第384話 計画の計画

まずは計画を立てようとして、新人官吏達は、そこから一歩も進めないことに気がついた。


何しろ、新しい領地のことを誰も直接に見たことがないのだ。

統治経験があれば、書類の上から想像することもできたかもしれないが、全員が素人である。

そんなときには、どうしたらいいか。

代官であるケンジは、何と言っていたか。


「計画を立てるには、情報収集から。書類も大事だが、足を運べ」


と、シオンがケンジに言われたことを繰り返す。


「全員で行く必要あるかもな。その方が効率的である。何しろ、私たちには経験が不足している」


とロドルフが言う。兵団の人間はリアリストであり、かつ城壁外での活動に躊躇いがない。

積極的に、体を動かし、足を運ぶことに賛同する。

ところが、同じように足を運ぶことに躊躇いのないはずのサラが反対した。


「うーん・・・あたしは、全員が行く必要はあると思う。だけど、全員で行く必要はないかな、と思うけど」


「どういうことだ?」


「計画を立てるのに、やることはいっぱいあるでしょ?全員が一緒に行ったら、その間は作業が止まっちゃうから手分けした方がいいと思うの。だけど、全員が見ておいた方がいいとは思うから・・・」


「交代で行くってことだな。偵察班と本隊を分けて」


「えーと、たぶん、そんな感じ」


「なるほど、理に適っていますね。それで、残った班は何をするんでしょうか?調査活動の続きでしょうか?」


リュックがサラに賛成する。


「そうですね。私は貴族法を再点検した方がいいと思います。代官の権限について、何か見落としたがあったらいけませんし」


とパペリーノ。


「自分は赴任当日までに必要な物品などを、どのくらい調達するかの洗い出しをしておきたいですね。直前に購入するよりも、予め押さえておくことで費用の削減にもなりますし」


リュックも言う。


「測量士や巡回裁判士の評判を調べて、誰を連れていくか決める必要もあるんじゃないかな。ああいう人達は今、仕事が凄く増えていて各地で奪い合いだそうだから」


とロドルフ。


「待って待って!何言ってるかわかんないから、全員書いて!」


「書く?何を?」


全員が口々に言うのを制止して、サラが工房から持ってきたのは、大量の小さな板切れだった。

それを全員に示しながら説明する。


「前にね、工房がすごく忙しくて、全員で何をしないといけないかわけがわかんなくなっちゃったときに、ケンジ、ええと、代官様がやってたの。こうやって、何をするか板切れに全部書くの」


「羊皮紙ではダメなのか」


とロドルフ。


「ええとね、書いたら後で並べ替えるのよ。どれを最初にやって、次に何をするかとか・・・」


全員がサラの拙い説明に首をかしげる中で、最初に理解し、立ち上がったのはクラウディオだった。


「ほほう!それは面白い!なるほど!これは画期的だ!」


「なんだ。あんた、わかったのか」


とロドルフが説明を求める。


「指揮官がいて、それに従う兵団には少しわかりにくい概念かもしれませんね。これは、議論と似ています。むしろ、議論の整理に使えそうですね。おっと失礼。つまり、この方法を使えば、全員で話し合いながら計画を立てられるんですよ。この板切れの並びが、計画書になるんです!これは凄いことですよ!」


「何が凄いんだ?」


「つまりですね、指揮官がそれ程優秀でなくても、きちんとした大きな計画が立てられる、ということです!これは、小さな領地開発などに使うのは勿体無い。大聖堂を建設するときに、この方式が知られていれば、きっと物凄く効率的に進んだことでしょう」


クラウディオは、手を振り回し、唾を飛ばさんばかりに興奮して説明したのだが、その意義が残りの面々に完全に伝わったかは、かなり疑わしかった。


「まあ、とりあえずやってみるか」


と、ロドルフがポツリと言った。

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