アマル・ソティラス 

黒又コト

第一章 転移編

プロローグ


 誰かが言った。夢など見ても無意味と。


 誰かが言った。希望など持っても無意味だと。


 誰かが言った。誰かを助けても、傷つくのは自分だけだと。


 誰かが言った。何かを得たとしても、何かは失うと。


 絶望の中、誰もがそれに共感する。何事にも逆らわず、ただ川のように決められた道を意思無く進めばよかったと。


 しかし、誰かは言った。夢を見るから楽しみが出来、希望が生まれると。


 誰かは言った。希望を持つから頑張れると。


 誰かは言った。誰かを助け、自分が傷ついても、わかってくれる者は必ずいると。


 誰かは言った。失ったものは数あれど、得たものも数知れずと。


 その言葉に誰もが打ち震えた。人はそう生きてきたと。


 そして誰かは言った。川は決められた道しか進めない。しかし、川は自ら大地を削り、進む道を作っているのだと。


 絶望の中にいた人々は、その言葉に奮起する。

 もう一度立ち上がらなくてはならない。

 もう一度力を合わせる時がきた。


 取り戻さなくてはならない。

 夢を見て、希望を持ち、助け合って生きていたあの日々を。



 人々は手を取り合い、祈る。


 この地を守護している精霊に。


 戦っている全ての者達に。


 そして、人類の希望に……希望の救世主に。


 

 その者は、どんな時でも諦めなかった。どんな逆境も乗り越えてきた。

 そして誰よりも強く、誰よりも弱かった。

 

 人々は思い出す。

 いついかなる時も、なんとかしてくれた救世主を。

 信じていれば、必ず答えてくれた救世主を。


 誰もがその者に、夢と希望を抱いた。

 その者を信じ、共に戦う覚悟を持って。



 それは、とある世界の物語。

 まだ誰も知らない、希望の物語――。 

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