Track-4 ドント セイ ツマンネ

 ボクが俗に言う萌アニメに出会ったのは去年の夏の蒸し暑い夜のことだ。受験勉強が夜中まで続き、気分転換がてらにテレビをつけるとハイテンションな音楽と共に画面がぐるぐる回る女子高生のアニメが始まった。ボクはそれまでアニメは「ドラ○もん」とか親戚のアニキと一緒に見ていた「ドラ○ンボール」の再放送くらいしかまともに見たことがなかった。


 話はどうやら主人公の女の子サイドの卒業式のようでしばらく見ていると後輩の女の子が「先輩、卒業しちゃいやです!」と泣き始めた。するとどうしたことだろう。上級生の女の子達はそれぞれ楽器を持ち後輩の女の子に向かい演奏し始めた。 その時ボクに電流が走ったのを覚えている。一見普通の女子高生が奏でる美しいメロディ、可愛らしい歌声。その曲は受験勉強で荒んでいたボクの心を癒し...あー、なんってゆーかすごく感動したっていうことですよ!おねぇさん!


 その後ボクはそのアニメをしかるべき所からダウンロードし(ほんとはやっちゃいけないらしい)そのアニメの一期から二期の最終回までを取り付かれたように毎日観賞しつづけた。その結果、志望校より2ランク下の向陽高校にしかうからなかったがバンドものアニメという自分がのめり込める趣味が見つかったことがたまらなく嬉しかった。お金がないからフィギュアやBDが買えないのが少し残念だけどね。



 午前2時すぎ、ボクはベッドの上で目を覚ました。そっか、軽音楽部に喧嘩を売ってその後りっちゃんでオナニーして眠ってしまったのか。


 明かりとクーラーが付けっぱなしの部屋でボクは部屋の壁を見つめた。ギター担当のらずにゃんのポスターや雑誌の切り抜きが一面中を埋め尽くしている。


 よし、次はらずにゃんだ。ボクはカッチョ良く水着姿のらずにゃんを指さすとおもむろに服を脱ぎ、親指と人差し指で輪をつくり息子をしごき始めた。ネットで落としたAVを見ると自分よりちんこが大きい男優が多くて少し萎えてしまうことがある。やっぱオナニーは妄想に限る。「よーいち君!世界を変えるのは想像力だよー」主人公の平丘由ちゃんの声が脳髄を突き抜ける。ああ、ユウニーもいいなぁ。


 そんなことを考えているとボクの息子は今夜2回目のフィニッシュを迎えた。終わり汁をティッシュでふき取ると再び睡魔が襲ってきた。



 「よう!おまえ、とうとうやったんだって?」


 登校中、マッスが話しかけてきた。他の生徒達が振り返る。誤解されるような言い方すんな。童貞捨てたと思われんだろ。


 「掲示板見たけどよ、先輩に喧嘩売った以上、本当にバンド組むしかないぜ。おまえ、楽器弾けんの?」


 また掲示板かよ。うちの学校の情報網は一体どうなってんだ。


 「いや、なんかあの時は勢いで言っちゃって。適当にごまかして逃げようかなって」


 ボクが頭を掻くとマッスがボクの耳に顔を近づけて言った。


 「おまえそれはマズいって。軽音楽部のボスの青木田はヤクザの息子なんだぜ。筋の通らない事やったら組織に消されるって」


 それを聞いてボクは股間がきゅ、となった。ヤバイヤバイヤバイ。楽器なんて小学校の時にやったトライアングルくらいしか出来ない。


 「とりあえず、オレも協力してやっから。メンバー探しとけよ」


 そう言うとマッスはボクの肩をたたき他の友達の方へ走っていった。メンバーか。そんな簡単に集まるだろうか。



 「ねぇ!キミ、1年の平野洋一くんだよね?」


 昼休み。後ろから声を掛けられた。振り返ると同じくらいの身長の男子生徒が立っていた。「はぁ、そうですけど」ボクが答えるとその人は言った。


 「おれ、2年の山崎あつし。昨日たまたま第2音楽室の前を通りかかったらアイツらに暴言吐いてるヤツを見かけたからさ。色々調べたらキミだってことがわかったんだ。なんであんなこと言ったの?」


 ボクは頭を抱えながら昨日言ったセリフを思い出した。「今日はりっちゃんで抜くからな!」今日のおかずを報告してどうする。


 「とにかくアイツらにケンカ売るなんてスゲェよ!バンドやるんだろ?良かったら元軽音楽部のおれが力を貸してやらないこともないかなー

と思ってさ」


 え、何?この人、ボクと一緒にバンドやりたいって言ってるの?ボクは彼の手を握り「ありがとうございます!お願いします!」と大声で言った。


 「はは、前々からおれもバンド組みたいと思ってたんだ。それよりさ、おれ、つまぶ○さとしに似てねぇ?」

 「いや、伊藤あ○しに似てますけど...」

 「あーあ、やっぱりバンド入るの、やめよーかなー」

 「いやいやいや!わ!ここに日本アカデミー賞受賞者がいる!オ・レ・○・ジ・デイズ!」


 B'zのウルトラソウルのように叫ぶと山崎あつし君は満足そうに笑った。


 「あ、おれの方が上級生だけど別にタメ語で構わないから。放課後、どっかで会える?」

 「じゃ、ここで。先輩、期待してます!」

 「はは、タメ語でいいって。昼休み終わるからこの辺で失礼するよ。じゃな」


 そう言ってあつし君は走り去っていった。こんな簡単にバンドメンバーが集まるなんて。なんてご都合主義なんだ。とにかくこれで3人いるからバンドが出来る。ボクはこのことを報告すべくマッスの携帯を鳴らした。

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