第二十四章 新人官吏達が冒険者を支援します

第383話 新人官吏達の長い午後

領主であるケンジが、靴事業の指示をするため歩み去るのを待って、新人官吏達は猛然と話し合い始めた。

その内容は必ずしも建設的なものではなく、代官であるケンジの素性を探るものや、講義で示された新しい概念に対する困惑、示された仕事の大きさと困難さ、そういった口にされる話題は、解決のためでなく、短期間でつめ込まれ、常識に挑戦するような知識の数々に対する、ある種の逃避であったのかもしれない。


だんだんと口数が少なくなってくると、誰にともなく、あるいは、誰かが口にした。


「で、これからどうするよ」


しかし、その問に積極的に答える者はいなかった。


6人の新人官吏達は、各所属集団で優秀だと目されて派遣されてきたものであるから、己の能力に対する一定以上の自負はある。

だが、先程まで続いていた講義で己の信じていた優秀さ、というものが如何にちっぽけなものであり、世の中を変えていくという事業を主体的に率いていくためには、力不足を思い知らされたばかりであった。

そんな一時的に自信を失った状態であったから、誰もリーダーシップを発揮して、ということにはならなかったのである。


彼らが積極的に動き出せなかった要因は、もう一つある。

ケンジに与えられた仕事の自由度が大きすぎて、どうすればわからなかったのだ。

教会や兵団の組織の中で優秀であっても、やはり彼らは若かった。上の指示を聞いて動くことには慣れていたが、自分で計画を立て、積極的に動くという経験は不足していた。

だから、その中で最初に声をあげ、動き出したのが元冒険者であり、ケンジのやり方に馴染んでいたサラであったのは必然であったのかもしれない。


「まずは、計画を立てたらいいと思うの。どうやったらいいかわからなけど、ここにいる人達は、みんな頭がいいんでしょ?話し合ったら何かいい考えが浮かぶんじゃないかしら?少しぐらい間違ったって、ケンジ、じゃなくて代官様と話し合って直せばいいじゃない」


そうか、最初から完全な答えでなくとも良いのか。と、聖職者達は、今さらながらに確認した。

これはただ一つの正解を求めるための問答ではなく、改善を積み重ねることで正解に近づいていく方法論なのだ。

領主と交わした正義に関する議論を思い出しながら納得する。

時間はあるのだから、数回は修正できるはずだ。


兵団の2人の事情は、もう少し異なる。遠征なら慣れたものなので、自分達に必要な物資や手順などは目をつむっていても数え上げられる。


「問題は、領地まで護衛抜きで行ける奴が何人いるかだな。この中で、城壁の外で野営したことのあるのは何人だ?」


と問う。すると、兵団の2人の他は、サラだけが手を上げた。


「半分か・・・。こりゃあ、護衛がいるな」


そもそも、今の面子では無事に辿り着くことさえ出来そうにない。

新人官吏達の調査行は、なかなか厳しいスタートになりそうだった。

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