主人公のいる世界

@sarubatake

第1話「まぁ、よくある展開だね」

突然だが僕は知らない世界に来た。


いや、正しくは違う。こういうべきか。


俗に言う「オタク」と言われる人達が集まってこの世界に流されたというべきだった。


こういうのは普通、「普通過ぎて取り柄がない奴」とか「強すぎる力がある」とかそういう人が送られるものなのだ。よりにもよって僕達を呼ぶとは......。この世界には祝福はないだろう、きっと。まぁ、それはともかくとしてとりあえず状況を整理しよう。まず、僕はこの場所、少なくとも自分の生きてきた場所とは考えられないだろう造りの大きなホール、そこには大きなテーブルがあり、甲冑や武器が置いてあり、ご丁寧にも「ご自由にお取り下さい」と書いてある。ご自由にってどういうことだ!?まぁ、実際オタクと呼ばれる僕らはご自由に眺めたり触ったりしているわけで何も言えないけれど。そういえばこの場所は少し肌寒い。そこまで気になるほど寒いわけでもないがずっといたい環境というわけでもない。なぜ寒いのか、自分の装備を確認しようとして......見なかったことにした。だってみんななんかカッコイイ黒のローブとか色々着てるのに(着るものはテーブルに甲冑しかないため、みんなが普通に初期装備である)僕の装備といえば、長袖長ズボンの無印ジャージ、要するに今までの世界と同じ服なのである。もしかしたらみんながみんな家でこんな服を着ているのかもしれないがそうだとしたら流石に痛すぎて目も当てられない。気を取り直し視界の上の方に集中すると何かが書いてあることがわかった。よく見てみるとそこには「ジョブ」と書かれており、職業のことだとわかる。わかったのはいい。その職業が問題なのだ。「モブキャラ」。ん?職業じゃないんですか?何度見直しても「モブキャラ」と書いており変化する様子もない。その下には何か緑のゲージのようなものが見え、おそらくHP的なあれなんだろうと思いながら、上方から目線を右方へずらす。すると右上には円のようなものがあり、そこには「16」としっかりと刻んであり、その周りにも何かゲージのようなものが見えるがこれについてはサッパリわからない。例えばこれが魔法P的ななにかだったとして自分のそれが多いのか少ないのかもわからないし、魔法が使える感じもしない。これがアニメとかラノベとかだったら練習とかトレーニングのはてに使えるようになったりするんでしょうね。モブキャラには関係ないですけど。ついでに鏡もあったので容姿が変わっていないかという小さな可能性にかけて見つめていたが(周りからの奇異の目線が痛い)そんなこともなかった。いつも通り男にしては少し小さい身長、短めの黒のストレート、首の左側についている切り傷、何も変わっていない。良くも悪くも何も変わっていなかった。この場所についてかれこれ一時間は経つが誰かが説明に来るということもない。嫌気がさしたのか十人ほどが既に出ていってしまい、残りはイライラし始め今にも出ていってしまいそうだ。さて、ここにいる人の話を(盗み)聞いていると1つわかったことがあった。それは......「ここには主人公しかいない」ということだ。そう、主人公しかいるはずがないのに僕はモブキャラなのである。確かにみんながモブキャラで実は主人公は1握りしかいないというのも考えられなくはない、があまりにそれは希望的観測だというものだ。周りでは主人公同士でパーティーを組もうとしているようで(ほとんどが主人公なので適当にパーティーを組もうとしているとも言える)茶髪のクリンッと少し外側が重力に逆らうように立っているショートの髪の身長の高いイケメン(僕にないものしかない)が「主人公の人一緒にいこーぜー!」など面白そうなことをしている。あれは隠れオタクなリア充だ間違いない。きっと皆もう待つことに嫌気がさしたのだろう、その声に連れられほとんどが出ていってしまった。というかほとんどに含まれていないのは僕だけになってしまっている。だからといってここから動いて何かなるかと言われれば何もならないので待つ。......寒い。来てからかれこれ2時間ぐらいたっているのではないか?流石にここまで待ったら来ないんじゃ......と思いながらも防寒具代わりにテーブルに置いてある余りの甲冑(ほとんど余っている)を着ようとしたところで「貴方はこれを着ることが許されていません。」というメッセージが出てきた。許されていませんってどういうこと!?モブキャラだから悪いのか!?