Chapter06 冥王 12
「こ、お、の、野ァ郎ォォォォッ!」
一、二、三、四、五、六――十四。嵐のように放たれるグレンの連撃が、
裏拳、肘打ち、膝蹴り、回し蹴り、踵落とし、正拳突き。確かな技術に裏打ちされた、しかし獣のように荒々しい打撃の奔流が、荒れ狂う。
「ふふ」
その流れを一身に向けられる
拳撃に対しては、当たる瞬間に掌を添えて軌道を逸らす。蹴撃に対しては、巧みな体捌きで軌跡を潜る。
「こぉ、のぉっ!」
そして焦りが生んだ大振りの隙を突き、携えた拳銃を、グレンの胸元へと突き付ける。
ゴリリ、と胸部装甲を擦る
その引金が、静かに引かれる。
かちり。
撃鉄が鳴った。そして、それで終わりだ。
銃声は轟かない。弾丸は射出されない。ただ冥の薄笑いだけが、グレンの双眸をいやと言うほど射貫く。
「――ッ! クソがぁッ!」
大振りの横薙ぎ。音速の壁に迫りそうなそれを、冥は当然のように、しかも踊るようなステップで回避。そのまま二つ三つとステップを踏み、冥は間合いを開ける。
そして、これ見よがしに銃口へ息を吹きかける。
「どうした少年、これでもう四回くたばったぞ?」
拳銃をくるると回転させ、余裕たっぷりに冥は笑う。慣れた手付きで弾倉をスイングアウトさせれば、輪胴の中には弾丸の一発どころか、僅かな霊力の粒さえ見つからない。
冥は、遊んでいるのだ。
あからさま過ぎるその侮蔑に、しかしグレンは歯噛みする事しか出来ない。怒りにまかせて突っ込んだ結果、三度目の死を額に受けたとあれば。
「見せつけてくれるじゃねえか、この野郎ォ……!」
憤りを奥歯で磨り潰しながら、グレンは眼前の敵、ファントム3を睨む。
その身を包むのは、戦い始める直前に展開した鎧装である。
色こそ紫と黒のツートンカラーだが、造り自体は
注ぐ視線に殺意をたっぷり混ぜ込みながら、グレンは思い出す。
この一方的な状況の、始まりを。
◆ ◆ ◆
『へぇー。これは困ったなぁ』
グレンの挑戦に対し、冥はやおら立ち上がる。
『全力で抵抗しないと、殺されてしまうかもなぁ』
物騒な言葉とは裏腹に、口元には笑みが広がる。
その笑いを隠すように、冥の手首が翻る。リストコントローラがきらと輝く。
『ファントム3、鎧装展開』
何気ない挨拶をするように、冥はファントム3となった――そこまでは、特に変わった様子は無かった。
違ったのは、その次だ。
冥はおもむろにタブレットを操作し、何かのプログラムを起動。
そして表示された内容を見た……いや、『読んだ』のだ。
つらつらと走る視線。すいすいとめくる指。
『なんだなんだオイ、読みかけのマンガでもあったのかよ?』
鼻をならすグレン。だが、そんな余裕はすぐさま霧散する事になる。
『まぁ、そんなトコだな』
邪魔にならぬよう、冥はタブレットを腰の後ろに装着。
次いで、立ち姿が変わる。隙が消え失せる。
手付き、体捌き、足運び。その全てが、数瞬前の冥とは根本から違っている。
どんなカラクリかは知る由も無いが、冥はその技量を根本から書き換えたのだ。それも、恐るべき練度の達人に。
『面白れぇ!』
その豹変に、しかしグレンは嬉々として突貫する。それくらいの歯応えが無ければやりがいが無いと、そう思っていたのだ。実際に拳を交えるまでは。
――後はご覧の通りだ。冥はグレンの打撃をそよ風のようにかいくぐりながら、霊力武装のリボルバーを構築した。
それを用いて、先程からグレンをいたぶり続けているのである。
ち、とグレンは露骨に舌を打つ。
「ファントム3、だったか。アンタ、見た目より遙かに強かったんだな」
「当然だ。僕はファントム・ユニットの近接戦闘指導もやってるからな」
「マジかよ」
仮面の下で眉をひそめたグレンは、そこでふと気付く。
「……いや、待った。つーことはよ、アンタひょっとして、ファントム4の師匠だったりするのか?」
