マダリリ
猫寝
第一章
第1話 宣告
「……てき」
薄暗い部屋に、彼女の声と、嘆き悲しむ男の叫びが響き渡る。
同時にそれは、怒号でも有ると感じた。
しばらくの間、なにやら声を張り上げていたが、警備兵に銃を突き付けられ、せめてもの抵抗なのか、射殺すような視線を、私の隣に座っている彼女に向けながら去って行く男と不意に目が合い、視線を返した。
だが、そこには何の意味も感情も無い。
動いているものに目がいった、それだけだ。
「……みかた」
歓喜の雄叫びが、部屋中を反響する。
何度も、何度も頭を下げ、礼を述べる。
部屋を去りながらも、何度も何度も頭を下げて、感謝の意を示していた。
滑稽だと、以前の私なら思っていたが、今の私にはやはり特別な感情は浮かばない。
大声が多少耳障りだと感じはするが、その程度だ。
30m四方程の、ホールのような部屋の南側に、十メートルほどの高さのピラミッドのような建造物がそびえ立ち、その周囲をライフル銃をぶら下げた警備兵が守っている。
薄暗いライトと、不必要に規則正しく並べられた数十本の蝋燭の灯が、この空間の神秘性を演出していた。
そして、ピラミッドの頂上に鎮座する彼女は、それが象徴するように、まさにこの空間の頂点だった。
その隣に私は立っている。
彼女を守るために。
私はフルフェイスのヘルメットで、彼女は黒い布で顔を覆い、二人とも顔を隠している。
守る立場から言わせてもらえれば、視界の狭くなるヘルメットはマイナスでしかないのだが、彼女の前に立つ以上は仕方ないのだろう。
顔を合わせて、下手に『選別』されてはたまらないのだから。
だが、この場所には毎日毎日数え切れないほどの人間が訪れる。
彼女に、『選別』をしてもらうために。
「……てき」
「……てき」
「……てき」
「……みかた」
「……てき」
まるで人工音声のような抑揚に欠ける声で、彼女は延々と『選別』を続ける。
その度に、部屋には悲鳴か歓喜が響き渡るのだが、彼女はまるで意に介していないように見えた。
「……てき」
また一人、「敵」が生まれた。
「……ふ…っざけんな!!なにが敵だ!お前なんかに俺の人生を決められてたまるかよ!」
その「敵」が、感情に任せて叫ぶ。
そして、警備兵の隙をついて駆け寄ってきた。
ピラミッドの階段を、予想以上のスピードで駆け上がる「敵」。
「敵」が、足元へと手を伸ばすと、そこに隠し持っていたナイフが灯りを反射して光る。
かなりの速さを見せる「敵」は、既に彼女の間近まで迫っていて、下に居る警備兵は、流れ弾を気にして発砲出来ない。
……だが問題無い。
そのために、私が居るのだから。
「死ねぇぇぇぇええぇーーーー!!!」
叫びながら、ナイフを持った手を彼女に向って伸ばす「敵」。
私はその間に割って入り、その手を掴み、捻り上げ、一瞬ひるんだ「敵」を、軽く押す。
それだけで良い。それだけで、「敵」は大げさな叫び声をあげながら階段を転げ落ち、無様に地面に叩きつけられた。
そこへ警備兵が駆け寄り、「敵」を拘束し、どこかへ引きずって行く。
どこへ行くのかは知らない。興味も無い。
ただ、今日も私は仕事をしっかりと務め上げた。それだけだ。
その間、命を狙われたというのに、彼女はぴくりとも動かなかった。
逃げるそぶりすら見せないのは、私に対する信頼……では無いのだろう、きっと。
彼女が信じているのは、自分の運命。
絶対に、自分は殺されないと言う、根拠の無い確信――――。
私達警備兵は所詮、彼女の周囲の人間がかけた保険であり、体裁でしかない。
それが解っていても、私は彼女を守る。
それが私の、仕事だから。
・
地下、普段は居間のカーペットで隠されている薄暗い階段を、少女はゆっくりと降りる。
一見するとただのマンションの一室のような、3DKの部屋の、居間のカーペットの下に、その階段は隠されていた。
階段が終わると、簡素な電球の薄灯りに照らされた、十畳ほどの埃っぽい部屋。
中央には長机が置いてあり、その上に散乱した紙束の数々や、周囲に乱雑に置かれた椅子、そして、僅かに残った熱気と空気の乱れが、先程まで居たであろう人々の気配を感じさせる。
静寂の中にも、何か、ざわめきの残滓のようなものが、妙に心を乱す。
奥の壁際には大きなホワイトボード。
そこには、何か建物の見取り図のようなものが張り付けてあり、そこに様々な書き込みがしてある。
きっと、次の「作戦」なのだろう、と少女はおぼろげに理解する。
ゆっくりとそこに近づくと、そのボードの脇に座り込んでいる人影が見えた。
