第二十八章 専門家を活用して冒険者を支援します

第462話 測量士

翌日からは、楽しい楽しい仕事の再開だ。


男爵様の報告会への参加は、俺にとっても、またこの世界にとっても非常に重要な意味のあることだったと個人的には確信しているが、サラを含む新人官吏達にとってみれば、目の前の仕事を放り出して遊びに行っていたようにしか見えないらしい。


将来の布石よりも、明日の飯。

地平線の向こうまで小麦畑にする前に、目前に迫った領地の畑を整備せよ、ということである。

世知辛いことだ。


たまった書類を片付け、決済を続ける。


「代官様、測量を手がける者達が面談を希望しておりますが・・・」


「うん?面談は構わないが内容は?」


裁判以来、クラウディオは領地官吏の準備で新人官吏代表のような立場になっている。

面談があればクラウディオが受けて、俺に伝えることも多い。

今は、会社を空けていた間の予約を処理している真っ最中だ。


「詳しくは聞けておりませんが、測量の範囲について相談があるとか」


「なるほど。それは相談したいだろうな」


以前、別の村を調査した時に判明したことなのだが、村の測量はかなりいい加減だ。

法律をひっくり返してみても、正確に何年毎に行うと定められているわけではないらしい。

最低限の測量は開村時に実施され、村長が代替わりする際に改めて実施されることもある、という程度のものらしい。


村人を刺激せぬよう、赴任後にどんな理由で測量を行うべきか少しだけ悩んでいたのだが、今回の裁判騒動で現在の村長が失脚したのは、ちょうど良い機会でもある。


「それで、その測量士にはいつ会える?」


「日程の調整をしませんと・・・」


「いや、この手のことは早い方がいい。そうだな。午後に来るように行ってくれ。来たらすぐに会おう」


教会から紹介を受けて派遣されて来ているのだから、待たせるのは不味い。

それに、この世界の測量がどのように行われているのか、専門家の話も聞いてみたい。


クラウディオは、俺の表情を見て何かを諦めたように溜息をつき


「それでは、本日の午後の予定を調整します」


とだけ言った。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


その日の午後、件の測量の男が事務所にやってきた。

栗色の髪を切りそろえた、中背の意外に若い男だ。


「パンドルフィ、と申します。代官様」


「歓迎する、パンドルフィ殿。ええと、パンドルフィ殿は測量士でいらっしゃるのでしたな?」


つい確認するような口調になってしまったのは、その格好のせいだった。

元の世界では、測量をする人はツナギを着ているという印象があった。

だから、測量士は活動しやすい職人のような服装をしているもの、と漠然と想像していたのだ。


「ええ。まだ助祭の身ではありますが。測量士を勤めさせていただいております」


教会から派遣されてきた測量士は、聖職者の格好をしていた。


「お若いですね」


昔は言われる方だったのだが、最近は言う側に回ったのが少し哀しい。


ただ、測量士というのは技術職であろうから、もう少しベテラン然とした人間を寄越してくるかと思っていた。


「ああ、それは。測量士というのは若くないと務まらないのです」


パンドルフィは穏やかな声で言った。


「何しろ、我々は嫌われ者です。いざという時には、走って逃げ出さないといけませんのでね。この足で」


笑って、自分の足を聖職者の服の上から叩いて見せた。

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