「おや、察しがいいね。その通り、ファントム4は僕がマンツーマンで指導した生徒だよ」
まだまだ練り込みが足りない部分はあるけどね、と肩をすくめる冥。実際、ファントム・ユニット内で最も体術に優れているのが、このファントム3こと冥・ローウェルだ。
そしてその秘密が、先程立ち上げたタブレットのプログラムにあるのだが、グレンにとってそんな事はもうどうでも良い。
「そうだね、コレも何かの縁だ。キミも少し指導してあげようか。何、金はいらないよ」
「いらねえ。つーかそれよりもよぉ――」
ぎしり。
握り込んだ拳と、笑いの下で噛み合わされる歯が、同時に軋む。
「――要するに、アンタはファントム4より強いワケだ?」
「ん? まぁ、そうだけど」
「だったらよォ……!」
ゆるりと、グレンの構えが変わる。上体がじりりと沈み、跳びかかる直前の肉食獣じみた緊張が全身に走る。
「アンタを倒せば、俺はファントム4より強いってワケだな?」
「ほう? 大きく出たな、少年」
三日月のような口元を更に引き上げながら、冥は銃把を握り直す。
――数度打ち合った程度だが、冥はグレンの実力を概ね正確に見て取っていた。
技量は辰巳と同等か、やや上くらいだろうか。もし二人が立ち合えば、きっと良い勝負を見せてくれるだろう。
しかして、それ以上に不可解な点が冥の興味を引いている。
何故、このグレンとやらはファントム4に、辰巳にこだわるのか。
何故、このグレンとやらは拳の感触がファントム4と、辰巳と似ているのか。
何かある。他人の空似という単語で済まされない、何かが。
だが。
「けどな、少年。僕ははっきりいって、強いぞ?」
そう言って、冥は唐突にリボルバーを背後へ振り抜く。そして撃つ。
弾倉内への弾丸構築、構え、照準、射撃。一瞬で完了した一連の動作から放たれた弾丸は、紫に光る転移術式の右、誰も居ない壁へと直進。射線上へ浮かんでいた小さな光の球体を、容赦なく砕いた。
「あ?」
目を見開くグレンは、球体の正体を良く知っていた。
あれは、偵察術式の一種だ。以前、サトウが使っているのを見た事がある。
「……なぁ、サトウさんよぉ。このタイミングで水差さないでくれよ」
構えを解かず、振り向く事もせず、グレンは落胆をぶつける。
「いやぁ、ははは、すみません。見た事がない術式だったので、つい調べたくなりまして。それに……」
微かな苦笑を浮かべながら、サトウは紫色の転移術式を見た。
「……もしあれを潜れたら、
「ほほう。中々良い根性をしているな、サトウとやら。少し気に入ったぞ」
「気に入るなよ!? 状況考えろよ!?」
「いやいや、彼は仕事熱心な良い男だよ。機先が読める事もあるが、何より控えめな所が特に良い。知り合いの坊主を指導して欲しいくらいだ」
ころころと冥は笑う。戦いの真っ最中だというのに、まるで屈託の無い表情だ。
「あー」
その笑顔に、何だかグレンは毒気を抜かれてしまう。
それに、そもそもサトウの術式は偵察目的ではあるまい。本当に調査するつもりなら、サトウはもっと上手くやる。
ならば、何故わざとばれるような事をしたのか。
「……あー」
理由は分かっている。あれは、遠回しな帰還の催促だ。
本来グレンの仕事はサトウをこの場から安全に退避させる事、それだけなのだから。
「ところで少年、キミは他に何か仕事があったりするのか?」
ちら、と冥はグレンの背後を見やった。そこにはグレンが潜って来た青色の転移術式――フォースアームシステムが、未だ輝いている。
「ち、まぁな」
舌打つグレン。冥もどうやらサトウの狙いを看破したらしい。
これは明らかな挑発だ。言外にサトウが含ませた催促を、塗り潰すための。
「ま、僕はどっちでもいいぞ? やってもやらなくても。時間ならたっぷり持て余してるからな」
くるくる、と冥の手元で回転するリボルバー。霊力光を反射するその銃身を見ながら、グレンは一つ息をつき、構えを解いた。
