危険はなさそうなので 着替えをします 3

 今年の文化祭で披露する『不思議の国のアリス』――をパロった劇。

 原作にあるアリスの巨大化や極小化を表現できないから、という理由で代わりにアリスが松岡修造みたいになったりマツコ・デラックスみたいになったりして不思議の国の住人を圧倒するという話だ。

 アリス役は三人いて、通常モード、修造モード、マツコモードをそれぞれ担当。

 通常モードのアリス役に先輩が選ばれて、俺はいつもどおり大道具作成。先輩は日々練習に励み、裏方の俺はそれを横目に大道具の作成に取り組んでいた。

 今日もそんな感じで部活動の時間を過ごして、いつものように先輩と一緒に帰った。


 ――それが、どうしてこうなった。


 目の前に突き出されたパステルブルーのミニスカドレス。

 それを手にした先輩は申し訳なさそうにしつつも、『まぁ今の依澄君は女の子になってるから大丈夫、問題ない』と楽観的な雰囲気も醸し出している。

 先輩、問題だらけです。

「ごめん。これを家に持って帰るからジャージを置いてきたのを忘れてた」

「…………」

「大丈夫。ドレスは濡れてないよ。

 このバック防水性だから」

「…………」

「ほら、依澄君もいつまでも濡れたままじゃ風邪ひいちゃうから、思い切って着てみ」

「無理です!」

 先輩の言葉を遮って、俺は両手でバッテンをつくった。

 確かに今は何故か女になっているが、気絶してこんな場所にくるまで男だったんだ。スカートなんて履いたことがない。

 しかも低予算で収める為に古着屋で見繕ったパーティドレスを女子部員達が魔改造した結果、スカートはワイヤーが組み込まれて無駄に膨らみフリルとリボンがこれでもかと付け加えられ、劇でというより宴会芸で使われるような物体と化している。

 多分女子でも半分以上は着るのを拒否する。それぐらいイロモノなドレスだ。

「大体、何で衣装を持って帰ろうとしてるんですか」

「家で手直しするんだよ。ほら、遠目からだと水色一色で味気ないから、胸元にピンクのリボンをつけようと思って。すっごく大きいヤツ」

「まだやり足りないんですか!?」

 目の前でゆらゆらと振られるミニスカドレス。購入時のビフォーからものすごいアフターを経てまだ進化中ときた。

「もう十分に舞台映えすると思うけど、そのこだわりは俺にはちょっとわからないですね」

「そうかな。君だって限りある予算の中で妥協しないで舞台装置をつくる努力をするでしょう?

 似たようなものだよ」

「そんなもんですか?」

 と、そのまま話を流して誤魔化そうとしたが、

「そんなもんそんなもん。――というわけで」

 先輩には通じなかった。

「依澄君。あきらめなさい。

 大体、いつまでもここにいるわけにはいかないんだから、少なくとも服を着た状態で立てるようにならないと君も困るでしょうが」

 正論を述べられ、俺は観念してうなだれた。

 

 だが、俺にとって幸か不幸かこの場でのミニスカドレスの着用は何とか免れることができた。


 ――代わりにもっと激しい羞恥と戸惑いといたたまれなさに襲われることになったのだが。

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