第361話 本当の競争相手
「よし、とりえあえず講評は終わりだ。次のチームは準備!」
そう声をかけると、サラのチームはバタバタと準備を始めたが、兵団から来ている商家出身のリュックから
「少し時間をいただけますか?発表の仕方を見直したいのです」
と意見があった。
「認めよう。発表準備ができるまで、休憩とする」
そう宣言すると、クラウディオから文句がでた。
「不公平ではないですか!私達の失敗を見た上で準備して発表すれば、彼らの発表がいいものになるのは当然ではないですか!」
思った通りの反応ではあるが、残念な反応でもあった。
「その意見はわかる。だが、クラウディオ、君は勘違いをしている」
「勘違いとは?」
「ここにいる私と6人は、競い合い、順位付けをする出世競争ゲームをしているわけではない。私達は全員がチームだ。一丸となって戦うべき相手は、領地の問題であり、農作物の生育を妨げる自然環境であり、村の発展を阻害する怪物の脅威だ。そのために、どんな対策をうったら良いか。その対策をうつために必要な情報は何か。その情報を調査するために各人がどんな役割を担うのが良いか。それを訓練する場として、3日間の調査活動があり、発表があるんだ」
そこで一度区切り、全員の顔を見ながら繰り返す。
「この発表は、全員の技能(スキル)を上げるための訓練なんだ。誰かを批判したり貶めたりするためのものではない。誰かが失敗するのをみたら、フォローして欲しい。そして自分で改善策を練って欲しい。誰かが上手くやっているのをみたら、真似して欲しい。そして、それを広めて欲しい。誰かが勝つための選考をしているわけじゃないんだ。全員で勝とう」
たった6人しかいない集団で序列を決めても仕方がない。
各人の上下を決めるよりも、方向性という適性を見極めることの方が重要だ。
なにより、チームとして機能し全体の成果をあげることの方が、さらに重要だ。
この考え方は、伝わるだろうか。
「全ては剣と盾の兄弟のために、ですね」
と、兵団から来ているリュックが、言った。
「それは、何ですか?何か、格好いいです」
と職人のシモンが聞いた。
「剣牙の兵団の、何というか、訓練や戦いの前に全員で唱和するお祈りみたいなものですよ。兵団は、剣盾兵の前衛、斧槍兵の中衛、弩兵の後衛が集団として機能しないと戦えないですからね。今の代官様の話を聞いて、団長の言葉を思い出したのです」
とリュックが説明する。
チームプレイという言葉は、まだこの世界にはないが、剣牙の兵団のような集団戦術を旨とする傭兵団や冒険者集団には似たような概念があっても不思議はない。もともと、チームプレイという概念自体が軍隊から輸入されたものなので、当然といえば当然なのだが。
やはり、剣牙の兵団の連中は、集団の中でリーダーシップを発揮することに慣れているな、という印象を新たにする。
剣牙の兵団は3種類の兵種を分割しても戦えるよう訓練しているとの話だから、その賜物なのだろう。
一度、ジルボアに頼んで訓練を見学させてもらった方がいいだろうか。
会社研修を自衛隊で行う会社のようで少し躊躇する気持ちはあるが、この野蛮な世界で生き抜いていくためのヒントがありそうだ。
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