「……いや、止めとくぜ。ちったぁ気も晴れたしな」
手を振り、グレンはサトウを促す。つい先程まで撒き散らしていた闘気は、朝靄のように消え去っている。
実際、今の言葉に嘘は無い。ファントム4と戦えなかったのは残念だが、その師と拳を交える事が出来たのだ。
収穫は、大いにあった。こんな尻切れトンボな終わりでも、納得出来るくらいに。
「そうですか、それは良かった。ではファントム3さん、申し訳ありませんが、先にお暇させて頂きますね」
「ああ、気をつけてな」
見送る冥の視線を背に、まずサトウが、次いでグレンが、青い門を潜る。
そして最後に、転移術式を筆頭とするあらゆる術式が、地獄の火洞窟の大ホールから消失した。
グレン達は、この場における作戦行動を全て完了したのだ。
後に残ったのは紫の転移術式と、それの管理者である冥だけだ。
「ちぇー、引っかからなかったか。以外と冷静だったな、アイツ」
冷たい暗闇に不満を飛ばしながら、冥はリボルバーの構築を解除する。
「もう少し楽しみたかったんだけどなぁ。上手くいかないもんだ」
数秒前までリボルバーを構築していた霊力光に、冥は息を吹きかける。きらきらと踊る霊力の粒は、淡雪のように吹き消えて行く。
中々に綺麗な眺めではあるが、それを見る冥の双眸には、うっすらと不満が浮かんでいる。
「もう少し遊べると思ったんだけどなぁ」
要するに、今度は冥が不満を覚えてしまったのだ。折角楽しめそうだったグレンへの指導が、尻切れトンボになってしまったために。
「状況を考えればまぁ、妥当な判断ではあるけどさ」
ぶつくさ言いつつ冥はタブレットを取り出し、通信回線を接続。今現在、最も白熱しているだろう身内、即ちファントム4へと回線が繋がり、立体映像モニタが灯る。
「やぁファントム4、そっちはどうなってる?」
『……大物がかかった』
「は?」
目が点になる冥に、辰巳は無言でオウガのカメラ映像を繋ぐ。
かくして冥のモニタに映りだしたのは、地球の軌道上でゆるりと身を波打たせる、巨大な神影鎧装の姿であった。
◆ ◆ ◆
冥がグレンと、オウガがライグランスと拳を交えていたのと同時刻。
ファントム5――霧宮風葉は、人造Rフィールドの赤色を突き破っていた。
「い、っ、けえええええ!!」
轟然と猛るサークル・セイバーに任せて、風葉は赤い結界内にレックウをねじ込む。
入り込んだ結界内に、当然地面は無い。ここは霊力供給術式を改竄した、即席のトンネルなのだから。
入り口は地球、ウェストミンスター区方面。出口は宇宙、ニュートンの遺産方面。とは言え出口側は現在突貫で建造中であり、その建造をフレームローダーが追いかけている格好である。
重力は若干あるが、その方向は地球、ウェストミンスター区の方向だ。ぼやぼやしていると自由落下に引きずられるまま、大変な距離をダイビングする羽目になる。
なので、風葉は速やかにスラスターを起動。落下の方向を調整し、危なげなく赤色の壁面へ到達。
勢い余れば反対側へ突き抜けかねないサークル・セイバーを巧みに操作し、風葉はレックウの両輪を赤色に接地。間髪入れずアクセルを全開にし、レックウは猛然と人造Rフィールドの内壁を駆け上がっていく。
ごう。ごうう。
時折、風葉の鎧装に装着されたスラスターが唸りを上げる。ぐらつきかけたレックウの体勢を補正し、また先を行くフレームローダーへ追いつくための加速も兼ねている噴射だ。
だがその響きは、あまりにも獣の咆哮に似ている。それが支える一直線の疾駆も相まって、あたかも獲物へ直進する狼のようにも見えた。
「――追跡者」
そんな獣が突撃してくる一部始終を、怪盗魔術師はフレームローダーのコクピットで見ていた。
オウガローダーで言えば肩部ブロックにあるこのコクピットは、大鎧装のそれと普通のトレーラーを足して二で割ったような造りをしている。
