Ｎの子供たち

伝達 二〇一三年 秋

　瀬戸際まで追い詰められ、最後の最後、藁にもすがる思いで電話をした。

　電話番号を押している途中、思わず画面を閉じてしまう。それが十数回続いた。　

　発信ボタンを押した後も、電話が繋がる前に切ってしまおうか、と思った。

　けれど、ワンコールで相手が出て、

（もしもし）

　という落ち着いた男性の声を聞いた途端、すとんと私の心は定まった。

　後は勢いでしかない。

　これまでの経緯と数日後に迫った脅威――それらが溢れるように次から次へと口から滑り出てゆく。

　それと同時に感情が昂り、涙が止まらなくなった。

　私が言葉に詰まると、電話の向こう側から、

（落ち着いてゆっくり話をなさい。ちゃんと聞いていますから）

　という落ち着いた男性の声が聞こえてくる。

　その声に背中を押されるように、私の口から言葉が流れ出た。

　今まで怖くて誰にも話せなかったことが嘘のように、これまでの出来事をすべて話していた。

　いつもの自分であれば有り得ないような、とても散らかった話になってしまった。

　それにもかかわらず、電話の向こう側の男性は辛抱強く聞いていた。

　時折、

（ふむ、それは辛かったろうね。それで？）

（おや、それは大変だったね。よく頑張ったね。それからどうしたんだい？）

　という、同意と共感と傾聴が入り混じった相槌が挟まる以外、彼は余計なことは一切言わなかった。

　それでも真剣に聞いていることが伝わってくる。

　そして、とうとう話が終わった後で、

（お話は確かに聞きました。本当に辛かったでしょうね。よく耐えましたね、立派ですよ）

　と言われた時、私はぼろぼろと瞳から涙を流してしまった。

（後はお任せ下さいね）

　電話の向こう側から落ち着いた声が聞こえている。

（では、浄化を始めましょう）