第49話 冒険者ギルドは商売敵

ギルドで座っていると、今度は視界の隅からギルドの職員が寄ってきた。


今日は、まったく厄日だ。

次から次へと面倒くさいことが寄って来る。


この職員、ギルドでは窓際族扱いの太って禿げかけたオッサンだが、

一応、貴族の係累らしいと聞いたことがある。


俺の現役時代には「個人的窓口対応でムカつく職員ランキング」

で堂々の2位に輝いていた野郎だ。


「ケンジさん、お話があるのですが。ちょっとよろしいですか?」


俺にはねえよ、ハゲ。

と、心の中だけで呟(つぶや)いて先を続けるように促(うなが)す。


「実は、冒険者ギルドに、下位冒険者へのサポートが薄い、

 と苦情がありまして。」


そりゃあ、あるだろうよ。だってお前ら、何もしてねえじゃん。


「それで、ケンジさんが有料でされているサポート業務を、

 ギルドでも実施しようと考えています。」


「そうですか。それはいいことだと思います。」 


俺は、満面の笑顔で、そう答えてやった。


まあ、そう来るよな。

働き者の近くにいると、サボっているのが目立つわけだ。

おおかた、何かしろと上の方から言われたのだろう。


「あなたの仕事の領分を侵すようで申し訳ないのですが・・・」


と、申し訳なさゼロの顔で、言いやがる。


「どうぞどうぞ。冒険者のサポートが増えるのはいいことだと思います。

 頑張ってください。」


要するに、既得権者からすると新参者はジャマなわけだ。

俺が、この世界に来て商売を始めるたびに、なんどもぶち当たってきた壁だ。


現代世界風に言うと、民業圧迫(みんぎょうあっぱく)だ。

郵便屋さんが運輸会社をイジメるやつだ。


冒険者ギルドとしては、俺が小金を稼いでるのが目障(めざわ)りらしい。


学のない冒険者あがりがやっているような商売なら、

自分達でもできるだろう、と考えたようだ。


まあ、お手並み拝見だな。


冒険者ギルドは「駆け出し冒険者向け無料ツアー」をサービスとして打ち出し、

俺へのツアー依頼は半分に減った。

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