第451話 男爵様の報告会
「しかし、いったいどうやったんだ。生きたまま怪物を城壁内に持ち込むのは違法だろう?」
一応、声のトーンを落として訊ねる。
賄賂か。そう言いかけて、否定する。
違法な持ち込みをしたのであれば、このように大勢に見せるはずがない。
何らかの形で許可、最低でも黙認を取りつけたはずだ。
貴族にも貴族法というものがあるし、ここは伯爵領だ。
統治に関わる責任は伯爵様にあるわけで、男爵様がその規則を曲げることは難しい。
すると何らかの特例をとりつけたことになるはずだが、男爵様のような学者肌の貴族に、その種の政治的なアクロバットを取り付けるだけの技量があるようには見えない。
そうなると、またしてもこの男(ジルボア)か。
俺がいささかの畏怖と共に見つめると
「そう大したことでもないさ。男爵様の晴れ舞台を、とくと見物しようじゃないか」
見れば、男爵様が聴衆を前にし、盃を掲げて演説を始めようとしていた。
「皆様、今回の私めの招待に応じていただき、まことに感謝の念に絶えません。私はそこの冒険者と共に、驚くべき冒険を共にし、そして驚嘆すべき成果を持ち帰って参りました。その体験と記録をぜひ、皆様に共有させていただきたく、今回の報告会を開催させていただく運びとなったわけであります」
なかなか滑らかな演説だ。
聴衆からは、パラパラと拍手があがる。
「それでは、今回の驚くべき冒険行を共にしてくれた冒険者を紹介しましょう!この街で随一の勇名を馳せる剣牙の兵団!街の守護者であり、新しき英雄とも讃えられるジルボア殿です!どうぞ前へ!」
指名されてジルボアが男爵様の隣へと移動する。
護衛としてついてきた連中も、キリクを残して全員がジルボアの後ろに立つ。
こうしてみると、貴族の隣に立ってもジルボアが明らかに上位の人間に見える。
実際に後ろに屈強な武装をした団員達を従えているということもあるが、まるで将軍の佇まいだ。
「今回は、ジルボア殿と剣牙の兵団の全面的な協力を持って、私は怪物たちの住処である北部の森林奥まで踏み込んで参りました・・・」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ジルボア殿、そろそろですかな」
専用に設計された馬車に揺られつつ、ベルトルド男爵は尋ねた。
北部の森林地帯に踏み込んで半日、なるべく拓けた場所を選んで進んできたとは言え、馬車で進むことは限界になりつつある。
「そうですね。そろそろ見えて来てもいいはずです」
馬上からジルボアが応じる。
人喰い巨人(オーガ)を求めての道行きである。
これまでは街からそれほど離れていない場所でも依頼や目撃談があったのだが、ここのところ怪物の掃討が効果的に進んでいるのか、以前より街に近い場所で怪物退治の依頼を受けることは少なくなっていた。
そのため、北部までわざわざ遠征し、その村での目撃情報を元に森林地帯の奥にまで踏み込んでいるのだ。
「これだけの森の奥でゴブリンの一匹さえ遭わないわけですから、より上位の怪物がいるはずです」
ジルボアの説明に男爵は頷く。
「新しい道具の調子はどうかな。うまくすれば捕獲できるはずだが」
団員達が携える様々な種類の武器は、今回の捕獲作戦のために専門の鍛冶に発注した特別製の道具だ。
男爵も想定される怪物の大きさや動きなどについて情報提供をし、意見を取り入れてもらったので思い入れはある。
「そうですね。ただ、訓練したと言っても実戦は別物です。最初からうまくいくとは限りませんよ」
ジルボアにとって、今回の依頼は団員達にとって絶好の訓練機会である。
剣牙の兵団の規模が拡大し、戦い方や訓練方法も効率が上がる一方で、冒険者や傭兵の経験が薄い新規の団員達には不測の事態に対する柔軟性や粘りに欠けるところがあるように見えている。
怪物の捕獲という別種の経験を積ませることで、少しでも練度を上げておきたい。
そういう思惑がある。
「なに!死体からでも学べることはいくらでもある!とにかく傷は少なめにな!」
ベルトルド男爵は調査行に興奮しているのか、意気軒昂に叫んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます