第二十三章 新人官吏を率いて冒険者を支援します

第373話 官吏達の始動

領地を管理する指標を議論するための認識が共通化できたところで、幾つかの注意をする。


「これから領地を管理するための指標をつくりあげるわけだが、今ある指標を無視するわけにもいかない。クラウディオ、通常の領地管理では、どのような数字を管理するべきか」


「はい。領地の基本は税です。ですから、喜捨の記録を追います。それから人口です。教会では生誕名簿を管理していますから、そちらを用いて村の人口を把握できます。また、治安や安全については、巡回裁判士への依頼や冒険者ギルドへの依頼を参照します」


既存の領地管理について教育をうけているクラウディオは、スラスラと答える。


「なるほど。よくわかった。ただ、これまでの議論を通じて、記録が現在では頼りにならない部分があるのも事実だ。それを指摘できる者はいるか?パペリーノ?」


「はい。人口については、近隣の村から流れてきた働き手がいる可能性がございます。それと治安についても巡回裁判士や冒険者ギルドへの依頼を通すことなく、村内で事件を解決している可能性が高いと思われます」


同じように教育を受けたパペリーノの答えにも淀みがない。


「ふむ。あとは何かあるか?」


「なにか、税金とってたりするんじゃないの?記録にない税金とか?」


サラが、負けじと答える。


「あり得るな。人頭税、竈税、賦役、そういった事実を調査する必要もあるな」


「村の収支を見る、という観点からは、村の畑開発に投資された額を見過ごすわけにはいかないのでは」


「ほう。いい観点だ、ロドルフ」


元貴族という経歴からだろうか。兵団から派遣されたロドルフは、土地の開発に高い関心があると見える。


「村に、隠れた借金があるかも」


同じく兵団から派遣された商人出身のリュックがつけ加える。


村民同士の借金や、村の人間が外部にしている借金、村自体の借金。

確かに、そういった貸借関係は調査しておく必要がある。

村の人間が外部の商人に騙されたりして、高利の借金などに手を出していたら、農村の立て直しもままならない。


「大体、出揃ったか?やはり、現在の村の収支の状況を明らかにしないと計画そのものが立たないな。そのあたり、前任の代官から数字を貰えたら楽なのだが・・・」


「その、いいにくいことですが正確な数字は出てこないと思われます」


クラウディオが、申し訳無さそうに答える。


「だよな。そこは諦めて地道に調べるか」


「「はい!やります!」」


クラウディオとパペリーノ、教会から派遣された2人の聖職者のやる気は、明らかに上がっている。

そうであればこそ、これだけ議論した価値があるというものだ。


よせ集めだった新人官吏達も、3日間の共同作業と、全員を交えた議論を通じ、段々と代官を補佐する組織として機能し始めている。


俺は官吏達の教育と育成に、しっかりとした手応えを感じ始めていた。

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