壁に背中を付け、酷く疲れて眠りこんでいるのが一見しただけで理解できるような、明確な疲労感をまとっていた。
「……父さん?」
少女は、そう声をかける。
女の子にしては少し低い、けれど、強い意志を感じさせるその声は、ボーイッシュな外見に似合う凛とした印象を与える。
「…ん?…ああ、どうした暁花(あきか)…ここには入るなと言っておいただろ?」
眠っていたのは、少女、暁花の父、修侍(シュウジ)。
しつけは厳格。されど不条理は無し。
それを子育ての根幹に置き、十四年間暁花を育てて来た修侍らしく、目を覚まし、まだ眠気にはっきりしない頭でも、真っ先に暁花に注意する。
「ごめん…けど、皆が帰ってから一時間経つのに出てこないから…」
「……ああ、そうか、少し眠ってしまったか…最近、バタバタしてたからな…」
軽く頭を振りながら、修侍は立ち上がり壁掛け時計に目をやる。
「もうこんな時間か………明日は作戦決行日だからな、今からしっかり休んでおかないと…」
その修侍の瞳は、まだ僅かに眠気を備えながらも、覚悟と気迫、そして獣のような鋭さを伴っていた。
暁花は、それを少し怖いと思いながらも、同時に愛しさを感じていた。
精神的にも肉体的にも強い父は、どこか憧れだったから。
ふと……もう、この瞳が見れなくなるのかもしれない……そんな想いが脳裏をよぎる…。
だが、そんな事を考えた自分自身に嫌気がさし、思わず目をそらす。
アタシが信じなくてどうするの…!
……逸らした視線の先に、一枚の写真を見つけ、何気なく手に取る。
そこに写っていたのは、一人の少女。
年齢的には、私と変わらない、十三、四歳ってところだろう。
幼さと、芽を出し始めた大人っぽさが同化していて、妙に危うい印象を抱かせる。
腰まで伸びた綺麗な黒髪。
切れ長な瞳に長いまつげ。
白い肌の中、桃色の唇は形もよく柔らかそうで、素直に可愛いと思う。
きっと、誰が見ても美少女だと、そんな印象を抱くであろう、そんな少女の写真。
「……この子が、「教祖様」なの?」
「……ああ、そうだ。教祖様、救世主、選別者、天の使い、悪魔の手下……呼び方は色々あるが、間違いなく、今世界の頂点に居るのが、その子だ」
皮肉な笑顔で、独り言のように呟く修侍。
「この子に、『敵』と『味方』に選別され、『味方』だけが生き残れる……単純で、最高に馬鹿げた話だな……だが、それが世界の真実だ」
―――全ての始まりは、とあるサッカーの試合だった。
全世界に中継されていたその試合の最中、何の前触れも無く、スタジアムを光が包んだ。
いや、正確には、スタジアムのある都市全体を。
誰もがその光の眩さ、神々しさ、禍々しさに視界を奪われ、全てが白く包まれた。
そして……光が消えた後に残ったのは……人間の消えた都市の姿だった。
食べかけの食事、湯気を立てるスープ、点けっ放しのテレビ、電灯、お湯が沸いたことを甲高く知らせ続けるヤカン、吹きこぼれ炎を上げ始める鍋、黒い煙を放つフライパン、主を失い暴走する車、駅を超スピードで通過し、前方車両と激突する電車……。
蒸発したかのように人間の消えた都市は、確実に崩壊へと向かった。
そんな状況の中で、数人の人間だけがその被害から逃れていた。
その僅かな数人だけが、どんなに捜査、調査をしても何の手がかりも見つからないこの人知を超えた出来事を解明する僅かな手がかりだった。
そして―――その中に、彼女が居た。
「何が起こったのか解らない」
皆が声を揃えてそう言う中、彼女だけが違っていた。
「『せんべつ』がはじまったのよ」
旅行で訪れていた、わずか八歳の日本人の少女のその言葉の意味を誰も理解できず、当初は警察すら相手にしていなかった。
だが、調査を続けるうちに分かったのは、事件を逃れた数人は全て、事件の前に彼女に出会い、『味方』…との『選別』を受けていたのだ。
それは、ただ街中ですれ違っただけの人間も居れば、彼女が立ち寄ったコンビニの店員も居たし、もちろん彼女の身内、周囲の人間も居た。
例外なく全員が、彼女に突然、『味方』と宣言され、気付くと、体の一部にまるで火傷跡のような皮膚の変色で『味方』の刻印が存在したのだと言う。
消えた人間の中に、著名なサッカープレイヤーが多数含まれていた事も事件を世界的に広める大きな要因となり、この少女の存在は瞬く間に世界に広まった。
ただの狂言だと、そんな意見が大多数を占めてはいたが……第二、第三の同様の事件が起き、その全ての場に彼女が居た事が解ると、世界は急速に変わり始めた。
どうやって消したのか、なぜ消したのか、『味方』の条件は何なのか。
それを彼女は一切語らない。
