 時に頭を下げ、時に幸いにも優秀だった座学の成績を全面に押し出し、時には侯爵家令嬢という立場すら利用して、思いつく限りあの手この手を用いてお願いしました。

 ですが、そんな私の悪足掻きも空しく終わります。

 どの研究室も私を受け入れてくれることはありませんでした。


「どうしたら魔導師になれるんでしょうか......」


 それでも諦めきれず、私は必死に打開策を思案します。

 何故そこまでと思う人もいるでしょう。だけど私は子供の頃からずっと魔法師という存在に憧れを抱き続けて来ました。

 その理由はいくつでも思い浮かびますが、切っ掛けは古の王国の王の物語を聞いた時でしょうか。


 曰く、その王は、強大な魔法を使い、多数の敵をたった一人で打ち払い、古の王国を作り上げた。

 曰く、その王は、古き神々を従え、古の王国に繁栄と栄光の日々をもたらした。

 曰く、その王は、魔法で大空を自由に駆け巡り、星々の彼方へと辿り着いた。

 曰く、その王は、魔法で疫病に苦しむ村々を救い、病魔を滅ぼした。


 そんな風に語られる偉大なる魔導師にして、かつてここグランダスト大陸に存在した、古の王国を統べた王でもあった人の話です。

 いくつもの逸話や英雄譚を持ち、現在では、現人神あらひとがみとしても語られる存在でもあります。

 幼い頃の私は、そんな彼の生き様に魅せられて魔導師を志しました。


 幸いにして、私は侯爵家の生まれであり、魔導師を目指すには適した環境にありました。

 正統グランフォール王国において、爵位持ちの貴族は例外なく全員が魔導師です。

 当然、跡継ぎたる人間もまた魔導師でなければなりません。

 その為、大貴族の家には、その子弟を魔導師として教育する為の書物などが揃っているものです。

 私の実家である、クロドメール侯爵家もその例に漏れず、様々な魔法関係の書物が、書庫へと保管されていました。

 幼少の頃から、私はその書庫に入り浸り、魔法の知識を只管ひたすらに蓄えていたのです。



 そんな恵まれた環境にいたはずの私ですが、現実はそう甘くはありません。

 今、私は幼い頃からの夢が破れる瀬戸際に立っています。

 だけど、諦めるという選択肢は私には選べません。

 ......ならば、私に出来るのは、ともかく行動するしかありません。

 何かをしなければ、奇跡など決して起きはしないのですから。


 研究室が立ち並ぶ敷地内を、目を皿にして歩き回ります。

 まだ、お願いしていない研究室を探すためです。


「う~ん。お願い、どこか......」


 祈るような気持ちでそう呟きます。

 ふと、敷地の隅っこに見慣れない建物があるのが目に映りました。

 研究室にしては小さいですが、妙に小奇麗な建物でした。


「こんな建物、前に来たときにありましたか?」


 何か違和感を覚えますが、そんなもの気にしてはいられないと、その建物の扉を開けます。


「おや、予想より3日程早かったね」


 中には、20代前後に見える若い男性がいました。

 透き通るような銀髪に蒼い瞳、容姿はエルフと見紛うばかりに整っています。

 ただエルフの特徴である長い耳が見えませんので、どうやら私と同じヒューマンのようですが。

 男性はソファーへと腰掛け、本を片手に優雅にコーヒーを飲んでいます。

 部屋の中には、向かい合わせのソファーとその間にある小さな机、ただそれだけしかなく、その他には何も見当たりません。


「すいません。どうやら間違えてしまったようです」

「いやいや、間違っていないよ?」


 そこから立ち去ろうとする私を、その男性は引き止めます。


「ですが、ここは......」


 どう見ても研究室ではありません。

 研究室というものは、もっと資料やら実験道具やらがあるものです。

 こんな何もない部屋で、一体何を研究するというのでしょうか。


「君は研究室を探しに来たんだろう?なら間違っていないよ。ここは間違いなく僕の研究室だ」


 そう言ってその男性は、微笑みながら部屋の奥へを指で示します。

 その先にはいつの間にか扉が開かれてあり、その奥には広い部屋があるのが見えました。

 ......そもそもあそこに扉なんてありましたか?

 そんな疑問に耽る間もなく、男性が言葉を続けます。


「僕の名前はレイン・サウスパレス。......そうだね。レイン先生とでも呼んでくれればいいかな。ここは......そう。サウスパレス研究室ってことになるのかな」


 初めて聞く名前の研究室です。

 ずっと私でも入れる研究室を探し回っていたので、まだ、私の知らない研究室が存在していることに驚きを隠せません。

 矢継ぎ早に紡がれる言葉の雨に、私がろくな反応を返せずにいることなど、まるで気した素振りも見せず、なおも話は続きます。


「君は、僕の研究室に入りたいってことでいいんだよね?なら決まりだ」


「......今、なんとおっしゃいましたか?」

 

 聞き間違えでしょうか?

 思わずそう問い返してしまいます。


「だから僕の研究室に君を歓迎すると、そう言ったつもりだけど?」


 どうやら、勘違いではなさそうです。


「えっ。あの、私が、研究室に入っても......いいんでしょうか?」


「勿論だよ。僕の研究室に所属する条件は唯一つ。それはこの部屋へと辿り着くこと。そして君はそれを満たした。ならば君が僕の研究室に入るのは必然だろう?......それともまさか既にどこかに所属済みなのかい?」


「い、いえっ。どこにも所属していませんっ」


「なら決まりだね。君がこの学園での僕の教え子、その第一号だ」


 あまりに良く分からない展開に、私の脳内は混乱の極致にありました。

 これは夢でしょう。夢に決まっています。夢に違いありません。


「あのこれって夢ではないでしょうか?それに私、魔力感知すら使えませんし......」


 言って、余計なことを口走ったことに気付きます。

 折角、私を受け入れてくれる研究室が見つかったのに、今更何を言っているのか。

 あまりの自分の馬鹿さ加減に、思わず泣きそうになります。


 だけどレインと名乗るその男性は、そんな心情など見透かしたように笑顔を消し、こちらをその蒼い瞳で見つめてきます。


「今現在に魔法が使えないなんて些細な問題だよ。そう......本当に些細な問題だ」


 そう呟きながらレインさんはこちらへと手の平を向けてきました。


「少しびっくりするかもだけど、これで君の不安は解決する。だけど......いやこれ以上は余計な言葉かな」


 そういってこちらへと伸ばした手の平から、青白い光が飛び出してきます。

 その光はそのまま真っ直ぐこちらへと向かい、そのまま私の全身を貫きました。


「えっ、あ......」


 私は全身が弛緩する感覚を受け、思わず膝をついてしまいました。


「一体、何を?」


「これで君の不安は解消されたはずだよ、エステル君。......試しに周囲の魔力を探ってごらん」


 突然何を言っているのか。私の言葉を無視してそんなことをいう男性に憤りを感じます。

 魔力の感知が出来ないから、私はこうして駆けずり回っているというのに。


「さあ、ほらやってみなよ」


 そんな有無を言わさぬ勢いに押されて、出来るはずがないと思いつつも、私は魔力感知を試みてしまいます。


「あれ......これ、は?」


 私の周囲に漂っている、水のような粒子のような、そんな不思議な存在が有ることに私は気づきます。

 初めて感じる不思議な感覚です。

 思わず目の前の男性を見つめると、彼はいっただろうと、そう言わんばかりの表情をこちらへと向けてきます。


「なぜ......どうして?今までどんなに頑張っても出来なかったのに......」


「それはね、まあ詳しく説明すると長くなるから簡単に言えば、エステル君は魔力孔が閉じていて、それを開いたから使えるようになった。そんな所かな」


「魔力孔?何ですか、それは?」


 魔法に関しては、それなりに詳しい自負のある私ですが、耳にしたことが無い言葉です。


「まあまあ、細かい話は今はどうでもいいじゃないか。話を戻すとしよう。君の研究室の件だけど、うちに所属してくれるってことでいいかな?」


 そう言われ、私は本来の目的を思い出して、我に返ります。

 少しだけ冷えた頭が、現状をキチンと認識してくれました。

 今重要になのは、私が魔力感知を使えるようになったという事実、そしてそんな私を受け入れてくれる研究室がある。その2点だけです。

 それらに比べれば、魔力感知が出来るようになった理由など、些細な事です。


 後は、私が選択するだけです。

 勧められるままにレイン先生・・の研究室に所属するか、他の研究室を探すか。

 魔力感知を身に付けた今ならば、他の研究室だってきっと私のことを受け入れてくれる事でしょう。


 しかし、私の心は既に決まっていました。

 レイン先生はちょっと変わった人のようですが、優秀なのは恐らく間違いないありません。

 そんな人の元でこれから魔法の指導を受けることが出来る。

 その事に一体何の不満があるのでしょうと。


 そして今更ながらに気付きます。

 研究室に所属すれば、2年生への進級要件を満たせます。

 それは立派な魔導師になるという夢への道がまだ閉ざされていないことを意味します。


 気が付けば私の眼窩から、とめどなく涙が溢れていました。


「あ、あれ、私なんで泣いて......。ぐすっ。どうか私を先生の研究室に所属させて下さい。お願いします!」


 涙を拭いながら、これでもかというくらい思いっきり頭を下げました。


「うんうん。僕としても君が所属してくれると助かるよ。色々とね。ただ......」


 そう前置きして、レイン先生は念を押すように言います。


「僕の指導は、多分物凄く厳しいけど、頑張ってね」


「は、はいっ!魔導師になるという夢が叶うなら、どんなきつい事でもきっと乗り越えてみせますっ!」


「うんっ。いい返事だね。期待しているよ。じゃあまずは最初の指示を出そうか。寮から荷物を纏めてここに引っ越しておいで」


「......へっ?それはなんででしょうか?」


「勿論、指導の時間を少しでも長くとる為だよ。時間は無限にあるけど、だからといって僕はそれを待ってられるほど気は長くはないんだ」


 後半は何を言っているのかいまいち良く分かりませんでしたが、指導を長く受けれるならば私にも否はありません。


「は、はぁ。わかりました。レイン先生のおっしゃるとおりにします」


「はは。そう畏まらなくていいよ。長い付き合いになるんだ。もっとフランクに行こうじゃないか」


 なるほど、これから卒業までおよそ5年。確かに長い期間です。

 その時はそう思った私でしたが、レイン先生の言葉の本当の意味に気付くのは大分先のことでした。


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