第312話 次は人喰い巨人を
次は、生きた人喰巨人(オーガ)を描きたい、というのが男爵様の希望だった。
「人喰巨人(オーガ)ですか・・・」
と俺は回答することを躊躇した。
身長は3メートル近く、人間を遥かに上回る膂力で棍棒などの武器を振り回す。
1体でゴブリンの群れ以上の戦闘力を持ち、厄介なことに単独行の時もあれば、数体で群れている時もある。
パーティーで人喰巨人を狩ることができれば、一流冒険者の入口だ、と冒険者達の間では言われている。
俺は自分の実力を知っていたので5年間の冒険者生活の中、人喰巨人を討伐したことはなかったが、分をわきまえず依頼に手を出した元の仲間たちのパーティーは壊滅した。
それぐらいの相手だ。
剣牙の兵団にとっては、人喰巨人討伐は難しい依頼ではない。
巣を発見し、おびき寄せ、弩兵で一斉射、斧槍兵で叩き潰して止めをさせば良い。
これまでに何度も成功している類の依頼だ。
だが、男爵様は生きたまま捕らえることを望んでいる。
そうして、先日の調査でゴブリンや魔狼にしたように、生きたまま生態を観察し、静かに殺した後で解剖したいのだろう。
そんなことが可能だろうか。
落とし穴に落としたとしても、身長が高く両手を使えるので登ってくるだろう。
丸太を握りつぶすという膂力をもってすれば、鎖で拘束することも難しい。
第一、どうやって無力化するというのか。
ゴブリンを殴りつけて気絶させるような真似は、人喰巨人には出来ないだろう。
どうするのか、とジルボアに視線を向けると
「装備を開発する者と話す必要はありますが、ある程度準備の時間をいただければ、可能でしょう」
と即答は避けたものの、力強く頷いた。
「そうか!できるか!それで、いつできるのだ!来週か?来月か!?」
と男爵様は両の拳を握りしめて、躍り上がらんばかりに喜んだ。
「まず、3ヶ月は待っていただきませんと」
とジルボアは性急にことを進めようとする男爵様を押し留めた。
「なぜだ!?なぜ、そんなにもかかるのか?」
せっかくの機会を焦らされた、と感じたのか男爵様は声を大きくする。
そんな男爵様に対してもジルボアは礼儀正しい姿勢を崩さず、しかし怯むことなく静かに説明する。
「まず、人喰巨人を生きて捕らえる方法を考えなければなりません。そのためには、おそらく特別な毒や、専用の鏃、新しい罠などを開発しなければなりません。まず、そのために2ヶ月はいただきたい。それから、実際に人喰巨人(オーガ)に試してみて、有効性を測り、不具合があれば改良しなければなりません。それで、さらに1ヶ月」
「迂遠なことだな」
「ですが、必要なことです。そうでなければ怪我人が出ます」
「怪我をするのも、冒険者の仕事ではないのか?」
男爵様が、諦めきれずに不満を漏らす。
「それが、必要であれば。団員達は私の手足ではありますが、自分の身体も同様の存在です。無駄な怪我はさせられません。それに準備が不十分なために出る怪我人は、団員であるとは限らないのです」
そう言い放ったジルボアに、男爵様はそれ以上の追求を諦めたようだった。
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