ただ、「彼女に味方と選別されないと生き残れない」と言う事実だけが、一人歩きのように世界中に広まり、一種の疑似宗教が完成し、日本の一地方都市が聖地になるのには、そう時間はかからなかった。
世界中から彼女に『味方』と選別されたい人間が集まり、面会を求めた。
すると彼女は、その人間たちを『味方』と、『敵』に分け始めた。
それと同時に、彼女が直接立ち寄らない都市でも、事件が起こり始めた。
そして、彼女の元を訪ねて、『味方』と選別された人間だけが生き残った…。
『敵』と選別された人間も当然のこと、『選別』をされていない人間も、同じく消えた。
生き残るのは『味方』だけ。
その事実は、世界を戦慄させた。
そんな事が繰り返され、次第に世界は二分する。
彼女を祀り上げ、守ろうとする人間たちと、彼女の存在こそがこの事件の元凶だと、彼女を殺そうとする人間。
その、二つに……。
「このままじゃあ、世界は一人の独裁者の物になってしまうかもしれん……なんとか、止めなきゃな」
修侍は、この理不尽が許せなかった。
理由も条件もすべて不明なまま、「味方」以外は全て消える。
家族の中で、一人だけ「敵」もしくは「味方」と宣言され、家庭崩壊の末に迫害を受けた人間も居ると言う。
「こんな事は、許しておけない…!」
修侍は、強く拳を握る。わずかに伸びた爪が、皮膚を今にも食い破りそうなほどに強く。
その痛々しいまでの気迫に暁花は、明日の作戦…それはきっと彼女を殺すことだ……と悟った。
「……ねえ、父さん…本当に、彼女を殺せば全部終わるのかな…?」
出来れば、父に人殺しをして欲しくない。
そんな、単純で純粋な想いから出た言葉では有ったが、その言葉に修侍は、酷く困ったような、悲しいような表情を見せた。
「解らない…けど、それ以外に方法が無いんだ」
「どうして?そんな事しなくても、私達はまだ未選別なんだから、会えば『味方』って言ってもらえるかもしれないし、それに、彼女を殺したらその瞬間に世界中であの現象が起こるって話も―――」
その問いに、修侍は軽く微笑んで、上着を脱ぎ始めた。
「……俺たちは、もう賭けるしかないんだ…」
そして、半分ほど脱いだところで身を翻し、暁花に背中を……見せた。
「――――――――――え?」
そこには、『敵』の刻印が、ハッキリと刻まれていた……。
・
ジリリリリリリリリリリリリリリリ!!!
ピラミッドが鎮座する薄暗い空間に、耳障りなベルの音が響き渡る。
「敵襲―――――!!!!」
見張り兵士の声が、マイクを通して建物全体に轟く。
次の瞬間、フルフェイスヘルメット越しにも、激しい銃声の嵐が四方八方から耳に届いた。
「チッ…!今回は相当大規模だな…」
彼女を―――「教祖」を命を狙う襲撃は、決して珍しい事では無い。
しかし、今回はどうにも今までとは様子が違う。
抗戦の音と、断末魔の声に覆われ、一瞬にしてここは戦場だ。
「下がります!」
私は警備担当者に無線で宣言し、ピラミッド頂上の椅子の脇にあるレバーに手をかける。
ピラミッドは、中央の床が可動式になっていて、わざわざ階段を登らなくても、椅子に座ったまま下げれば、ピラミッド内に椅子を収納する事が出来る。
単純に、「教祖様」に階段の上り下りの作業をさせないように作られた装置ではあるが、守る立場としても非常に有効な仕組みだった。
ピラミッドのなかに入ってしまえば、とりあえず銃弾の脅威からは避けられるし、そのまま騒ぎが収まるまで籠城する事も、隠し通路から逃げる事も出来る。
なので、真っ先に椅子を下げる為に、レバーに手を伸ばすのは当然の事と言えた。
……だが、触れた瞬間、言葉に出来ない違和感――――。
(なんだ?……何かが……)
彼女の隣でもう半年以上レバーの上げ下げをしてきた自分だから解る、僅かな違和感。
そして、幼い頃から兵士として長年生死の境を目の当たりにしてきたからこそ感じる怖気。
このレバーを動かしては駄目だと、私の五感全てが警告している。
だが、逡巡している間にも、銃声と怒号と断末魔は少しずつここへと近づいてきている。
くそ……!!
「すいません!」
私は、彼女にそう声をかけて、抱きあげた。
いわゆる、お姫様抱っこってヤツだ。
彼女の体に直に触れる事は禁止されているのだけれど、この際仕方なし!
幸い彼女は何の抵抗もしない。
と言うか、そもそも彼女が選別以外の言葉を発したり、何か感情を露わにする所も見たことが無いので、それも自然と言えた。
抱き上げた彼女の軽さに驚きながらも、急いでピラミッドを駆け下りようとしたその瞬間、ドアから機関銃を手にした男が入ってきた!
