Track-3 ティラノの珍妙な冒険~黄金の水~

 ボクが軽音楽部のドアを開けると2年の不良学生岡崎、ミヤタがテーブルに座り、奥の方に青木田が立っていた。ボクは勇気を振り絞って連中に言った。


 「ちょ、ちょっと言いたいことがあるんれすけろォオ~」


 岡崎が唾を吹きだしてボクを笑う。


 「なんだお前。また縛られに来たのか。この変態オナニスト」

 「まさかまたバンドやりたいです、なんて言いに来たんじゃねぇだろうな、短小野郎」


 ミヤタが岡崎に便乗してボクをからかう。「舐めてんじゃねぇぞ。このゴミカス共!」とは言えずボクは下を向いたまま入り口に立っていた。


 部屋の奥にいた青木田が話しかけてきた。


 「まぁまぁ。平野君もこの軽音楽部の一員だろ。今年入部したただひとりの1年生部員だ。ここはひとつ、ゆっくり話を聞かせてくれよ」


 青木田がテーブルに座るようボクに促した。テーブルに座っていた二人は意外、という顔をしたが青木田の目を見るとすぐにニヤニヤとしたいやらしい表情に戻った。ボクがイスに座ると青木田が「平野君、ティーはいかがかね?」とボクに飲み物を勧めてきた。いつもとは違うさわやかな対応の青木田に対して


 「はい!お願いします!」とボクは反射的にお茶をオーダーした。この人たち、放課後にお茶会をしてるなんて結構かわいいところあるじゃないか。


 もしかしてボクと同じようにアニメとか見てるのかな。お茶の準備が整い、青木田がポットをティーカップにジョボジョボと注ぐと


 「ささ、熱いうちにお飲みよ」とボクの前にカップを差し出した。ボクは先輩の好意に甘えお茶を口に運んだ。口の中に正体不明の苦味が広がる。ん?なんだこれ?岡崎とミヤタがニヤけた顔をボクに向ける。口からカップを放そうとすると


 「ほら、一気に飲み干せよ。先輩のいう事が聞けねぇのかよ」


 と青木田が煽ってきたのでボクは残りのお茶を飲み干した。岡崎が立ち上がりカップの中にお茶が残ってないことを確認すると3人は大きな声でゲラゲラと笑い始めた。


 「こいつ!飲み干しやがった!」

 「マジで!ありえねぇ、普通途中で気づくだろ!」

 「あーあ、これでこのポットとカップ、使えなくなっちまったよ」


 どういうこと?3人を眺めていると岡崎がボクに言った。


 「お前が飲んだのは青木田のションベンだよ」


 ボクはそれを聞いて目の前が真っ白になった。「どーせならミルクもサービスしてやればよかったのによ!」ミヤタがテーブルを叩きながら大笑いする。青木田はボクと目が合うと「汚たね。飲尿野郎」と冷たい目をして罵ってきた。この野郎ぉ~!お前が注いだんだろうが!喉の奥に不快感がこみ上げてきてボクは一気にえづきだした。その様子を見てまた3人が笑う。ボクの怒りは頂点を超えた。


「たいばん!」


「は?なんじゃそりゃ?気持ち悪ぃアニメかなんかか?」


 ボクが立ち上がりテーブルを叩くとミヤタが怖い顔をして言い放った。威圧感に負けないよう、テーブルの端を掴んでボクは続けた。


 「ボクは今日かぎりでこの軽音楽部をやめしゃしぇてもらいます!そしてボクもバンドを組んで対バンしてあんた達に一泡吹かせてやる!」


 言えた。ちょっと甘噛みだったけど言えたぞ。「一泡吹かされたのはてめぇじゃねえか」ミヤタが立ち上がる。


 「調子コイてんじゃねぇぞコラぁ!」岡崎も立ち上がる。あれ?これ、ぼこられコース?殴られる覚悟を決めようとすると「まぁ待て」とテーブルに足をかけた青木田が2人を諭すように言った。青木田はボクの顔を見るなり続けた。


 「お前みたいなチビの短小クズにバンドが出来る訳ねぇだろうが。てめぇみてぇなナヨナヨしたカス野郎には誰も付いてこねぇよ。とっとと家に帰って

お前の好きなアニメのキャラでオナってろや」


 ブッチーン。ボクの中で何かが切れた。ドアノブに手をかけるとボクは叫んだ。


 「お前らみたいなチンピラDQN野郎、オレがバンド組んだら一瞬で蹴散らしてやる!ケツの穴洗って待っとけや!」


 暴言を言い放つとボクは音速のスピードでドアを開け、部室を出ると「今日はりっちゃんで抜くからな!」と言い残し全速力で学校を後にした。


 言っちまった。とうとう世界に喧嘩売っちまった。帰り道で夕日を見つめながらボクは思った。こうなった以上、本当にバンドを組んであいつらを見返すしかない。怒り、不安、恐怖。頭の中に色々な考えがぐにゃぐにゃと巡ってきた。いかん。すこし冷静になって考えねば。ボクは家に帰ると部屋にこもりネットで落としたアニメキャラのりっちゃんのエロ画像を見ながらセンズリをこき、ひとしきり情熱という名のJAMをぶちまけると疲れてそのまま眠ってしまった。

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