危険はなさそうなので 着替えをします 2

 何個かついてくる光の玉もあったけど先輩は全く気にせず進み続け、俺達の荷物に近づく。

「ほらほら、持ち上げるから離れないと危ないよ」

 荷物にくっついていた光の玉達にも軽く声をかけつつ、素早く俺のリュックと先輩の革鞄とドラムバックを持ち上げ、何事もなくこちらに戻ってきた。

 同時に、一旦は離れた光の玉達も、笑い声を上げながらまた俺達を取り囲む。

 ……もう照明だと思ってその存在から意識を外すことにして、再び座り込んでいた俺は先輩を見上げた。ズボンは履き直したけど、またずり落ちるかもしれないから立てないともいう。

「お待たせ」

「ありがとうございます……」

 さっきの出来事は恥ずかしくて、小声で礼を言うと渡されたリュックを受け取る。

 膝の上に乗せたリュックの開けると中身の半分は濡れていた。中に入っているのは財布、弁当箱、タオル、筆記用具、そしてビニール製の巾着袋で濡れずに済んだジャージ。

 当然、ジャージは男の時に着ていたものだから、女になった今の俺が着たらさっきの制服の二の舞になるであろうサイズだ。

「…………」

 俺は少し考えてからジャージの入った袋を取り出すと、先輩に声をかけた。

「先輩。これよかったら着てください」

「ん? いいの?」

「はい。

 今日の体育で一度俺が着たやつでも良ければ。

 その、今の先輩じゃあ女子のサイズのジャージもきついと思うんで」

 多分先輩は自分のジャージに着替えるつもりなんだと思う。確かに制服よりかは伸び縮みする素材だから着れない事もないだろうけど、無理やり着ることになるからつんつるてんな姿になることは間違いない。男になった先輩は身長もかなり伸びているし、細身とはいえガタイも華奢だった女子の時よりずっとたくましくなっている。

 スカートのホックが吹っ飛んでファスナーが半ば開いた状態で腰に纏わりついているのが何よりの証拠だ。

 さっきから先輩も「きつい」「動きにくい」ってしきりに言っているし。

 何より、

「いつまでもずぶ濡れのままでいるのも、風邪ひきそうですから」

 幸いにして水温も気温も高いから寒くはないが、だからと言っていつまでもずぶ濡れ状態のままなのは身体に悪いだろう。

 そう考えて濡れていないジャージを差し出すと先輩がふわりと微笑んだ。

「ありがとう」

 その表情が女子だった先輩を連想させて、俺の鼓動が跳ねた。

「い、いえ。

 多分俺がこのジャージ着てもぶかぶかでしょうし、最悪さっきの二の舞になるかもしれませんから」

「なるほど。

 じゃあ私のを依澄君が着ればいいのか」

 先輩が言いながらドラムバックのファスナーを開ける。

 そうか、先輩のジャージなら今の俺の方がサイズは合うだろう。

 これで俺も立ち上がることが出来る。

 期待に胸を膨らませて先輩を見つめる。が、何故か途中で先輩の動きが止まった。

「どうしました?」

 もしかしたら、持っていると思っていたジャージが入れ忘れか何かで入っていなかったんだろうか。

「……あ、あの。先輩から借りれなくても、俺のジャージは先輩に貸しますよ」

 よくよく考えれば、女子の、しかも使用済みであろうジャージを着用するのは俺にはハードルが高い。

 何とか工夫して今のぶかぶかなズボンを履いていた方がまだマシだ。

 そう思い直して声をかけると、「いや、確かにジャージは持っていないんだけどね」とどこか申し訳なさそうに先輩が応える。

 と、同時に手にした「もの」をドラムバックから引き出した。

「げっ」

 それが視界に入った瞬間、俺の口から心底嫌そうな声が出る。

 

 パステルブルーのミニスカドレス


 今度の劇で使うから、と部費で購入された衣装だった。

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