第13話 アイのある部屋
こんな夢を見た。
自分の部屋ではない一室に、私は居る。灰色の生地に枯れた木々のイラストが織り込まれたカーテンがしっかりと閉まっていて、部屋はデスクライトの光だけだから、薄暗い。床はフローリングで、壁紙の色や木の香りから、ここがまだ建ってそんなに経過していない建物だというのが分かった。どこにでもある1DKの単身者用の部屋だ。いつも思うが、玄関から真っ直ぐ伸びる狭い廊下の途中に、台所があるのはどうかと思う。私が学生時代1人暮らしをしていた部屋は、トイレと風呂場が一緒のユニットバスではあったものの、台所は広くて調理するのに快適だった。
私は布団の上では真っ直ぐ微動せずに眠っているのに、ベッドで眠るとなると、ごろごろと動き回り最終的には、ベッドの端から落下する。だから、強いられる以外、必ず布団で就寝することにしているはずだが、この薄暗い部屋にはベッドがひとつ置かれていた。ベッドの足下には、備え付けのクローゼット、クローゼットの前には、髪の毛をたらした「私」が着た事もないスウェット姿で立っている。
びっくりして自然に耳に手をやると、持ってもいない高そうなヘッドフォンをしていた。今まで向かっていたのは、ベッドに背を向けて壁につけて置かれているパソコンデスクで、デスクトップ型の黒いパソコンが、見たこともないサイトを開いていた。
クローゼットとベッドの間に立つ私は、真っ直ぐ一点を見つめているだけで、ぼーっとただ立っている。目線の先には、壁に貼り付けられたカレンダーがあった。二周目の真ん中ぐらいに、赤い丸がつけられているが、何月の何日かわからなかった。
カレンダーが張られている壁には、他にもサブカル系のロックバンドのポスターや、フォトカードが何枚も貼られている。こんな趣味など一切ない。もし飾るなら、ヴィンテージ物のホーロー看板一択だ。
もう1人の「私」をずっと凝視していたが、動きがないし、私はゆっくりとした動作で、できるだけ音を立てないようにして、パソコンデスクの椅子に座った。どこにでもあるようなキャスター付きの椅子ではなく、座り心地のよい少し高めの椅子で、こだわりを感じる。パソコンまわりのものは、全部一般的なものより、少し高めで買いそろえられているのがわかった。
パソコンの画面に表示されているのは、やたらと暗いサイトのトップページ。漢字とひらがなとカタカナがあるがわかったが、文字までははっきり読めなかった。日本語で書かれているのは理解できる。色合いや、貼られている画像から、怖い話などを扱っているサイトのような気がする。
背後から突然、「サッサッサッ」と乾いた音がし始めた。歩いている音ではない、一箇所から、発せられている。音がするほうを勢い良く振り返る。
ベッドとクローゼットの間に立っていた「私」が、凄まじい勢いで、頭を上下に振っている。音は、私の髪の毛がこすれる音だった。私は髪が長いを、いつもゴムで束ねていて、おろすことはしない。「私」の体は不自然に動くことなく、頭だけを上を向き、下を向きと激しく動かしている。
背格好は私。
あれ、これ、私かな?
髪の毛の感じも、シルエットも私のような気がしてた。
うつむいているから顔は確認していないんだ。
こんなダサい上下スウェットとか、持ってない。
「私のようなもの」の頭の動きだけがさらに速くなり、髪の毛がどんどん振り乱していく。今まで見えなかった顔のパーツで、口だけが見えるようになってきた、髪の毛の間から見える口は、顔の半分にまで広がっている。
気づいたときには、「私ではなかったもの」に向かって、キャスター付きの椅子をぶん投げ、玄関へ走り出していた。履物も履かず、玄関の鍵がかかっていなかったことに感謝しながら、マンションだか、アパートの通路へと飛び出す。
外は夕暮れで、見慣れないビルばかりが乱立している都会の風景が広がっていた。ここの高さは四階ぐらいだろうか。エレベーターの個室が嫌で、階段を駆け下る。コンクリートの埃っぽいなかに、時々小さな砂利の感覚を足の裏が感じている。足を出すたびに、足から体温が奪われて、冷たくなっていく。
通りのアスファルトに飛び出したとき、夕暮れの暗さを感じ取った電灯がパッと灯った。反射的に目をやると、ちょうど今飛び出して来た四階か三階の壁が見えて、そこから、「私ではなかった」者の頭が出ていることに気づいた。
私は裸足のまま近くのコンビニに逃げ込んだ。
コンビニの店員は、金髪を短く刈り込んだ、片側の耳にピアスをつけている若い男であったが、私の姿を見て非常に驚いている様子だった。
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