第464話 測量の重点

専門家と話す時は、まずこちらの目的を話し、ゴールを共有するのが良い。

ゴールを共有すれば、そこへ辿り着くまでの道筋の助言を受けやすくなる。


「今回、私の領地赴任にあたっては、かなり特殊な事情が働いています。その点については知らされていますか?」


まずは相手の知識と現状認識の確認である。

ニコロ司祭のところから派遣されてきたということだから、ある程度は期待しても良いのかもしれないが、ニコロ司祭にはいろいろと説明の足りない無茶振りなところがある。

こちらとしても、用心をし過ぎて困ることはない。


「ええ。いろいろと領地が綺麗に片付けられている、とは聞いています」


バンドルフィが頷く。


「そうですか。では、話が早い。私は今回の騒動を契機として、まずは村内の徴税を平等にし、水車の設置と水運の開通を両輪とした新規の事業を起こしたいと考えています。測量に当たっては、その2点を重視して測量をお願いしたいと考えています」


「なるほど。それでは、村の全周測量や隠し畑の発見については、いかがしますか?」


バンドルフィが尋ねる。

たしかに、村の全周を測量することで防衛体制の不備を修正したり、隠し畑を摘発することで徴税の平等を目指すということも重要だろう。

その種の依頼も多いに違いない。


「優先度を下げます」


「よろしいのですか?」


「ええ」


自分は村を富ませるために代官になるのだから、貧乏な農民の生きるための不正を摘発しても仕方がない。

隠し畑などというものは、徴税方式に誤りがあって、食えないから仕方なく作るものだ。

村内に安全なわりのいい仕事があれば、そんなことをする必要がない。


一応、村の外の周囲を見回らせはするが、それは冒険者の仕事であって測量士の仕事ではない。


「それは良かった」


バンドルフィは、目を細めて笑みを浮かべた。


「ずいぶん、嬉しそうですね」


「顔に出てしまいましたか。ええ、嬉しいのは確かです」


測量士は自分の顔をなで上げながら続けた。


「別の領地の仕事では、測量の最中にうっかり隠し畑を見つけてしまって、農民の方に追い回されることもあったものですから。領主に密告する気などないのですけれどね、そういうときは、だいたい話を聞いてもらえないものですから」


「それはそれは」


重い測量具を抱えつつ、怪物が出るかもしれない緊張感の中で藪をかき分けてみれば、地図にはない畑。

そこで作業していた農民達がギョッとして農具をこちらに向けてくる。

そろりそろりと下がりつつ、脱兎の如く走り出してみれば、相手は数と地の利に任せて追いかけてくる・・・。


「あまり経験したくない光景ですね」


「はい。何しろ、相手は私を逃せば命がない、と思っていますからね。領主の保護命令も、却って逆効果です」


一応、測量士は領主の命令を受けたことの証に青い色のついた布を左腕に巻くことになっているのだが、それが農民にとっては領主の手先と見えるわけだ。


「この靴を履くようになってから、ずっと安心して仕事ができるようになりました」


「そうですか」


何だか、俺の知っている測量士とずいぶん仕事が違う。

下手をすると、冒険者よりも命がけの仕事に見える。

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