第203話 密会
ミケリーノ助祭の話では、ニコロ司祭の再訪まで2カ月ほど待つ、という話であったが、次の呼び出しがあったのは1カ月ほど後のことだった。
予想していたよりも、大分、早いタイミングだ。
それなりにニコロ司祭の興味を引けたと考えてよいのだろうか。
最近の教会との連絡は、冒険者ギルドと教会の間で提携したことで連携がスムーズになったこともあり、3等街区の教会か冒険者ギルドに行けば、ニコロ司祭の手紙を受け取れるようになっている。
報告書の共有もうまく行っているようだ。
地味な変化ではあるが、冒険者にとって教会の利便性が向上している実例と言えるだろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ニコロ司祭と会う場所は、教育に使用した2等街区の教会が指定された。
普通の話をするだけであれば、1等街区の大聖堂に併設された宿舎に呼び出されるはずだ。
また何か秘密の話をするのだろうか。
こちらから持ち掛けた話とは言え、やはり緊張する。
指定された時刻に教会で待っていると、ニコロ司祭とミケリーノ助祭が速足でやってきた。
そうして、俺とサラが待っているのを見ると、挨拶もそこそこにニコロ司祭が話し出した。
「うむ、先に来るとは感心なことだ。ミケリーノ助祭、説明しなさい」
「は、はい。本日は貴方の提案した事案について議論するために参りました。その構想についてですが・・・」
急に説明を割り振られたミケリーノ助祭が、抱えていた鞄から慌てて羊皮紙を取り出し、説明を始めたところでニコロ司祭が遮った。
「ケンジ、靴の話を聞こう。それで利益を管理する専門組織とやらについて、もう少し議論したい」
「はい、本日は、その説明をさせていただこうと考えておりました」
「うむ。まず靴販売の一部の利益を教会に喜捨として納めようという話は殊勝である。ただ、それをなぜ教会に直接納めぬのだ。何か理由があろう?」
「お察しの通りでございます。開拓者用の靴の販売量に応じて喜捨の額を変える、という方式は、教会の収入を管理する仕組みに合わないのではないか、と考えるからです」
「ほう。合わぬか。その理由は?」
「私が想像しますに、教会の主な収入は農地から入る喜捨と、生誕名簿の管理に付随する土地所有権の移転代行の手間賃である、と考えています。最近は、大商人を通して貴族の方に開拓事業の資金を貸し付けていらっしゃるようですが」
「ふむ。まあ、大きく違ってはおらん。あとは誕生や葬儀だな。特に大貴族の葬儀を執り行うことは教会にとって大きな収益となっておる。魔術による治療も行っているが、収入として大きくはないな。何しろ触媒の価格が高すぎるでの。それらとは違うと申すのだな?」
「はい。それらの収入は、言ってみれば教会の皆様が働くことによって得られる収入でございます」
「そうだな。資金を貸すこと以外は、労働による収入だな」
「ですが、開拓の靴を販売するごとに行う喜捨では教会の方の労働は不要となります」
「ほう。だが、我々の労働がないのに、なぜお前は教会に喜捨を行うのだ」
ニコロ司祭の眼が愉快そうに輝いた。
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