左右に並んだ二つのシートを、ぐるりと囲むモニタ群。一見すればまさにトレーラーの運転席であるが、無論実際は違う。
ハンドルも、シフトレバーも、フットペダルの類いも無い。
代わりにあるのは大鎧装の規格に応じた操縦システムと、複雑怪奇な霊力供給術式の光だけだ。拍動のような明滅を繰り返す光の紋様は、二つの操縦席を中心にフレームローダーの内部システムへ深く刻み込まれている。
その中枢の片方、メインシートに座る怪盗魔術師が、おもむろに指を鳴らす。
ぱきり。その音に従う霊力供給術式の拍動が動きを変え、サブシートの方へと流れ出す。
溢れた霊力は瞬く間に人型のワイヤーフレームを編み上げ、コンマ数秒の内に鎧甲冑の分霊となって具現化した。
すなわち怪盗魔術師の戦闘形態、レギオンである。
「頼むぞ」
「ああ」
応答は必要以上に短い。もはや芝居がかった仕草どころか、普通に会話する余裕すら彼等には無いのだ。その証拠が、レギオンの胸部装甲に刻まれている。
ピンク、青、白。黒い甲冑の中で唯一鮮やかな色彩を保っていた三本線が、ごっそりと無くなっているのだ。
それぞれエルド、ハロルド、マクワイルドが着ていたシャツの色に対応しているこのラインは、彼等がレギオンを抑えている事を示す証であり、また彼等の状況を示すパラメータでもあったのだ。
フレームローダー起動の時点で七割近くを消耗していた三本線が、新たな分霊の作成によってまた少し縮む。このザマでは例え神影鎧装を展開出来たとしても、果たしてその姿をいつまで維持できるやら。
だから彼等はフレームローダー形態で消耗を極力抑えながら、可能な限りニュートンの遺産へ近付こうとしていたのだ。そして人造Rフィールドは、外敵を寄せぬ最高の防壁となりうる筈だったのだが、思うようにはいかぬものである。
さりとて、敵はたったの一人。しかも目標へ辿り着くまで、あと数分あるかないか。
おもむろに、怪盗魔術師が口を開く。
「キミがどうなろうと、神影鎧装展開は始めるぞ」
「ああ、知っている。これから捨てる石に一々構うな」
「違いない」
淡々と呟いて、レギオンはコクピット外へ滑り出る。
轟々と、烈風のように叩きつける霊力。それを全身に浴びながら、けれどもレギオンは少しもバランスを崩さず、ひょいひょいとフレームローダー後部へやって来た。
ごう、ごう、ごう。相も変わらぬ咆哮を上げるレックウは、もう随分と肉薄してきている。レギオンの斬撃の射程に届くほどに。
「早いな。そう急がんでもよかろうに」
独りごち、レギオンは肉厚の二刀を引き抜いた。
その二振りを翼のように構えれば、化鳥の如き影が赤い壁面にばさりと広がる。
寄らば、討つ。
言葉無き必殺の意志が、目前のレックウへ通牒を送る。
だが、レギオンは聴いたのだ。
声なき風葉の声を。
フェンリルの、殺意を。
ごうう、ごうう。今まで以上にスラスターを噴射させ、レックウが更なる加速をかける。
サークル・セイバーによって切り裂かれたRフィールドの残滓が、間欠泉の如く吹き上がる。そして乱杭歯を生やすレックウの前輪が、レギオンの影をばりばりと噛み千切った。
これが、風葉の答えだ。
やってみろ、と。
そんなレックウを操るライダー、ファントム5の表情は見えない。スモークがかったフェイスシールドに隠れているからだ。
だが。
そのスモークですら隠しきれぬ瞳の金色が、レギオンを射貫いた。
「――」
ぞっとするほど、冷たい光。すり切れた自我を、それでも奥底から寒からしめる感情の名前を、レギオンは一秒遅れで思い出した。
恐怖だ。
「あ、あ、あぁっ!!」
そんな感情を否定するように、化鳥は左右の刃を同時に振り抜いた。X字を描きながら、襲い来る霊力の斬撃光。それを目前にした風葉は、しかしアクセルを緩めない。
それどころか、風葉はおもむろにフェイスシールドを開いたのだ。
