第335話 わかっているけれどイラッとする
「無理ね。死んじゃうわよ」
冒険者に最も必要な資質は、剣の腕でもお金を数えることでもない。
生き残ることだ、とサラは思っている。
だから、野外で活動する冒険者は、今の季節はどの植物が食べられるのか、水場はどこか、雨宿りができる小屋や洞窟はどこか、と言った知識を大事にするべきだと思っているし、怪物を矢で仕留めるのと同じくらい、夕食のために兎や鳥を仕留めるのは重要だと思っている。
そのあたりをケンジは理解してくれたが、他のメンバーは理解してくれなかった。
それでパーティーを抜けたわけだけれども、この3人の子たちは、それ以前の問題だった。
まず、自分の腕がわかっていない。
だから、相手の腕もわからない。
相手の力量がわからないから、迂闊な軽口を叩く。
自分の腕では手に負えない依頼を請ける。
冒険者としては早死するタイプだ。
「無理って・・・」
「だから、ゴブリンに囲まれて殺されちゃうわよ。あなた達、ゴブリンを倒したことないでしょ?」
勘だけれども、見ればわかる。
「・・・ないですけど、村に来たゴブリンを追い返したことはあるぜ、あっ、あります」
そんなことだろうと思った。
村を襲いに来たゴブリンを追い返すことと、ゴブリンの巣に踏み込んでゴブリンを倒すことは根本的に違う。
地の利が違う。敵味方の数が違う。戦意が違う。
「あのね・・・」
冒険者なんてやめたら、と言いかけてサラは黙った。
自分もそうだが、他の道があれば冒険者なんてやっていない。
農村に耕す土地と財産があれば、そこで暮らしたいに決まっている。
この子たちも、こんななりだが人生を切り開こうと必死なのだ。
とりあえず、本人達の希望通り買い物に付き合って、ゴブリン討伐に必要な品物を安く買い揃えるのに協力することはできるだろう。
それで紹介してくれたキンバリーへの義理は果たしたことになる。
それでも、そうすると、この子たちは高い確率で冒険者を「引退」する羽目になるだろう。
「どうしたらいいのかしらね・・・」
腕を組んで悩みだしたサラを、3人の少年たちは不安そうに眺めた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
自分の頭が大して良くないことも、学がないこともわかっていたので、サラは学のある人間に相談することにした。
少年たちには、明日の同じ時間にもう一度来るように言ってある。
そうして時間を稼いで相談する相手は、当然ケンジである。
どういう教育をうけたのか知らないけれども、ケンジはサラが知らない難しいことを、たくさん知っている。
元のパーティーのメンバーは時々気味悪がっていたが、知っていることはいいことだ、とサラは思うのだ。
「それで、どうしたらいいと思う?」
と一通りの事情を話してから、ケンジに聞く。
するとケンジは茶を啜りながら
「まあ、どうしたらいいか、って答えは幾つか思い浮かぶよ」
と直ぐに言った。
ほんと、こいつの頭の中ってどうなってんのかしら。
頭を開いたら小鳥が出てきそう。
「それで、サラはどうしたらいいと思うんだ?」
と直接答えを言わずに、ケンジが質問してきた。
最近は、こうやって答えを聞いても、質問で返してくることが多い。
イラッとすることもあるけれど、それがケンジなりの気遣いとか教育なのだとわかってからは、あんまり腹が立たなくなってきた。
それでも、ときどきはイラッとするけれど。
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