「世界の為に!そして家族のために死んでくれ!」
そう叫び、引き金を引く!
室内の警備兵達が反応して一斉に男に銃口を向けるが、男の方が一瞬早い。
私は慌てて、彼女を抱えたまま横に跳ぶ!
まだピラミッドの中ほどだったので、下手をすれば怪我では済まない高さでは有ったが、うまくピラミッドの側面を、自分の背中を下にして滑り降りる!
「痛っ!いたたたたた!!」
階段状になっているピラミッドに何度も背中を打ちつけるが、死ぬ事に比べればましな痛みだ!と自分を納得させる。
…と、警備兵の銃弾に晒されながらも引き金から指を離さない男の銃弾の一発が、頂上のレバーに当たり、レバーが動くのが、目に入った。
次の瞬間……!!
激しい爆音を立てて、ピラミッドの中央に火柱が上がり、椅子が爆風で天高く舞いあがった。
ここまで熱気が伝わってきて、直接炎に触れていないのに火傷してしまいそうだ。
「くそ!やっぱりかよ!」
レバーの違和感の正体はこれか!
自分の感覚の正しさを少し誇らしく感じながらも、こんな仕掛けは完全に身内に裏切り者が居ないと出来る筈がない。
後で絶対見つけて殺す!
そう決意しつつ、とにかく今は助かる為に逃げる!
正面入り口の方は、完全に激戦区で、警備兵達が、室内への侵入は何とか食い止めてはいるが、あそこを通って外へ出ようとする人間が居たら、それは無謀どころの話ではなく、もはや自殺!
出口は残り二つ。
裏口と、隠し通路だ。
……考えろ…裏口はそのまま道路に面していて、数メートル走れば向かいには大きなデパートがある。
今日は休日で、今は夕方……確実に客で賑わっているだろう……それはつまり、大量の目くらましが存在する、ってことだ。
無関係の人間を危険にさらすのは気が引けるが、私の任務は彼女を守る事なので、被害が出たとしても彼女が無事ならまあ問題は無い。
それでも、そこまでの道のり数メートルが無防備すぎるし、無関係の人間の犠牲は最後の手段だ。
なら残りは隠し通路しかないのだけれど…内通者が居る事を考えると、敵が何らかの罠を仕掛けている可能性も高い……。
なんて言うか、生存率五パーセントと、死亡率九十五パーセントを選べ、と言われてる感じだな…。
「あっち…」
「……え?」
戦場の喧噪が鼓膜を震わせているその最中、ヘルメットでかなり音も遮られているにも関わらず、なぜかその、透き通った声はひどく明確に認識できた。
「あっち、いきたいの」
腕の中の彼女が、そう呟き、隠し通路の方角を指差していた。
彼女の普通の喋りを初めて聞いた衝撃と、先ほどの爆風で被っていたベールが外れ、露わになっていた彼女の整った顔つきの美しさに一瞬我を忘れそうになる。
この子……こんなに可愛かったんだ…。
同性ながらに見惚れてしまいそうになるが、数メートル脇に着弾した銃弾に、意識が引きもどされる。
慌てて深く身を沈めるが、それでも彼女はずっと指を差し続けている。
……彼女がこれほどに強く意思を示すのを、初めて見た。……どうせ迷っていたのだし、彼女に運命を任せるのも悪くない…かな?
……ははっ、他人に自分の運命を委ねるなんて……実に私らしい。
行くか……!私の人生は、ずっと誰か
物で、今は彼女のモノだ。断る理由もない。
一瞬の隙を窺い、鉛弾の雨を傘もささずに駆け抜ける!
はぁ…はぁ…はぁ…くっそもうヘルメット暑い!息苦しい!脱ぎたいが、彼女の前に顔をさらすと言う事は、「選別」されてしまうと言う事だ。
私はまだ「敵」でも「味方」でもない。
だからこそ、彼女を守る役目が出来るのだ。
「敵」に彼女を守らせることはできない。
かといって、「味方」と「選別」された人間は、せっかく生き残れることが確定したのに、彼女を守って殺されたくない、と言う心理が働く。
実際に、戦場となった今この場には、先ほどまで部屋の壁に沿うように大量に存在していたお付きの「味方」達は一人も居ない。
「教祖様」を差し置いて我先にと逃げたのだから当然だ。
せっかく「味方」として生き残る権利を得たのに、「教祖様」を守るために死ぬなんて、本末転倒もいいとこだと、そう思うのもまあ自然な流れだろう。
なので、彼女を守る兵士たちは未選別の人間に限られている。
大半は、私のように死を恐れないどこか壊れた人間ばかりなので、有る意味心強くはある。
だが、今回はそれでも簡単には抑えきれないでいる。
そろそろ「全ての終わり」が近いと言う噂も、奴らの原動力になっているのか……。
そんな事を考えながらも走り続け、あと、3・2…1…到着っ!
