第41話 麦の話

なぜ貧乏な冒険者(かけだし)でも麦酒(エール)が飲めるのか。

酒の製造には大量の穀物を必要とするというのに、

比較的、低価格でエールは提供されているのか。


統計が取れないので正確なことはわからないが、価格から推測すると

肉の供給が限られている一方で、麦は比較的採れるかららしい。


もちろん、近代農業のように化学合成肥料を撒いているわけでは

ないから面積当たりの収穫量は現代世界と比較はできないが、

俺が麦の収穫量について楽観的な見通しを持っているのは、

郊外で目にする麦畑が比較的、背が低いのを見たからだ。


その昔、麦は人の背丈を超えるような非常に背の高い植物だったらしい。

そして、背が高い麦は、多くの実をつけることができない。

茎がおじぎして実が腐ってしまうからだ。


品種改良を通じて背を低くすることで、大量の実をつけても

おじぎしないようになり、面積あたりの収量が増えるのだ。


一時期、どこかに農業技術を研究している転生者でもいるのか、と思って

調べ回ったことがあったのだが、どうも昔の魔法使いが

魔法で何とかしたらしい、という記録の伝聞を聞けただけだった。


しかも、これだけの情報を聞くのに教会に大銅貨2枚も

お布施を踏んだくられた。


あの貧乏な冒険者(かけだし)時代の大銅貨2枚が、

どれほど懐に痛かったことか・・・。


識字率が低いこの世界では、文字情報を握っている組織は限られている。

教会と、魔術師ギルドと、貴族階級である。


教会には、お布施を払わないと情報がもらえないし、

魔術師ギルドは所属しないと、そもそも情報を教えてもらえない。

貴族階級は、言わずもがな。


商人の多くも文字は書けるが、没落することも多く、記録は散逸しやすい。

そもそも商売に関係ないことは記録に残されない。


この世界で、情報収集は高くつく。

そして教会の強欲坊主はムカつくのだ

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