第193話 刑罰の相場
自分はなるべく関わらず、流通の改革を図る手段はないか。
冒険者ギルドの改革を、官僚組織の命令系統を報告書を利用して遡ったように、何か梃子を聞かせる手段はないものだろうか。
俺が目を閉じ腕を組んで考え込んでいる姿に、何を勘違いしたのかグールジンが調子に乗って
「それで、こいつらはどうする?埋めちまうか?」
などと抜かした。
確かに、この手の実行犯を見せしめにすることで、一定の抑止効果はあるだろう。
力と恐怖による統制(ガバナンス)、というやつだ。
集団をまとめる方法の一つとして、否定はしない。
街から離れ、頼るものは自分達の武力と団結以外になく、周囲には怪物がいつ襲ってくるとも限らない状況の隊商で規律と士気を保つには、その種の強制力がないと舐められる、という事情もあるだろう。
だが、俺には向いていない。
会社(うち)に護衛はいても、敵を威圧し続けるだけの武力を恒常的に抱えることはできない。傭兵団とは違うのだ。
別の方法を考える必要がある。
だが、その前にやることがある。
「サラ、少し向こうに行っていてくれないか」
場合によっては、血を見ることもあり得る。
なるべく、サラにはそんな場面を見せたくなかった。
サラは何かを言いかけたが、大人しく別の部屋に行ってくれた。
俺は振り返ってジルボアに問う。
「ジルボア、こういう場合はどうするのが普通なんだ?」
「そうだな。こいつらは街の生誕名簿に載っていない連中だろうから、街の法では裁かれない。傭兵の慣例に従うなら身代金を払えなければ斬首。冒険者の掟に従うなら、装備を身包み剥いでやはり斬首。街間商人の掟に従うなら、やはり身包み剥いで山捨てだな」
山捨てとは、縛り上げた状態で怪物や野生動物の跋扈する山に放置する罪刑である。要するに自然の力を借りた死刑だ。
ジルボアが指折り数え上げる答えを聞いて、縛られた男達はすっかり震え上がってしまった。中には真っ青になり失神寸前の男もいる。
ジルボアも、なかなか人が悪い。
ついでに尋ねてみた。
「それじゃあ、秘密を洩らしたグールジンは、どうするのが普通なんだ?」
「街間商人の掟に従うなら、罰金を払わせた上で取引から外す。罰金が払えなければ財産を差し押さえる。差し押さえる財産がなければ舌を引き抜いた上で鉱山送りだな」
これもジルボアは指折り数え上げながら答える。
ジルボアのように秀麗な顔をした男が、微(かす)かに微笑みながら刑罰について声音を変えることなく解説すると、凄みと迫力がある。
グールジンのように激昂すると何をやらかすかわからない、という男も怖いが、ジルボアという男には、どんな残酷なことでも微笑んだまま実行しそうな怖さがある。
グールジンも、ジルボアの静かな迫力にすっかり縮み上がってしまったようだ。
「お・・・おい、冗談はよせよ。な、なあ、悪いのはガロンと、こいつらだろ?」
ジルボアはグールジンの言い分を全く取り合わず
「だが、秘密を漏らしたのはお前だ」
とだけ告げた。
グールジンには気の毒だが、もう少しこのまま見守っていようかな。
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