滑り込むように柱の陰に入り込むと、床に小さな突起があるのを確認する。
普通に上を歩いても、僅かに違和感を感じるかどうか、と言う程度だが、知っていれば気づける。そう言う突起だ。
そこへ、預かっていた鍵を差し込むと、カチッと音をたてて、突起を中心に、十センチ四方の床が浮き上がる。
そして、浮き上がった床の側面にはカードスロットが有り、そこへカードキーを差し込むと、床がスライドして隠し通路への扉が現れた!
「めんどくせっ!」
襲われた時に瞬時に逃げ込めない隠し通路って!と軽く毒吐く。
まあ、その分敵も入り辛いと言う事だし、カードは履歴が残るので、敵も仕掛けがしづらいと言う事でもある。
ただ、定期的に警備員が見回りをしているので、そいつが裏切り者だった場合はかなりヤバいのだけれど……ええい!ここまで来て悩むなんざ二流のやることだ!
決めたら迷うな!
迷いは死神を呼びこむ案内人だと思え。
昔の師匠の言葉を思い出しながら、通路へ飛び込む。
即座に左右を見回し、気配確認!
…………一応敵の気配は感じない。
罠が無いか丁寧に確認してから、扉を閉める。これで外からは再び小さな突起にしか見えないだろう。
高さ横幅ともに二メートル程度の狭い通路だが、壁、天井、通路全てが、ダイヤで作った繊維が埋め込まれているとかで、シェルター並みの頑丈さだと言う話だ。
本当にシェルターとしても使えるようで、通路の途中にいくつかの部屋が有り、水道電気が完備されている。
出口は、さっきの扉の他に、教祖のプライベートルームと、外へ繋がるものが一つずつの計三つ。
……下手に外へ出るよりも、途中に有る部屋に籠城する方が助かる確率は高いか…?
いや、敵がここを見つけてなだれ込んできたら、死を待つ他なくなるのは怖い…思いきって外へ……。
…くいっと、不意に袖を引っ張られる。
「へやにいきたい」
再びの、彼女の主張。
「へや…というのは、プライベートルームですか?」
彼女はゆっくりと首を振る。
つまり、途中の部屋で籠城する作戦か…。
二度目なのでさすがに驚きは薄いが、それでも不思議な感覚に包まれる。
これまで一度も、個人的な欲求や感情を表に出してこなかったので、彼女にもそう言うものが存在する普通の人間なのだ…と、冷静に考えれば当たり前の事実がマヒしていたのだろう。
とはいえ、今回の籠城策をそのまま飲んでしまうのはちょっち怖い。
「でもですね……」
と、一瞬言葉に詰まる。
あれ?私彼女のことなんて呼べばいいんだろう…そういえば名前も知らなかった。
守るだけなら別に名前は必要ないし、親しくなることも禁じられているので、知ろうともしなかったのだけれど。
昔ニュースで見た気はするが、最近は安全上の理由で本名がメディアに出る事も無いので忘れてしまった。
……少し思い出そうと頑張ってみたが、思い出せなかったので、とりあえず教祖様でいいか…と切り替えた。
「でもですね教祖様、敵が大挙して押し寄せてきたら、閉じ込められてしまいますよ?罠が有る可能性もまだ捨てきれないですし、ここは思い切って外に出た方が…」
だが、私の忠告に彼女は首をぶるんぶるんと駄々をこねる子供のように左右にふった。
「そとはあぶないの、へやはあんぜんなの」
そして、確信があるかのようにそう断言した。
……この言葉をどう判断するべきか……「教祖様」として、何か特別な力がそれを言わせていると考える事も出来るし、だとするならば、それは信頼に値するような気もする。
――――「考える事も出来る」「するような気もする」……か、そんな物に命をかけるなんて…プロの仕事としては駄の駄、下の下だな…。
自嘲しながらも、私の心は自然と決まっていた。
「……いいでしょう、私の命は、とっくにあなたのモノですから、教祖様」
どうかしている、とは自分でも思うのだが
彼女のまっすぐな目にかけてみるのも悪くない。なんて思ってしまったのだから仕方ない。
「……ふへへ~」
私が意見を受け入れたのが嬉しかったのか、彼女はそう笑った。
……初めて笑顔を見たけど…この子、本気で可愛いな!
ちょっとドキっとしてしまった。
「じゃあ、行きますよ」
手をひいて進もうとすると、なんだか抵抗感。
ん?と向き直ると、シャツの背中を彼女の手が掴んでいて……「おんぶ。」と来た。
「………………はいはい、どうぞ教祖様」
背中を差し出すと、嬉しそうに飛び乗り、ぎゅっ、と抱きつかれる。
あ~もう!柔らかいし暖かいし!
なんか守ってやりたくなるなこの子は!
元々守るんだけれども!仕事だし!