モブキャラだからなのか!?無理とわかった以上、諦めて寒さに耐えることにする。......。......。......。......本当に来ない。え?こういうのって女神様とか頭がおかしそうな神様とか来るんじゃないの?ねぇ。本当に来なかったら流石に凍え死ぬよ僕。こうして1人になって見るといかにこの場所が広いのかということがわかる。ここまで来たら試しにホールを探索して見て何も無かったら出発しよう、うん、そうしよう。そうとなるとおよそ500mほど先にあるステージの横にある扉が怪しいというか逆にステージと出口しかないので探索と言ってもここしか探索できないわけだ。僕は期待もせずただただ広いこのホールを観察しつつゆっくり歩いていく。装備が置いてあるテーブルをすぎると案外早くついたように感じた。まぁ、言ってもそんなに遠くはなかったけども。扉の前で深呼吸をして一旦落ち着いたところで扉をあけ......ガタガタッガタガタッ......建付け悪すぎか!開かないにも程があるだろ!仕方ないので装備のおいてあるテーブルの剣を使いなんとか開けることに成功した。中には大きなダンボールのようなものが置いてあり、「開けるな、危険」と書いてある。なんだろうこのいかにも開けてください感満載のダンボールは。むしろ本当に開けたら危険な気がするよ。ということで、他にめぼしいものもないので扉を締めようとすると、突然ダンボールがガタガタ動き出した。うん、開けたら危険だな(確信)。僕はダッシュでそのダンボールから離れた後扉を思いっきり閉めた。あろうことかダンボールは僕を追ってきていたので本当にドキドキした。ハラハラして心臓止まるかと思った。チャーラーヘッチャラーなんかではもちろんないわけでなんなら今までで一番本気で走ったかもしれない。こんなことになるならさっさと出口から出てればよかった.....。今更行ってもどうにもならないけど。大きなダンボールが扉から出られるわけもなく扉に衝突し、痛々しい音を出していた。一応様子だけ見ようと扉を開けるとダンボールはまたガタガタ動き出した。一応言っておくとその後にすぐ思いっきり閉めた。......この中にはナニモナカッタデスネ。僕は扉に背を向け歩き出す。もう少しで出口というところで偶然なのか僕は「ガチャッ」と扉の開く音を聞いてしまった。意を決して後ろを振り返るとなんとも痛々しい格好のいわゆる女神のような何かがいた。もちろん、良かったのは格好だけだったようでホコリまみれの上髪はボサボサでなんとも残念な感じではあった。それに極めつけはダンボールを腰の部分に巻いているというか刺さって抜けないようと言った方が正しいか。某作品の言葉を借りればきっとこれが「ダメガミ」なのだろう。きっと整えればすごく綺麗になりそうな白髪、綺麗な蒼い目、健康なのか疑いたくなるほど白い肌、ここが異世界だと改めて思い知らされた。ところで仮に僕が相手の立場だったらどんな心情だろうか。絶対キレてるよね。......そうだ、逃げないと!後ろを振り返らないように僕は全力で走り出した。もうそれはさっきダンボールから逃げるのと同じかそれ以上で走った。とはいえ瞬間速は良くてもニートだった僕がスタミナなどないわけで50mでほぼバテていた。それをチャンスと思ったかもはや女神なのか幽霊なのかわからない何かはスピードを上げて走ってきた。走ってきたのがわかったのはいいものの僕はこれでも限界なので普通に追いつかれてしまった。これだけ走って息が切れてないとかどういうことなんだよ......。追いついたダンボール娘(仮)は自分がダンボールを巻いていることに今気がついたのか、ダンボールを脱ぎ脱ぎしている。......こういうのも悪くは無いなと思ったのは秘密。こんなことをしている間に逃げられるのではないかと考えはしたがまぁ、身体が悲鳴を上げているどころか絶叫していたので逃げることは出来なかった(走ったのは何年ぶりだろう)。


「あのーもしかして来てくださった主人公さんですか?」


今までのことを怒っていないのだろうかこの人は。もし僕が彼女の求める「主人公」だったらどうだろうか?きっと一緒に旅をするなり、きっと女神のご加護的なものがもらえるに違いないだろう。羨ましい限りですね、ホント!ただ、期待を裏切るようで悪いけど......



「僕はモブキャラですよ」



......そう、僕はモブキャラなのである。

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