半透明のシールド下から現われたのは、いつもと変わらぬあどけない顔立ち。だがその歯を剥き出しにする顔は、明らかに肉食獣のそれであり。
「邪ぁ魔ぁぁぁぁぁっ!」
かくて放たれるは霊力と衝撃を伴う攻性音波、ソニック・シャウト。鼓膜どころか甲冑すら劈きかねないその衝撃にレギオンは防御姿勢を取り、斬撃は弾かれてRフィールドの飛沫と消えた。
「ぬぅっ」
威力自体はさほどでも無い。距離と相対速度にある程度相殺されたためだろう。
だが
結果としてフレームローダーは山道を進むように上下し、その上に立つレギオンは当然たたらを踏む。
そしてその隙を突き、風葉は叫ぶ。
「セット! サークル・ランチャー!」
『Roger CircleLauncher Etherealize』
赤い地平を切り裂くように、一文字を刻む青色の一本線。よくよく見れば術式の紋様を内包しているそのラインは、即座に円錐の群れを上空へ射出。
あわやトンネルの天井に触る直前で静止した霊力の円錐――サークル・ランチャーの弾丸は、くるくると数度回転した後、切っ先をフレームローダーへと向ける。
そして、射出される。
白煙の如き霊力をたなびかせ、殺到する円錐型のミサイル群。その数、八発。
「味な真似をっ!」
それを迎撃すべく、レギオンの双剣が嵐のように踊る。
上下左右、あらゆる方向から飛来する円錐を、正確無比に両断していくレギオンの斬撃光。
分割された円錐は即座に炸裂し、辺りに爆音と霊力光を撒き散らされる。
もうもうと、ごうごうと、赤いトンネルを満たす光と音。その領域を突き破りながら、フレームローダーは尚も疾駆を止めない。
「……むっ?」
だが、レギオンの動きは止まってしまった。レックウの姿が見当たらないからだ。
ほんの一秒、目と耳を塞いだ爆音と霊力光。既に赤色の向こうへ過ぎ去ったその中に、あのライダーは紛れてしまったのか――?
無論、そんな筈は無い。素早く視線を巡らせれば、レックウの代わりに赤色を走る青色の線が見える。
Rフィールドの壁面を、螺旋を描くようにぐるりと回るサークル・ランチャーの弾帯。素早くそれを目で追えば、トンネルの天井をさかさまに疾駆しているレックウの姿があった。
そのライダーと、レギオンは目が合う。
爛々と光る、金色の双眸。それを真正面から覗き込んでしまったレギオンが、またもや動きを止める。フェンリルの脅威に呑まれたから、というだけではない。
『もう良いぞ、僕。上出来だ』
同時に耳朶を叩いた通信が、時間稼ぎの終わりを告げたからだ。
「――おお」
振り向かなくとも、怪盗魔術師とリンクしているレギオンには分かる。遙か先を行く人造Rフィールドの先端、そこが遂にニュートンの遺産へと触れたのだ。
最早、無駄な霊力を使う理由は無い。振り抜きかけた体勢のまま、レギオンは双剣をぴたと止める。
だが風葉からすれば、その体勢ははただの隙にしか見えず。
「もう一度っ! サークル・ランチャー!」
『Roger CircleLauncher Etherealize』
先程の倍、十六に及ぶ円錐がくるくると回転した後、切っ先を定めてフレームローダーへと殺到。
一直線に突貫するミサイルの群れ。それを迎え撃つかの如く、フレームローダーの各部装甲がおもむろに展開する。
前部、上部、両側面。起動時に霊力を吸収したフィンのみならず、全面の装甲を展開するフレームローダー。装甲の隙間から内部機構と術式の光を剥き出しにするその姿は、戒めを解かれた獣のようでもあり。
そんな装甲表面で炸裂する円錐は、辛うじてレギオンを爆砕したものの、やはり肝心のフレームローダーは止める事が出来ず。
『では、行くぞ。神影鎧装、展開――バハムート・シャドー。顕現』
かくて溜息のようなつぶやきと共に、現われた巨大な神影鎧装が、赤いトンネルを埋め尽くした。
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