それでもこの世界はきっと楽しい
烏丸伊月
プロローグ
気になったいたことではあった。
なんとなく、そんな気がして、ふりかえれば、あわてたようにうつむかせる。
きっと……とか、たぶん……とか、都合のいいことを考えて。
でも……とか、やっぱり……とか、そういうことも考える。
自分からはうぬぼれているようで言えない。
いつもより、ちょっと、ふとしたときに、見てしまうだけ。
友達と話しているときは、そんな子供みたいに笑うんだな、とか。
すっぱいのが嫌いで、ピクルスをぬいてからハンバーガーを食べるんだな、とか。
ただ返事をしただけなのに、ちょっと耳からはなれなかったり、とか。
毎日じゃないけど、ひとつずつ、知っていくことがふえていく。
ヘンじゃないだろうか。キモチワルイとか思われるんじゃないだろうか。
こういうことを考えるのが、似合っていないようではずかしくなる。
だから、いつも通りに。
話しかけないで、見つめないように。見つめられても、さりげなく見るだけで。
期待と勘違いにはさまれて。
そんな心に酔っぱらう自分がバカみたいで。アホらしい。
きっと、今日も会うだろう。
話せるだろうか。声が聞けるだろうか。笑顔を見ることができるだろうか。
もし話せたら、声が聞けたら、笑顔を見ることができたら――。
だけど、本当に、そうだろうか。
話しているのは、ほかにもいる。
声を聞いているのは、ほかにもいる。
笑顔を見せているのは、ほかにもいる。
ほかにも、ほかにも、ほかにも……自分だけでは、ない。
夢からさめるように、頭がひえていく。
たまたまが多いだけで、偶然が繰り返されてるだけで。
きっと、ただそれだけなんだ。
なんでもないように心が落ち着く。すこしのがっかりと、すこしの安心と。
今日も会うだろう。いつも通り会うだろう。
おはようと言えるだろうか。
こんにちはとすれ違うだろうか。
また明日と手を振ってくれるだろうか。
それだけで、それだけで…………。
きっと、ただ、それだけのことなんだ。
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