第90話 世界ではじめての株式会社
10日後、剣牙の兵団の事務所には、組織図に書いた会社の株主が集まっていた。
本当はゴルゴゴの工房に集めたかったのだが、工房の改修が間に合っていないのだから仕方ない。
出席者は、俺、ジルボア、グールジン、ゴルゴゴと、サラである。
サラは本来は出席できない立場だが、俺のアシスタント扱いとして許可してもらった。
全員が忙しい中で集まった今日の目的は、会社組織設立の確認である。
俺が先走って仕組みを整えている分、株主の合意はきちんと取っておかなければならない。
奴らは、合意が気に入らなければ、力でひっくり返すだけの物理的な力がある。
ひと頃流行った、ものを言う株主どころではない。
文字通り、腕と剣にものを言わせる株主である。
そして、剣にものを言わされたときは、俺の首が物理的に飛んでいることだろう。
あくまでも慎重に合意をとって進めなければならない。
まずは、組織の説明からである。
ゴルゴゴをのぞく全員は、靴の事業による利益が相当に大きな利権になることを理解している。
そのために組織のルールを整備することには以前、合意している。
配分のルールについても、大筋では合意している。
今回はその先のルールとして、俺が社長として「どこまで勝手にやっていいのか」を決めるのである。
なぜ、そんなことを決めるのか。
例えば、俺はゴルゴゴの工房と技術を手に納めるために靴の権利を使用したが、ジルボアとグールジンの事前合意は取り付けていない。
2人は特に文句を言ってこないが、株式会社として考えると相当にグレーな行為である。株主が増えるのだから、2人の利益は削られる可能性があったのだ。少なくとも事前に相談すべきケースではあった。
今回の場合はゴルゴゴのもつ工房を手に入れるため、と後で説明はしたので納得はしてもらえたが、納得しなかった場合の、直接的な暴力行為に及ぶ前のルールを決定したいわけだ。
妙な言い方になるが、社長を解雇(クビ)になるルールを整備することで、物理的に俺の首が飛ぶ可能性を減らすことができるのだ。
命を守りたければ、権利と責任を制度的に分散させるのが良い。
とは言え、説明は難しかった。ゴルゴゴは言うに及ばず、グールジンやサラもピンと来ないようだ。
基本的に、自分の権限が弱くなって嬉しい組織の長はいないのだから当たり前の反応だ。
しかし、ここでもジルボアは抜群の理解力を見せた。
「要するに、軍法だな。前線で将軍がどこまで何をしていいのか決めておくのと同じだ」
と説明すると、剣牙の兵団にいたこともあるグールジンも理解が及んだようだ。
「要するに、ケンジが言う会社とやらは、軍隊だ。俺とグールジンは国の大臣で、ケンジは前線を任された将軍だ。大臣は戦争のことがわからない代わりに、どこまでの行動を将軍に許すか国法で決めておく必要がある。将軍は、どのように戦うか決定することはできるが、大臣の言うことを聞かねばならない。
その国法に当たる部分を、今日は話し合おうということだな?」
ジルボアの理解力が、ときどき怖ろしくなる。が、今日は頼もしい。
「ケンジ、本当にお前は面白いことを考える。商売を軍隊のように組織するのか。この仕組みが機能すれば、いつか商売が国の軍隊よりも大きくなるかもしれんな」
予言めいたジルボアの発言で始まった会議は半日に及び、会社組織の設立と俺の代表取締役就任は可決された。併せて、俺を解職する規定についても議論され、可決されることとなった。
これにより、この世界で初めて「株式会社」という組織が設立された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます