第131話 もとパーティーメンバーの行方

3人が、名簿から消えていた。


俺とサラを入れて7人のパーティーだったから、5人が冒険者としての活動を続け、3人が死んだか引退したらしい。残りの2人は冒険者登録をしたままだが、何をしているかはわからない。

剣士のセヴラン、槍戦士のレナルド、斧戦士のオットー。

冒険の途上、帰らぬ人となった元仲間たちの顔を思い出す。


最後の別れ方は後味の悪いものだったが、それでも数年間は苦楽を共にしてきたのだ。

残りの2人はどうしたのだろうか。別のパーティーにうまく所属できているといいのだが。


彼らが請け負った最後の依頼を文書で追いかけると、森の人喰巨人(オーガ)の討伐を試みたものらしい。

無茶をしたものだ。俺が一緒だったら、絶対に引き受けたりはしなかった。

よほどに、金に困っていたのだろうか。


夕闇が迫り、少し暗くなった工房の事務所で獣脂ランプの灯りを頼りに記録を読んで物思いに耽っていると、ドアをそっと開けてサラが入ってきた。


「どうした?」と聞くと、サラは少し決まり悪そうに切り出した。


「昼間は、少し言い過ぎちゃったと思って。ケンジがずっと、駆け出し冒険者のことを気にかけて頑張ってくれてたのは知ってたのに。その、つい・・・」


「いや、言ってもらえて良かったよ。たしかに、ここのところ、俺は上ばかり見て足元がおろそかになってた。貴族の文官を脅かしたり、ギルドの管理職をうまく転がしたりできたせいで、駆け出し冒険者の連中を帳簿の数字で見るようになっていた。サラ、ありがとう」


俺が礼を言うと、サラは赤くなり、黙ってしまった。

妙な空気になったのを誤魔化すように、サラは俺が持っていた書類に目をやり、少し大きな声で「それ、なんの書類?」と、話しかけてきた。


一瞬、だまっていようと思ったが、長く隠し通せるようなことでもない。

俺は正直に話すことにした。


「サラと別れてから、元のパーティーの連中の行方を名簿で調べたんだ。セヴラン、レナルド、オットーは冒険者を引退したそうだ。名簿から削られてる。残りの2人は行方がわからん。冒険者を続けているとは思うが」


この場合の、引退、とは死亡もしくは行方不明の隠語である。直接的に死んだことが確認できない場合は、そのように表現するのだ。そして、多くの冒険者の死は確認できない。だから、引退、なのだ。


サラが、少し躊躇してから「知ってた」と答えたので、俺は驚いた。


「なんだ、知ってたのか?ああ、俺が冒険に行くのをやめてからも、少しの間は一緒に依頼を受けてたのか」


「うん。でも、そんなに長くは続かなかったの。ケンジを追い出したことに、あたしはすごく怒ってたし。

 知ってる?ケンジの後に入った奴が、すっごくイヤな奴でね。なんか、先祖伝来の魔剣が、とか言って、変な剣振り回してさ、確かに腕は立ったけど、分け前を半分ぐらい要求するの!自分のおかげで怪物が倒せただろ!って。


それに、そいつ野営の時とか、水汲みも火の番もしないのよ!そいつがね、別の依頼の時に怪物を切った時に岩に剣を当てて、すっごい欠けちゃったの。修理費がものすごくかかる上に、元にもどるかわかんない、ってなってさ。パーティーで借金しようとか言うの!バカじゃないの!って思って。これまでに報酬を独り占めしてきた分があるじゃないの!って大喧嘩になって、結局、あたしは抜けちゃった」


サラの説明を聞いて、俺は何があったのかを理解した。

俺がパーティーにいた時は、役割の配分や、金銭交渉、素材や報酬の配分について説明し、ルールを作り運用してきた。それで、そこそこパーティーに金は貯まったし、強くはなった。

だが、俺が抜けた時に、それを埋めたのは余所者の、剣を振るうしか能のない奴だった。

そんな奴に俺の代わりが務まる、と思われたこと自体、腹の立つことではあったが。


一度でも、俺の駆け出し向けツアーに参加して、運営のルールを学んでいれば、そんなことにはならなかったかもしれないが。

彼らは彼らで、俺をクビにした気まずさや面子があったのだろう。


そうして、おそらくは金銭(かね)に困ってのことだろう。

彼らの実力では不相応な、人食巨人(オーガ)討伐に手を出したのだ。

そして、それが奴らの最後の依頼となり、墓穴となった。

遺体は人喰巨人(オーガ)に食われただろう。

遺言もなければ、遺品もない。


それが、俺が数年を共に冒険を潜り抜けた仲間の最後だった。

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