第349話 豪華な食事
「美味しかったねーっ、あんなに豪華なご飯を食べたの、副団長さんの結婚式以来かも!」
サラは、すっかり丸く膨らんだお腹をさすりながら、ジルボアが手配した祝宴の食事について、その美味しさを喋りたくて仕方がないようだった。
「あたし、パンにあんなに種類があるなんで知らなかった!」
「それにお肉!すごく多かった!」
まるで欠食児童のような感想を漏らすサラに頷きながら、俺も先の宴席の料理を思い起こしていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ジルボアの用意した宴席は、元の世界の水準から見ても十分に満足の行く量と質だった。
最初の軽い食前酒に続き、運ばれてきたのは複数の種類のパンが入ったバスケット。
大きな白パン、丸く小さな白パン、黒パンあたりまでは当然として、平たく円形に固められたパン、八の字に拗じられたパン、ロールパンなどもあった。
いずれも剣牙の兵団の富裕さを示すようにたっぷりと塩とバターが使われており、もっちりとして濃い味のたっぷりとしたパンを、サラは夢中になって食べていた。
俺は、パンと同時に出された牛の肝臓のパテが気に入った。適度な苦味と塩がパンに合うのだ。
続いて運ばれてきたのは、兎肉と玉ねぎのシチュー。葡萄酒が隠し味に入っているらしい。
しっかりと煮こまれて柔らかく鳴った肉の旨味が濃縮されたシチューを、パンの欠片で皿まで拭って最後の一滴まで堪能する。
そうして、ようやくメインになる。
メインは牛と鶏の肉。
ニコロ司祭のところで出された肉は、どうも肉汁が少なくて物足りない味がしたのだが、ここで出される肉は妙な下処理のなされていない肉を丸焼きにした後で切り分けられたものであり、庶民(びんぼう)舌の俺やサラにも美味さがわかる。
そうして、血の滴る牛肉を食べた後には、鶏の丸焼きが待っている。
鶏は腹に香草を詰め込んで表面がパリッとなるまで焼かれた皮ごと切り分けられて、各人の手元に渡る。
きちんと処理された焼き具合の鶏の皮は絶品だ。
ソースもあるが、俺は塩をつけて食べる方がいい。
そうして、すっかり腹がくちくなったところで、果物のパイと茶が出てくる。
あまり酒に強くない俺に配慮してくれてのことのようだ。
貴族様の宴会だと、口の脂を流すためにお湯でわった葡萄酒が出てくる。
俺はどちらかといえばコーヒー党だったが、ないものねだりをしても仕方ない。
サラは甘い果物が好きかと思っていたが、パンや肉ほどには眼の色を変えていないのが意外だった。
単純に、食べ過ぎて腹に入らないだけなのかもしれなかったが。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「はー・・・お貴族様になったら、毎日、あんなご飯が食べられるのかなあ・・・」
とサラが言うのに、俺は答える。
「貴族様だって、毎日あんな食事はしてないよ。金じゃなくて、体が持たない。どんなに偉くなっても、口も腹も一つだけだからな」
ローマでは満腹になったら吐いて、また食べるという地獄のような習慣もあったというが、さすがにこの世界は、そこまで豊かではない。
「でもあたし、今日は口が4つにお腹も3つは欲しかったなあ。一杯食べたいものがあったもの!」
どんな怪物だ、それは。
「でも、今日のサラは口と腹が2つはあるように見えたぞ」
俺がサラの食べっぷりを茶化すと、サラは小さく拳を振り上げて怒った。
街の城壁に夕陽が傾き、急ぎ足で帰宅する人の列の中を、俺とサラは手をつないで歩いた。
たまには、こんな日があってもいい。
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