第423話 二転三転

裁判長らしき聖職者がプルパン側に問いかける。


「プルパン殿よ、そこのケンジという者は誘拐ではなく保護だと申しておるが」


「出鱈目です!」


小男が止めるまもなく、反射的にプルパン本人が返答を上げた。


「なるほど。その証言は出鱈目と申すか。それでは保護ではなく誘拐されたとの証拠を示すことはできるか」


「本人を目の前に連れて来てくれさえすれば、証明できます」


小男が慌ててフォローする。

あの男も、なかなか苦労しているな。


「このように申しているが、連れてくることはできるか」


「同意できません。私には次期代官として村民を保護する義務があります。身体の危険を訴えて避難してきた村民を危険にさらすことはできません」


「だが、村民は私の財産だ!こいつは盗人だ!!」


俺の問答に、激昂したプルパンが口を挟んでくる。

おいおい、そういう態度はやめといた方がいいんじゃないか。

見ろ、正面の5人の裁判官っぽい聖職者達が顔をしかめているじゃないか。


「なるほど。財産権。村民は財産である。そういうわけですね」


「そうだ!領地とそこに暮らす村民は財産!教会法にも貴族法にも記されている基本ではないか!これだから無知な平民は!」


俺の問いに対し、得意満面でプルパンが勝ち誇る。


「村民が逃げ出したということは、財産を預かる代官として、その義務を果たせないということですね?」


「そうだ!代官として預かった財産を減らすことはできん!そんなこともわからんのか」


「いえ、念のため確認したまでです。平民ですから、教会法に違反していないか心配だったのです」


「ふん!そういえば貴様は平民の癖に司祭様の威光を傘に来て随分と金貨を稼いでいるそうだな!どうしても村民を返したくなければ、金貨で買い取るがいい。それであれば、話に応じてやらんでもない」


もはや勝ったつもりでいるのか、得意満面で示談にしろ、金を払え、と主張する。

法外な値段をつけて、その懐を肥やすつもりだろう。


裁判官の聖職者も基本的には仲裁するつもりなのか、こちらの意向を尋ねてくる。


「それでは、村民を金貨で払うことに同意するか?」


実際、力の強い権力者と財産を持つ平民との訴訟であれば、幾ばくかの金貨を払って終わり。

その手の裁判も多いのだろう。

小法廷全体に、裁判はここで終わりか、という空気が流れ始める。


「いいえ。同意できません」


ところが、俺が明確な否定の意思を表明したことで小法廷の雰囲気がガラリと変わる。


「なにぃ!次期代官と思えば!平民の貴様に!この私がここまで譲ってやったというのに!」


プルパンが顔だけでなくカツラのズレた頭部まで真っ赤にして怒鳴る。


まあ、こちらもそこそこ修羅場を踏んでいる。たかが代官に怒鳴られた程度で今さら態度を変えたりはしない。


「同意しないのか」


再び、裁判官の聖職者に尋ねられる。


「同意できません」


「ふむ。何か根拠や反論、別の仲裁案があるのか」


頑なに見える態度を崩さない俺に向かって、何か別の案はあるのかと聞いてくる。

それなので、俺は別の案を出してやった。


「はい。自分はプルパン殿を、教会財産横領と侵害の罪で告訴いたします」


俺が宣言し終わるや、小法廷は怒号とざわめきに包まれた。

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