第112話 冒険者ギルドの組織とは

冒険者ギルドとは、どんな存在か。


俺も、この世界に来て長いので、ある程度は調べたことがあったが、今回の訪問に先立ってより、詳細に調査した。

営業を成功させようと思えば、相手のことを調べていくのは基本動作だ。


もっとも、マスコミもネットもなく、文書の管理をしているのは貴族や教会ぐらいの世の中なので、冒険者の連中に聞きかじったことを集めた想像でしかない。


まず、冒険者ギルドのギルド長は、冒険者ではない。他の官職と同じく、貴族達が金銭でやり取りをする名誉職なので実権は、副ギルド長が持っている。


副ギルド長は、地方の出身貴族から選ばれる。彼らは支部長を兼ねていて、王国にギルドの状況を報告する義務もある。


冒険者ギルドというのは、王国や貴族が、あぶれ者の町民や農民の雇用対策や怪物に対する治安対策の一環として出資している事業なので、人事や金銭だけのつながりでみると、王国や貴族の直属組織である、という言い方も成り立つ。


冒険者とギルドの間には直接的な指揮権はないので軍隊のように動員できるわけではないが、どこの縄張りか、と言われると第一義には王国、二義には地方貴族ということになる。


冒険者が活動地域を王国全土にできるのは、そのためだ。


そういった背景なので、副ギルド長含め、一定以上の地位には貴族の係累が多い。

もとの世界で言うところの、天下りのようなものだ。


貴族や商家出身者からすると、冒険者ギルドへの就職は、平民の荒くれ者達を相手にする、ということでなりては少なく、あまり人気はない。

当然、派遣される者の多くは能力も意欲も高くない。


学があり、能力に自信があり、縁故のある者は、もっと肉体的、精神的に楽で、付け届けが貰えたりする美味しい仕事を希望するものらしい。


一方で、冒険者を相手にする窓口は、大体は商家出身者が務める。あまり給与が良くないため、数年働くと別の職業に転職して行ってしまうそうだ。


つまり、冒険者ギルドの組織の構造をまとめると、一番上には名ばかりとはいえ貴族がいて、その下も貴族の係累で占められており、現場は薄給で窓口業務以外はさせてもらえず、数年で退職する。


まあ、外郭団体のようなものだな。と、サラに説明しながら思う。


この構造の中で手を抜かない人間がいたら、見てみたいものだ。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


俺とサラが商人風の衣装を着て冒険者ギルドに、客として訪問すると、駆け出し冒険者達がヒソヒソと噂をしだす。


「おい、あれがケンジさんだ・・・守護の靴ですげえ儲けてるっいう・・・」


「マジか・・・あの・・・貴族の屋敷を襲撃したっていう・・・」


「俺は、団を侮辱する奴は許さねえ!とか言って、有り金全部、分捕って来たって聞いたぜ・・・」


「いや、1人で屋敷に乗り込んで、使用人から兵士まで全員ぶっ殺したって、知り合いが言ってたぞ」


なんだそれ。いや、大体あってるけど、どこの暴力団員だ。



窓口の対応をしていた職員が、大慌てで飛んできて、ギルドの2階にある応接室に通された。


緊張した面持ちで盆に器を載せて酒を持ってくる。


どんな噂が流れているのか知らないが、そんなに怖れられているのか。

駆け出し連中が、大袈裟な噂を流すのは、いつものことだろうに。


しばらく待っていると、小太りの男が数人の部下を連れて表れた。

二重アゴか。この世界では、久しぶりに見る特徴だ。

後ろの部下たちを含めて、冒険者時代は見たことがない。


つまり、前には出て来ない管理職連中だな、とあたりをつける。


この、よく太った連中をどう気持ちよく転がしていくか。

ひさしぶりに、腕の見せどころだ。

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