9.

 「……そんなことが」


 明美あけみが学校を無断欠席なんて珍しいと思っていたら、痴漢にあっていたらしい


 冗談半分で明美をいじろうと思ってたのに、とてつもなく重い話を聞かされた


 それで朝から明美の様子がおかしかったのか……


 「でも今日って明美電車できてたよね?怖くなかったの」

 「そりゃあもちろん怖かったよ。

 けど、助けてくれたお兄さんにお礼言い損ねてたからもしかしたら………って思って。それで……」

 「無理して電車乗ったのね。ったく、こういう時に迷惑をかけないようにひとりで我慢するのは明美の悪いクセだよ」


 明美は昔からお人好しだ

 周りに迷惑をかけないようにいつも気を配っている

 だからこそ周りに迷惑をかけないために無理をしてしまう


 「はぁぁ、私も探すの手伝ってあげるって。あとこれからは一人で電車に乗らないこと」

 「で、でも電車に乗らないとあの人も探せないし学校にも行けないよぉ」


 この子に手を出した痴漢野郎、本気で誰だよ!!

 よくもこんな可愛くて純粋な明美に手を出してくれたわね

 痴漢にあったトラウマってどのくらいの間続くんだろう

 はやくいつもの明美に戻って欲しい……


 「大丈夫、大丈夫。私が明美が乗る駅まで行ってあげるから」

 「え!?そんなの海音みおんちゃんに悪いよ……」

 「私は何があっても明美の駅まで行くからね。一人で怖い思いなんてさせないから」

 「海音ちゃん…………うぅ、ありがとう。ほんとは一人で電車に乗るのとっても怖かったよーー」


 だからいつも自分の気持ちに素直になれって言ってるのに

 ほんとにこの子は世話がやける


 それにしてもそのお兄さんとやらがいてくれて本当に良かった

 満員電車だと身動きも取れにくいし、ましてや顔よりも下なんて普通気づかない

 そのお兄さんが気づいてくれなかったらどうなっていた事か……


 しかも、明美の話によると痴漢を証明するためにそのときの画像を駅員さんに見せたという

 どこからどう見ても変態行為にしか思えないが見方によっては明美の思いを最優先してくれたのかもしれない


 駅員さんにその写真を見せたら厳重な注意か罰金が請求されてもおかしくない

 むしろ注意で終わることなんてそうそうないだろう

 いくら人助けとはいえ、痴漢の現場を撮ったことは事実なのだから


 明美が責任を感じそうなので言ってないがそのお兄さんはかなりの紳士だ

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