精霊使いの剣舞 〜紛い物の魔王〜

津勢覇 八天巳

第1話 紅蓮の中で

4年前 オルデシア帝国辺境 「教導院」にて

ああ、僕はここで死ぬのか…

少年は紅蓮の炎が燃える中、1人でそのようなことを考えていた。周囲に人影はあるが、生きているモノは確認できない。いや、する必要もないだろう。なぜなら、彼らを殺したのは、少年自身なのだから。

〜数時間前〜

彼らは、少年の親友であり、この世界で唯一信頼できる人物に対して、「薬を使って、自我をなくそう」などとのたまっていたのだ。少年は友人を守るために彼らを殺し、友人を逃がそうとした。

だが、それは少しだけしか実行することができなかった。突如現れた炎の巨人。それによって施設は破壊され、息のある者はほとんどいなくなった。

少年はそんな中、突如現れた炎の巨人の威圧感の前に何の行動も起こすことができなかった。目の前で、巨人が暴れている中でもただ自らの死が近づいていることを感じ、友人の無事を願うだけしかできなかった…

そして、その時は訪れた。

巨人から感じる威圧感が跳ね上がったと感じた瞬間に、少年は全身にとてつもない衝撃と熱気を受け、吹き飛ばされた。少年は途切れそうになる意識の中、巨人が施設を爆発させているのをみて、意識を失った。

〜現在〜

目覚めて最初に感じたことは息苦しさと全身から感じる鈍い痛みであった。

「…僕は‥生きていたのか…」

とりあえず、全身が痛いが動けないほどではない。友人を探そうとも思うが、もうこの近くにはいないだろう。生きているかどうかの心配も必要はない。なんせ彼はこの「教導院」で最強とも言えるのだから。

「とりあえず、ここから逃げないとな…」

まだ火は消えておらず、燃え続けているのだ。ここにいては、いづれ死んでしまうだろう。

少年はそう考え、足を踏み出そうとした。そこに絶望が現れた。少女がそこにいた。彼女は美しかった。それ以外に言えないほど、彼女は美しかった。しかし、その身から放たれる威圧感は先ほどの巨人に匹敵するほどだ。少年は動くことができずにいた。少年にとってはかなり長い数秒が経過して、少女が口を開いた。

「ねえ、私と契約しない?」

少年にはそれが悪魔のささやきのように聞こえた。

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