第289話 データの蓄積
「なんか冷たい感じするわね」
というのが、俺が説明した概念(コンセプト)に対する、サラの感想だった。
教会に配布する冊子で怪物の情報と見積もりが出され、アウトプットは(1か0かという意味での)デジタル情報のみであり、そこに怪物の恐ろしさとか、村人の困っている度合いなどの定性的な情報が入り込む隙はない。
人間の体温が感じられない、という意味で冷たいと言えば、冷たいのだろう。
だが、その冷たいデータの蓄積は、必ず冒険者達の力になるはずだ。
例えば、村が襲われた際に3体分のゴブリンの足跡が発見されたとする。
その場合、ゴブリン全体の群れの規模は10体以上、20体未満のケースが7割、といった具合に、事例を蓄積すればするほど、依頼内容の精度があがるようになる。
そうしてデータを蓄積するためには、データは集計が容易なデジタルである必要がある。
問題は、それを集積して蓄積していくだけの体制が普通の冒険者ギルド側にはないことだが、今なら俺が報告書を作る、という名目で、この街の冒険者ギルドに限っては蓄積してしまうことができる。
そうして、報告書の管理項目にしれっと入れこんでしまえばいいのだ。
報告書は、ウルバノを通じて王国の上層部に共有される。そこで数値管理が有用だと認められれば王国中にデータの蓄積という習慣が広まっていくことだろう。
「それに、そんなことまでお願いしたら、教会の司祭様のお仕事が大変にならないかしら」
教会の司祭は、聖職者としての教育も訓練も受けているし、村では学識ある人間として様々な相談を日常的に持ち込まれていることだろう。
そこに、さらに仕事を増やしてもいいのか、とサラは心配しているのだ。
「いや、むしろ教会の司祭からしたら、有り難いんじゃないかな」
教会に置かれる予定の冊子は、いわば怪物が村に出た時の冒険者への仕事依頼の方法マニュアルだ。
災害に備えたマニュアルがないよりは、ある方が安心できるだろう。
他にも、この仕組には利点がある。
「それに、これは教会の収入になると思うんだ」
「収入?」
俺が金の話を始めたことに、サラは戸惑ったようだった。
「そう。冒険者ギルドへの依頼を仲介してくれた教会には、ギルドから報酬を払う」
「そんなことできるの?」
「たぶん」
「たぶんって・・・・」
「それと、村人からの依頼料は教会が村から徴収する形したい。それで、教会は冒険者ギルドに立て替え払いする。立て替え払いの手数料は、教会が冒険者ギルドから受け取る。冒険者ギルドから教会への依頼仲介料は、そこから差し引くようにする」
「ちょ、ちょっと、よくわからなくなってきたわ。ケンジ、なんでそんな難しいことするの?」
全体の整理をしないまま話してしまったせいで、サラはすっかり混乱してしまったようだ。
一旦、立ち止まって話を整理してから説明を始めた。
「わるかった。説明が先走りすぎたな。やりたいことは単純なんだ。冒険者ギルドで貨幣による全額前金払いをやめさせたい。あれは、危険な上に効率が悪すぎる」
俺の発言に、サラは目を瞬かせた。
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