第27話 ドクトリン

 普通の冒険者の戦い方は、基本的に狩人に近い。

 現代世界で言うと、特殊部隊のような感じだろうか。

   

 少人数で機能をそろえたセット(パーティー)で、怪物(モンスター)に

 忍び寄り、攻撃力で押し切る。

  

 押し切れないほどの人数差があれば、一旦引いて罠や作戦を考える。

 そういうものだ。


 しかし、剣牙の団は盾持ちとクロスボウ兵を団員の半分以上も

 抱えている。

 こいつらは、運用にとてつもなく費用がかかる。


 こちらの世界でも、元の世界と同じように盾は厚い木の板を

 金属で縁取りして革で裏打ちしたものを使うのが普通だが、

 盾(こいつ)は戦闘毎の使い捨てが基本なのだ。


 盾で相手を押し留めるような戦闘をすると、盾は傷だらけ、

 穴だらけになる。


 依頼中であれば補修して使わざるを得ないが、基本的には

 盾は新しいものを使う方が良い。

 そうでなければ、打撃を止めた時に割れる可能性があるからだ。


 冒険者の盾持ちが少ないのは、そのせいだ。


 全て金属製の盾などというものは、重すぎて取り回しが効かない。

 どこかの軍隊で、両手持ちの盾兵という兵科がいると聞いたこともあるが、

 実際に見たことはない。ドラゴンと戦う時にでも使うのだろうか。


 クロスボウは強力な兵器だが、製造にとてつもなく費用がかかるわりに、

 壊れやすく、連射が効かない。

 だが、数を揃えメンテをきちんとできれば、怖ろしい威力を発揮する。

 盾を構えた前衛がいれば、戦闘中に再装填もできる。

 相手の盾を破壊してくれる中衛がいれば、さらに殺傷力を増加できる。



 だが、金銭(かね)がかかる。


 代わりの盾やクロスボウの修理部品などを運び、修理する

 専門の戦鍛冶(いくさかじ)もいるだろう。


 盾や鎧の消耗を抑えるために、魔術で防御の祝福をかけることのできる

 戦僧侶(いくさそうりょ)もいるかもしれない。



 そうして、この戦い方で剣牙の兵団は数多の依頼を達成し、

 功績を積み重ねてきたのだ。


 こんな戦い方されたら、そこらの人食巨人(オーガ)なんて

 相手にもならんわな。

   

 俺が冒険者だった頃は、2メートル近い体躯(たいく)の

 ホブゴブリンを相手にするにも、命がけだった。


 なんとか倒した後には、今後は、絶対に正面からは戦わない、

 と誓ったものだ。


 しかし、剣牙の兵団(こいつら)は、どんな相手でも正面から

 粉砕できるよう全員が訓練され、装備を揃えている。


 一流クランってのは、人材も一流だが、

 まず戦闘方針(ドクトリン)が一流なのだ。

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