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 僕は打ち合わせを終えると、そのまま原宿に行って、服屋を見て回った。僕は別にいいと言ったのだが、編集の人がどうしても送ってくと言ったので、仕方なく送ってもらうことにした。僕は原宿駅から表参道を渡り、明治通りを進み、渋谷方面に向かうのが好きなので編集の人には原宿駅で降ろしてもらった。表参道の通りを渡り、十字路に出ると原宿のラフォーレに入る。目当ての服がなかったので、その隣の隣の隣辺りにあるH&Mに寄った。値段が安すぎるのが気になりはしたものの、ポロシャツとVネックのTシャツを購入した。

 その後はGODIVAでチョコを食べ、今度は渋谷まで歩いて行った。

 渋谷までにある店もチェックしたが中々良いのは見つからない。そもそも、ファッションについてあまり詳しくないので、ここで見るのは結構少なかったりする。

 慣れない服のセンスについて自分に問うのも、何もかも。

 僕は渋谷までの道で、自分に問い掛ける。

 何もかも、小説のためだ。

 小説のために慣れないファッションについても自分なりに勉強したし、スポーツだってする。映画だって極力見るようにするし、勉強のために読書も欠かさない。

 つい、鈴野千香のことを思い出した。彼女は、小説家だったことにひどく恐怖していた。最後のあの文章は、きっとそうだったのだろう。小説家になること。僕の、叔父のような存在になるのが、ひどく恐かったに違いない。怖かったに違いない。

 孤独。

 誰といても、誰かと抱き合っても、僕は孤独を感じる。

 何か他人の些細な嫌なことがあれば、それで僕は孤独を感じる。ああ、僕と本当に分かり合える人はいないのだと、無駄に悩んでしまう。

 自分のことでさえ完璧に分かり合えることは不可能なのに、どうして他人と完璧になることが可能だろうか。

 道を歩くと誰かにぶつかる。真っ直ぐは無理だ。戦後のあけっぴろげな道なら、目を瞑っていても真っ直ぐに進めただろう。だが現代は目を瞑ったらぶつかってください、ぶつかりますよと言うようなもので、とてもじゃないが一歩も歩けない。目蓋を開かなきゃ、一歩も歩けない。歩くことを許さない。誰かにぶつかりそうだったら止まり、道を優先したり優先されたり、そんなことを繰り返す。

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