第586話 痩せっぽっちの顛末
ジョンの話が終わると、少しの間、席に沈黙が流れた。
その雰囲気に耐えかねたように「帰ってもいいですか」と席を立とうとするジョンとエルマーを「まあ待て」と引き留めて、サラを見る。
「うん、お茶を淹れてくるから、あなた達も飲んで行きなさい」
サラの方も心得たもので、小さく頷くとお茶を淹れるために奥へ行く。
この痩せっぽっち2人組を、このまま帰すのはダメだろう。
橋の下に住んで下水溝のスライムを狩る暮らしが長続きするはずがない。
1月以内に野垂れ死にするか、病気で死ぬ。
サラのやつは、この手の話はダメなのだ。
農村に残してきた弟達のことを思い出すらしい。
今頃、奥で茶を淹れながら目を赤くしているだろう。
この2人組は、強さ弱さの前に、世渡りが下手すぎる。
この2人が今するべきことは、目の前にいるお人好しに全力でしがみつくことだというのに、あっさり帰ろうとするのだから、どうしようもない。
「さっきの話からすると、今朝は依頼を請けてないんだな?」
黙って頷く2人。
「ちょうど今、うちは人手が足りなくてな。あちこちに連絡をしなきゃならんのだが、昼間は人が足りない。数日間の話になるが、やる気はあるか?もちろん、報酬は出すし、飯も食わせる」
「「やります!」」
間髪いれず、返事が来る。
素直なことはいいことだが、冒険者として生きていくならば、本当は、ここで報酬について交渉しないとならないし、飯の回数についても確認しないとダメなのだが。
ギルドを通した依頼にしたい、と言えれば満点だ。
うちで仕事をした、という記録が残れば街の冒険者ギルドでは十分に信用を得る実績になる。
そのあたりも、おいおい教えていくしかない。
仕事の件は、昼間の連絡要員が足りないのは事実だ。
メールも電話もない世界で、基本的に連絡は伝言か手紙でおこわなれる。
そして、日々の連絡であれば組織内の下っ端が伝言という形で走って伝えにいくものだ。
会社(うち)も朝方であれば手伝いに来ている職人の子供に頼む手もあるが、彼らは昼前に帰すようにしている。
そうすると連絡のためには職人の誰かを走らせることになるのだが、そうなると靴の生産が遅れる。
しばらくすると、サラが茶を淹れたカップを運んでくる。
それまで茶を飲んだことがなかったのか、目を白黒させながら四苦八苦して飲んでいる2人を眺めているのは、少しばかり愉快な光景でもある。
「それで、どうなったの?」
サラが尋ねるので、しばらく会社(うち)で連絡をやらせる、と言うと嬉しそうに笑みを浮かべて腕をまくりあげた。
「そういうことなら、2人とも綺麗にしないとね!連絡役が不潔にしていたら、うちの評判に関わるんだから!それと今夜は汚い宿に戻るのはダメよ!また臭くなっちゃう!」
幸い、革通りには産業用の熱源もあれば水も豊富にある。
ついでに皮を加工したりするための薬品も備えられている。
薄汚れた少年たちを洗い上げるぐらいの設備にはこと欠かない、というわけだ。
サラがやせっぽっちの2人組を喜々として洗い場に連れて行くのを見送りつつ、茶の湯気を顔に当てて考える。
2人についての措置は、ただの対症療法だ。
駆け出し冒険者の問題は、なに一つ解決していない。
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