第8話
リストによれば船沢遊馬は格別ガラの悪い奴と言うわけではなく、大して目立たない人間らしい。教室でもいつも本を読んでいるような、そんな人。
だからなのか、図書館でよく目撃されているのだとか。
俺と天之原は高等部の近くにある図書館へ向かう。
図書館に行けば船沢は席に座っておとなしく本を読んでいた。
しかし、しばらくするとそんな彼の隣に座る一人の男。見間違うはずもなく、それはリストにある密売人の顔だった。
名前は
取引のシーンを見ることもない。俺はその二人を視界の中に入れた瞬間に、動き出す。
ここが図書館だとか関係ない。
とにかく俺は早くすぐに岩浦五十海の居場所を知りたいのだ。
だから、動く。
刀を取り出して、それを鞘から抜く。
周りは悲鳴を上げるけど、気にしない。船沢と丘野も気付いたけど、逃がさない。
駈けて、迫って、そして俺は刀を振る。
刀は彼らが先ほどまで座っていた椅子を両断する。
逃がさない!
俺は刀を振る。
船沢と丘野は逃げる。どうして自分たちが狙われているのかわからないとでも言いたげな表情をしている。
「ちょっ、なにっ」と船沢は言うが、わからないとは言わせない。後ろめたいことをお前らはやっているんだ。俺に斬られるくらいに、悪いことを。
俺は刀を振る。振り上げて、振り下ろす。
そのとき、丘野が動いた。
丘野は船沢の首根っこを掴んで、彼を差し出してきた。丘野は船沢を盾にしたのだ。
俺の振り下ろした刀は船沢を斬る。
船沢から血が噴き出して、俺は返り血を浴びる。幸運にも目に血が入ることはなかったので、返り血を俺は気にしない。脱力した船沢を横に避けて、丘野に迫る。何が何でも迫る。
丘野は近くにあった椅子を持って、それを投げてきた。俺は刀を振ってそれを両断する。
抵抗するな。
俺は刀を投げる。刀は弧を描いて丘野のもとをへと飛んでいき、その切っ先は丘野の鎖骨の辺りに突き刺さる。噴水みたいに血液を流しながら、丘野はその場に倒れ込んだ。
「岩浦五十海の居場所を教えてもらおうか」
言いながら、俺は丘野のもとへ歩み寄り、彼に刺さった刀を抜く。
「知らない」
「みんな、そう言って俺に斬られてきたよ」
「もう斬られてるんですけど」
「いや、斬ってない。刺しただけ」
「似たようなもんだ。……とにかく、俺は知らないぞ」
「嘘でもいいから知ってるって言ってくれよ。どいつもこいつも知らない知らないって。嘘をつくのも大概にしてほしい」
俺はいらいらしている。いろいろな要素が混じり合って、いらいらしている。
「今まで、結構な数の【白花の誉】のメンバーを斬ってきたからさ、そろそろ五十海に繋がる情報が出てきてもいいと思うんだよね」
「俺は下っ端だ」
「出たよ、下っ端。また下っ端だ。【白花の誉】は下っ端しかいないのかよ」
「密売人なんてことをするのは下っ端の仕事だ」
「じゃあ、五十海は何なんだよ」
「あの人は俺たちの元締め、リーダーだ」
「じゃあ、なんでそのリーダーがお前らと同じことをしていた」
「あの人の顧客は特別だ。最強の戌井涼梧、そこらへんにいる一生徒とは違う。俺たちが相手にしているような奴らと違って金を持っている。戌井涼悟を《デウス》の虜にして金を巻き上げるってことは、大金を稼げるチャンスってことだ。大金が稼げるってことはそれだけ責任のある仕事になる。そんな仕事を俺たち下っ端に任せられるわけがない」
「なるほど。じゃあ、その勢いのまま五十海の居場所を教えてもらおうか」
「それだけは教えられない」
「知らない、じゃなくて、教えられない、か。それってつまり知ってるってこと?」
「知らない。何を言われようとも俺は何も知らないぞ!」
「ああもう面倒臭い。いいから黙って居場所を教えろ!」
いらいらしていたからだ。
俺は刀を再び丘野に突き刺す。彼の腹部に一突きだ。
丘野は呻いた。
「早く教えろ!」
そう言って、また俺は一突き。
丘野は吐血する。
「早く!」
またまた一突き。
丘野の意識が飛んだ。
「くそっ!」
毒づいて、俺は丘野の腹を蹴ったけど―ー丘野は目を覚まさなかった。
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