第89話 組織図を書こう
それにしても、ようやっと靴販売製造チーム、改め、会社の組織が成立した。
字が読める者には理解できるよう大きめの板に組織図をガリガリと書いていく。
社名:靴販売製造株式会社(仮)
本社所在地:革通りゴルゴゴ工房
株主:ケンジ、ジルボア、グールジン、ゴルゴゴ 発行株式数:靴1000足
代表取締役:ケンジ
取締役:ケンジ、ジルボア(剣牙の兵団)、グールジン(街間商人)
部長級:ケンジ(ブランド、製造管理)、ゴルゴゴ(技術開発)、アンヌ(広報宣伝)、サラ(営業渉外)
スタッフ:製造スタッフ(3等街区靴職人を採用予定)、販売スタッフ(街間商人)、護衛(剣牙の兵団)
現代風に表記すると、こんな感じになるだろう。
護衛という役割の違和感が凄い。
書いてみて思うのだが、この世界の人々に組織図は理解できるのだろうか。
宿で白パンを食うのに夢中のサラに、組織図を見せてみる。
さすがに予備知識なしで理解できるとは思えないので、靴を作るためのパーティーのようなものと説明した。
そうすると、サラにも部長級の役割分担は理解できたようだ。
「この株主とか、取締役ってなーに?」
「まあ、支援者(スポンサー)みたいなもんだな。一流クランになると、貴族や大商人の支援者がいるだろう?」
冒険者として支援者がついたことがないサラには少し理解が難しそうなので、農業に言い換えて説明してみる。
「サラ、農業に例えるぞ。今から、俺達は高く売れるけど育てるのが難しい農作物を植えようとしている。そのために、いろいろな技能を持った人間を集めた。それが部長級やスタッフ達だ。それはわかるな?」
サラが理解して頷いたので、先を続ける。
まあ、目に見える部分は冒険者パーティーの役割分担と同じだからな。
問題は、目に見えない部分だ。
「だけど、俺達は農地を持っていない。だから農地を持っている人に貸してもらう必要がある。それに、農作物が美味しくて高く売れると知られると、山賊や野生動物が襲ってくる。それから守ってくれる人も必要だ。
それもわかるな?」
「それがジルボアとかグールジンってことね?それもわかるわよ。でもケンジとか、ゴルゴゴはどうなるの?」
「その作物は、育て方がとても難しい。今のところ、育て方を知ってるのは俺とゴルゴゴだけだ。農地はどこでもいいし、護衛も誰だっていい。農地と違って、そこは俺達は自由に選ぶ権利がある。だから立場が強く交渉できる」
どうも、農村出身のサラにとっては、土地を持っているものが圧倒的に強く、ノウハウを持っている者に、それなりの権利がある、という観念が薄かったようだ。
ノウハウを持つ者には価値と権利がある。それをようやっと理解したようで、目を大きく開いてサラは叫んだ。
「ケンジ、これってすごい仕組みじゃん!!」
そうだな。すごいんだよ、この仕組み。
世の中に出して良かったのかなと思う程度にはスゴイ。
「発行株式数ってのは、農作物をどれだけ作るかの約束だ。株主は、農作物の売れた利益を分けるんだ」
「うん!それはわかる!」
興奮の冷めやらぬサラは、大声で答えた。
「ね、ここあたしの名前がある!」
嬉しそうに言う。初めて聞く仕組み。その中に自分の名前がある。
サラには、そのことが堪らなく嬉しいようだ。
最初は怪訝そうに組織図を見て、白パンを優先していたくせに、現金なものだ。
この説明なら、この世界の連中にも理解できそうだ。
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