2-10 三春さんのあだ名はのゐのゐ

 港へと向かう途中にポツリとキリンが言った。「いい女だったな、のゐ子」


「呼び捨てなんだ」


 キリンはぼくの突っ込みをスルーした。「奥ゆかしいところがたまらんな。今時のガキ共にはない可憐さと品がある」


「でもさ、前にも会ったことあるんだよね?」


「お袋さんが亡くなってるのは知らなかったからな、あの気丈さにグッときちまった」


 ユニカ先輩に似てたからじゃなくて? という言葉を呑み込んで違うことをぼくは言った。


「大丈夫、きっと今後もちょくちょく会えるよ」


「なにゆえにそう思うのだね?」


「だってRPGで言ったらあの子、見るからに脇役じゃないから」


「ほんとか?」


「うん。だからあっち行ったあとも、何かしら理由付けて再登場すると思うよ」


「違ったらのゐのゐに変装の刑だからな?」


「もう、なんでそうなるの。ってゆうかあだ名に昇格したね?」


 キリンはまたぼくの突っ込みをスルーした。「のゐのゐも言ってたじゃねえか、『おなごさん』かと思いましたって」


「!」


 そうなのだ、これは打ち解けたあとに聞いた話なのだけど、三春さんは最初ぼくを見たときに、一瞬女の子だと思ったらしい。思ったというか、判別したということになるのだけど。


「それより、どうするの? 航空部隊に行くの? 行かないの?」


「まあそうむくれるなって。ますますかわいいぞ?」


 ぼくはキリンに肩パンを決めた。「だからどっちなの!」


 キリンは例によって気持ちよさげに肩をさすった。「つか、もう向かってるだろうが」

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