……けど、この子って確かもう13、4歳だよな…にしては、この言動の幼さはどういうことだろう…?
そんな事を頭の端で考えながらも、注意深く歩を進める。
しばらく進むと、前方に曲がり角が見えた。
確かあそこを曲がると部屋が……と、曲がろうとした直前、足が止まった。
「…ん~?」
背中で教祖様が不思議そうな声をあげるが、私はそれを指で制する。
これは、今までのような勘とかそう言うんじゃない……明確なまでの、殺意……!
あの曲がり角の先に、今にもこちらに襲いかかって来そうな程に強い殺意を発している何物かが居る…!
……どうやら、こっちの存在に気づいていて、気配を隠そうとしているらしいが…バレバレだよ……!
……気配からして数人は居そうだ…一人で相手にするのはちとキツイな……。
かといって、今から引き返して敵に気づかれれば、背中から撃たれて終わりだ。
やるしかないか……!!
「すいません、少し降りていてください」
私は小声でそう呟き、一つ前の曲がり角まで戻り、そこで教祖様を背中から降ろすと、腰のベルトに挟んでいたハンドガンを手にして、元の場所に戻る。
ズボンのポケットには予備の弾もあるし、弾切れの心配は無い……か。
ふぅーーーーーー……っと大きく息を吐く。
久々の実戦か……いいね、ゾクゾクしてきた…!
いかん、高揚感に酔いそうだ。
あくまでも彼女を守るのが第一。それだけは忘れないようにしないとな…。
ゆっくりと、足音を殺しながら曲がり角に近づく。
出来れば、敵の位置を確認したい所だが……相手がこちらに気づいている状況では厳しいか…。
すぅーー…っと、今度は息を吸い、覚悟を決める!
さぁ、殺そうか。
出来る限り姿勢を低くして、上半身を曲がり角から出す!
眼前に銃を構えた男が一人!
「なっ!?」
突然低い位置から現れた私に驚いているその隙に、迷いなく頭を狙って引き金を二度引く!
ガンガン!
轟音と同時に飛び出した弾丸が、狂いなく男の脳天を貫いた!
きははっっ!!飛び散れ脳髄ィっっ!!
素早く視線を可動域全開まで動かし、残りの敵をサーチ!
男の斜め後ろに一人と、真後ろに一人!
確認と同時に、斜め後ろの敵へとダッシュで近付く!
「なぁっ!?」
先ほどの男と同じような驚きの声を上げて、男の動きが一瞬フリーズする。
人間、相手が予期しない行動に出ると動きが止まるものだ。
「素人がぁァぁあアァあ!!!」
叫びながら!走りながら!撃つ!撃つ撃つ!!
見事に命中!当然だ!私だぞ!
くははっ!!やっぱ私は攻める方が性に合ってる!!
勝つ!倒す!蹂躙する!踏みつぶす!殺戮殺戮!!
次が最後の一人ぃぃ!!
と、体の向きを変えた瞬間、白刃が眼前に迫っていた!
「いぃっ!?」
とっさに体を反らし、それをかわすと、バックステップで距離を離す。
「……これはこれは…テロリストが刀とはね…」
沸騰していた脳みそに冷水をぶっかけられたように、急速に感情が冷えて行く。
危ない危ない…本来の目的は守ることだってのを忘れるところだった…もうあの頃の私じゃないんだから。
冷静に、目の前の男と向きあう。
三十代半ばだろうか、腕には日本刀を持ち、袴を履いているが、上半身は防弾チョッキに包まれているという、なんともミスマッチな恰好。
だが、その眼に光る殺気は、気を抜けば視線で射殺されそうな錯覚さえ受ける。
「……あんた、侍?」
さらなるクールダウンと、相手の気をそらす意味も含めて話しかけてみる。
効果があるとも思えないが、私は声を発していた方が落ち着く性質なので、特に反応は求めていかった……のだが、
「今の日本に、本物の侍なんて居やしないさ。俺も含めてな。ただ、銃が苦手なだけだ…」
律儀にも、返事が返ってきた。
「……そう、残念ね。初めて侍に会えたかと思ったのに」
「……あんた、日本人じゃないのか?」
男は少しだけ怪訝な顔をした。
ヘルメットで顔は見えなくても、喋りや雰囲気でなんとなく私を日本人だと感じたのだろう。
「……さあね、どっかに日本人の血は入っているんだろうけど、あいにく天涯孤独でね。よく知らないんだ」
「…悪い事を訊いたな」
「……ははっアンタ変な人だね。気にしなくても良いよ。別に私程度、とりわけ不幸ってわけでもないしな」
生まれてすぐ捨てられ、物心ついた時には中東でテロリストに兵士として育てられていた私に、出生の記憶も記録も無い。
最初は境遇を呪ったりもしたが、のたれ死ぬよりは百倍マシだし、その頃に作った偽の国籍と戸籍が有ったおかげで、今もこうして生きていけると考えると、むしろ感謝すべきなのだろうし、幸運だったとさえ、今は思う。
「そうか…だが、どちらにしても謝らなくてはな……申し訳ない、女を斬る趣味は無いが……今から、あんたを殺させてもらう」
……っっ!!
