第十四章 事業を拡大して冒険者を支援します:ブランド管理編

第204話 教会の印

ニコロ司祭の疑念を放置するわけにはいかない。

俺は事業への効果について率直に説明する。


「それは開拓者の靴に教会が事業を認可した印をいれてもらうための費用でございます。それにより開拓者の靴が広く開拓事業に貢献し、合わせて農民の生活向上に貢献していることを認められ、冒険者や教会の方に競って購入していただけるよう、効果を狙っているのです」


だが、それだけではニコロ司祭は納得しない。


「ふむ。だが、それだけではあるまい、ケンジよ。おそらく、その印とやらがつくことで広く買われる効果がでれば、市井の商人達は競って印をつけることになろう」


「さようです。その商人達も、広く農村を支援する事業に参加して欲しいものです」


「だが、そうはなるまい。お前のように教会に手続きを取って印を入れるものだけでなく、教会に断りなく、また喜捨を行うことなく勝手に入れる者達も出て来るのではないか?」


ニコロ司祭の指摘は正しい。


「そうなるかもしれません」


「ふうむ。そうすると、それは問題になるであろうな」


「なるでしょうね。神の前に人は平等であるべきですから」


「そうだな。同じ印を商品につけながら、喜捨を行う者と行わぬ者が出てはならぬな」


「はい」


「それが理由か」


「・・・はい」


「教会を番犬に使うつもりか。全く、神をも怖れぬ所業だな」


そう言って、ニコロ司祭は苦笑いをした。


「だが、ケンジよ。この仕組みには確かに教会の将来にとって、大きな可能性があるな。そうであろう?」


ニコロ司祭は、さすがに、この方式が生む利益の大きさに気がついている。

それが、俺の靴事業など問題にならない利益であろうことも。


「はい。この仕組みを慎重に取り扱うことができれば、必ず枢機卿様のお力になるものと存じます」


そして、ニコロ司祭の権力(ちから)も増える。まあ、そこは言葉にする必要もないことだが。


「それで、なぜ別の組織に管理させようと考えたのだ。教会では駄目なのか」


確かにニコロ司祭の立場からすると、自分の管轄下に置いておきたいだろうから、説明を求めるのは自然だろうし、理由を聞かれるだけ自分が評価されていると考えるべきだろう。

俺は言葉を選びながら答える。


「教会の管理方法は、新しいやり方に馴染まないと考えます」


「それは何故だ」


「商品に印をいれたがる多くの雑多な商人を管理することが難しいからです」


「教会のように大きな組織では管理が行き届かず、不心得者が出やすい、ということか」


「言いにくいことではありますが、商人と管理者の双方に、おそらく」


「そうか。やはりでるか」


「そのために、規則を能動的、機動的に変えることのできる小回りの効く組織である必要があります」


「お前には、その組織の全体像について確固たる具体像があるようだな」


俺は頷いて、丸めていた羊皮紙を見せる。


「こちらが、利益を管理する組織の草案になります」


ニコロ司祭は、羊皮紙をさっと広げて短時間で読み終えると、元のように丸めた。


「・・・財務内容は公開するし、賄賂は許さぬ、ということか。ケンジよ、お前が聖職者でないことは、まったく惜しいことだ」


「ありがとうございます」


そう言って頭を下げた。


こうして、教会に新しく教会の印(ブランド)を管理する部門が誕生することになり、開拓者のための靴は、教会が印(ブランド)で稼ぐ方式の第一号製品となった。

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