第466話 水車小屋の費用
「その・・・水車小屋を10箇所とは、聞いたことのない規模ですが」
「そうかもしれませんね」
「測量するのは仕事ですので構いませんが、それだけの費用は無駄になりませんか」
バンドルフィが心配するのは理解できる。
どこの領地に、10箇所も水車小屋を建てようという新任の代官がいるというのか。
水車小屋を建てるのには、金がかかる。
まず、水車小屋を建てるための場所を整備するのに金がかかるのだ。
立地の問題がある。
水車小屋は川べりの水平な土地に建てなければならない。
都合よくそのような土地は少ないから、盛り土なり礎石を積むなりして土地を均す必要がある。
土地を均すということは、すなわち人件費がかかるということだ。
川の流れも、一定であることが望ましい。
水路を開削し、場合によっては川底を掘り下げることもある。
その場合も、人件費(かね)がかかる。
川が増水で溢れたときに、水車小屋がまとめて流されるリスクも勘案しなければならない。
洪水対策に、水の逃げ道を作っておく必要もある。
それにも、人件費(かね)がかかる。
この世界での土木工事とは、全て人力で行われる。
ひたすらに人件費(かね)がかかるのだ。
「予算(かね)なら、あります。そこは心配しなくて大丈夫です」
なにせ前任の代官様が、せっせと蓄財してくれたのだ。
水車小屋建設という公共工事を通じて、村人達に還元する必要があるというものだ。
あとは、その労力が無駄にならないよう投資回収する当てをつけておけば良い。
「はあ・・・」
「なるべく手を加えずに済むところから始めようとは思っていますけれどね、拡張できるよう場所の余裕はほしいところです」
「それは・・・村の外になったとしても構いませんか?」
「む・・・」
指摘されてみれば、最適な立地は村の外、という状態も有り得る。
問題は、村の外周をそこまで伸ばすかどうかだ。
木の杭で囲う簡易な防衛施設とは言え、距離を伸ばせば費用が増える。
少しだけ考えて答える。
「いいでしょう。村の外も候補地とします」
結局、水車を用いた事業を始めれば村の人口は増えるし、増える人間は元冒険者や肉体労働を主体とする屈強な男達となるはずなのだ。村の外縁部に配置されても問題ない。
馬車溜まりが街の外れにあるように、艀と水車小屋も村外れにあるのが自然かもしれない。
「専門家の方と話すのはいいですね。こちらの視点を補ってくれます」
世辞ではなく心から賞賛すると、測量士は頭を振った。
「いいえ、こちらこそ代官様とお話ししていると、自分の仕事を、いかに小さな範囲で捉えていたのか気付かされます。お恥ずかしい限りです」
「たまたまですよ。いろいろな偶然が重なって、今の仕事についているだけです。代官としては新任の素人ですから、いろいろと知恵を貸していただけると助かります」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
やって来た時と同じように、早足で去っていく測量士を見送りつつ、あの若者とうまくやっていけそうな予感がしていた。
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