男に、おぞましいほどの殺気が戻ってきた。
一瞬で空気が凍りつき、重さを持って上から私を押しつぶしてくるかのようだ。
「……なら、謝るのはこっちだよ。死ぬのは……アンタの方だからさ…!」
先制攻撃っっ!!
瞬時に構えて引き金を引いたが、相手もすでに動き出していて、避けられた!
「くっ!」
動きを追いながら銃を連射するが、当たらない!
速い…!
しかも、ただ速いだけでなく、狙いを絞らせない不規則な動き。だが、確実にこちらに近づいてきている!
私は少しずつ移動しながら、何とか接近させないうちに勝負をつけようと銃を撃ちまくる!!
だが当たらない!
くそっ!化け物かよ!予知能力でもあるのか?!
気付けば既に相手の間合いだしっ!
銃口をかいくぐり、低い位置から刀を振り上げて来たっ!
ガキィィィィイィィン!!
だがその刀は、私を切り裂く事なく、甲高い音をたててその動きを止めた。
「……手甲!?」
男が驚きの声を上げる。
私の服の下には、腕の部分に手甲、足もスネの部分に鉄の板が仕込んである。
刃物相手を想定した装備だったが、まさかその刃物が日本刀とはね…!
「備えあれば何とやらっ!!」
左腕の手甲で刀を付け止めつつ、右手の銃を男に向けて発砲!
「くっ!」
男も身を翻すが、避け切れずに肩を直撃する!
痛みに顔をしかめた男は、一度距離を取ろうと後ろに下がろうとする。
そうはさせるか!
追い打ちをかけようと一歩踏み出したその刹那、男は下がりながらも片手で下から刀を振り上げて来た!
「いっっ!?」
あわてて体をそらすが、刀の切っ先が、フルフェイスのヘルメットの前面に引っかかり、ヘルメットが大きく跳ねあがる!
ヘルメットはそのまま天井に当たり、ガラゴロと耳障りな音を立てながら落下し、床を転がる。
ヘルメットが少し緩めで、さらに首紐を締めていなかったのが幸いした。
もし外れなかったら、跳ね上げられた勢いで首を痛めていたかもしれない…。
けれどおかげで、息が整えやすくなった。
ヘルメットに押し込められて汗でべとついた、灰色に近い長い黒髪を、ポケットに入れていたゴムで後ろに結ぶ。
うん、実に快適だ。
「―――アンタの動き、素人じゃないね…」
距離を離し、同じく呼吸を整えている男を、素直に称賛する。
近距離武器しか持ってない相手にここまで手こずるのは初めての経験だ。
「もしかして、銃弾を斬ったりできるんじゃないの?」
「まさか…俺が斬れるのは、精々人間くらいなものさ……」
顔色一つ変えずにそう言う男を見て、飽きるほど修羅場をくぐってきた人間なのだと、直感した。
……やれやれ…一方的な殺戮の方が好みなのだけれど……たまにはこんな勝負も面白いっ!
再び銃を構えて、狙いを定める!
それを察知して、またしても不規則な移動を始める男。
銃声と、跳弾の音が響く中、私は少しずつ下がりながら銃を乱射する。
正確に狙いをつけ撃ち、時にはやみくもにただ撃ってみたりもしたが、とにかく当たらない!
私の当てる技術より、相手の避ける技術の方が優れている!
それは認めるしかない。
ならば、そのうえでどう戦うか!
だが、相手は作戦立案の時間を与えてなどくれない!
再び、相手の間合いに接近される!
「ちっ!」
私は踵で床を叩き靴に衝撃を与え、靴先の仕込みナイフを飛び出させた!
その右足で、なぎ払うように蹴りを繰り出す。
右側は壁に近いので敵が避けるなら私から見て左か、後方に下がるしかないが、左に避けられる事は想定して、銃を左手に持ち替えてある。
後ろなら、距離を離せるのでもう一度仕切り直し!
……そんな計画は、瞬時に打ち砕かれた。
「………上かよ!」
男は私の蹴りを飛び越し、そのまま落下の勢いで刀を振り下ろす!
なんだよその跳躍力!
かろうじて腕を上げ、手甲で防ぐが、相手の力と勢いに押され、バランスを崩しかけたところで脚をかけられ、そのまま後ろに倒されてしまう!
「かはっ!」
背中を強く打ち、一瞬息が詰まる。
その隙を逃すほど甘い敵ではなく、倒れた私の心臓に刀を付きたてようと足を踏み出す!
……が!その瞬間、何かに足を取られて男がバランスを崩した!
今度はこちらがその隙を逃さず、倒れたまま銃を構えなおす!
