第334話 3人の駆け出し冒険者
「こんさる」としての最初の仕事は、キンバリーに紹介された駆け出し冒険者の買い物に付き合うことだった。
冒険者というか、田舎から出てきた男の子たちだ。
年齢は16歳とか17歳ぐらいだろうか。それが3人。
どの子も一張羅の解(ほつ)れと、肘や膝にあて布のついた服を着て、革のサンダルを履いて棍棒を持ち、背負袋ひとつに全ての財産が入る程度のものしか持っていない。
それでも、そばかすの浮かんだ顔には、目だけは将来の希望に満ちてキラキラしている。
あたしにも、こんな頃があったなあ、と温かい目で見ていると
「あーあ、女なんかに付き合ってもらうとか、母ちゃんのおっぱいしゃぶってる気分だぜ!」
と、一際生意気そうな癖っ毛の男の子が照れ隠しのつもりか、軽口を叩いた。
いい機会なので冒険者の流儀というのを教えてあげようかしら。
「そう」
と言うや、背中の弓と腰の矢筒から矢を一息の間に引き抜いて構え、ひょう、と矢を放った。
鏃(やじり)は生意気な口を叩いた男の子の右足と左足の間に勢い良く刺さり、勢い余った矢羽が股間に当たって、バチン、と音を立てる。
これでも物心ついた時から弓矢で遊び、数年間は弓兵として冒険者をしてきたのだ。
田舎から出てきたばかりの、ちょっと腕力自慢の鼻垂れの子供など、相手にもならない。
体の外側に露出した内臓を物理的に叩かれる痛みに悶絶し、背中を丸めて座り込んだ子に、あたしは言いわたした。
「あんた達ね、冒険者ってのは口じゃなくて腕で稼ぐ商売なの。軽口は命にかかわるわよ」
残りの少年2人は、青い顔で頷いた。
なめた口を叩かれて、そのままにしておく冒険者はいない。
まして新人が喧嘩を売った相手が、自分のように優しい相手でなかったら、その日が冒険者を引退する日になる。
最初にきつくお灸を据えておくのは、冒険者の先輩としての当然の心得。
今のは矢羽があたるように手加減したけれど、鏃を直接あてることだって出来たのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「それで、あんた達の名前は?」
狭い村社会では名乗る必要がない。全員が顔見知りなので、どこの誰かが挨拶しなくてもわかるから。
そのせいか、農村から出てきた子たちは、言葉が少なく挨拶ができない傾向がある。
だけど、冒険者の世界は、それでは渡っていけない。
ぼそぼそと口の中で何かを言っている様子の子たちには、弓弦を鳴らして
「あいさつ!」
と大きく声をかけると、弾かれたように真っ直ぐに立って3人の子たちは名乗った。
「お、俺はジャンです!」
「俺はジルーです!」
「俺はヘイルです!」
ジャン、ジルー、ヘイルね。
「それで、あなた達の依頼って何だったかしら。キンバリーからは買い物に付き合ってやってくれ、としか言われていないのだけど」
3人は誰が言うのか肘でつつき合っていたが、ジャンが前に押し出されて説明をしだした。
「お、おれたちでゴブリンを討伐する依頼を受けようと思うんですけど、最初だから何を用意したらいいかわからなくて、それでキンバリーさんに相談したんです。そうしたら、いい人がいるって紹介されて・・・」
「ちょっと待って。ゴブリンを討伐?3人で?以前に討伐の依頼を受けたことは?」
3人は揃いの仕掛けがついた置物のように、同時に首を左右に振った。
なんてことなの。
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