「ぬぉぉおぉぉおおおぉぉ!!!」
「あぁぁぁあああぁぁあああ!!!」
雄叫びが交差する中、決着の時は訪れた…。
男の刀が私の左肩を貫き……私の銃弾が、男の首を貫いていた。
「不覚……!」
血と同時にその言葉を吐き出し、男の体が、ゆっくりと崩れ落ちた。
私は、男の手から離れた刀を、ゆっくりと肩から引き抜き立ちあがる。
「ぐっ…!!はぁ…はぁ…、痛っ…」
危なかった……男が足を滑らせなければ、引き金を引く前に心臓を貫かれて終わっていただろう。
…だが、それも狙ってあえて、最初に殺した男の血だまりと肉片が散乱するここまで下がっていた私の作戦勝ちだ。
……まあ正直、こんな不確定要素は、そうなれば儲けもの、程度の保険でしかなかったのだが、僅かでも有利になる可能性を追求するのがプロってモノだ。
「ごふっ…」
倒れこんだ男から、うめき声が漏れる。
まだ生きてるのか……。
とどめを刺そうと銃を構えたその瞬間…。
「おわった~?」
場にそぐわないのんきな声が、背後から聞こえた。
とっさに振り向くと、教祖様がこちらに近付いて来ているのが目に入った。
「馬鹿!まだ来たらダメだ!」
敬語も忘れて叫んだその僅か一瞬だった。
倒れていた男が、隠し持っていた銃を取り出し、教祖様に向けて発砲した!
「しまっ…!」
気づいた時にはもう遅い。
畜生!銃は苦手とか言ってたクセに持ってんじゃんかよ!!
まるでスローモーションのように、銃弾が教祖様に飛んで行くのが見えた気がした。
……?
いや、違う……確かに見えている…なんだ……なんだ、これは…?
銃弾は、飛んでいるのではなかった…。
止まって(・・・・)いる(・・)のだ。
教祖様の目の前で、まるで見えない壁に阻まれているかのように…。
「あ…くいの・・か・べ・・・」
男が、息も絶え絶えの中、目を見開きそう声を発した。
あくいのかべ……悪意の壁…!あれがそうなのか!
噂には聞いたことがある。
悪意を持って教祖様に触れようとする全てのモノを跳ね返すという、「悪意の壁」…!
悪意を持って放たれた弾丸や、刃物も防ぎ、教祖様の命を守るという…。
本当に存在していたのか…少しでも命を狙われ難くする為のブラフかと思っていたのに…!
しばらく宙に浮いていた弾は、勢いを完全に失うと、コトン、と音をたてて床に落下した。
「は…ははっ!」
笑えて来る。
私が守っていたのは、こんなとんでもない存在だったのか……。
そりゃあ、危機感も無いわけだし、私たちがただの飾りだと扱われていたのも良く解る。
「ふ…ぐふっ…」
床に伏していた男も、自嘲気味に笑ったような気がした。
そして……次の瞬間、目から光が消えた。
きっと、絶望と共に死んでいったことだろう。
己の無力さを嘆きながら…。
…ふと、私が「敵」と認識されていたら、こいつのようになっていたのだろうか…なんて、そんなどうでもいい事を考えてしまった。
……何をバカな事を…。仮定の話に意味は無い。
男の死亡をはっきりと確認して、私は教祖様に向き直る。
……「悪意の壁」が存在しなかったら、私は教祖様を守れなかった。
それに関しては、心底恥じると同時に、反省しなければならない。
まあ、悪意の壁を見た後では、本当に私たち護衛は必要だったのかと思わなくもないが……あまりに敵の前で何度も使えば、いつかは破る手段を見つけられる可能性もあるから、やはり使わずに守れるならその方がいいのだろう……と考える事で、自分の存在意義を守ることとする。
――いや、それよりも今はとにかく、教祖様を安全な場所へお連れしなければ。
「さあ、次の敵が来ないうちに部屋へ行きましょう」
そう声をかけるが、教祖様はなぜか、私の顔を、じっ…と見つめる。
何だろ?血で汚れてるのかな………
「…あっ!」
気づいた。気づいてしまって、思わず声が漏れた。
今の私は、ヘルメットを付けていない!
顔を合わせたら、選別される…!
慌てて両手で顔を覆うが、もう遅い。
教祖様は、ゆっくりと私を指差し、今にも言葉を発しようとしている。
まずい、まずい…!
私はどうなる?
「敵」なのか?
「味方」なのか?
どちらにしても、今までと同じではいられない。
せっかく歩き始めた新しい人生なのに…!
そして、教祖様の口が、言葉を…、発する…!!
―――――――――――――!!!
「―――こいびと」
………………へ?
「こい…びと?…恋人?」
敵でも、味方でもなく―――?
「うん、よろしく、こいびとさん」
教祖様は、満面の笑顔でそう言うと、呆けている私に飛びつき、唇にキスをした―――。
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