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 小説を途中で止めた。ただのインクの染みが眼球を永続的に縛り付ける呪いになるのは理解出来たが、これは小説と呼べるのかどうか不明だった。

 彼女は日記を書いている。僕はそう思った。片方では何が何日に何が起きたかを書いていて、もう片方では彼女が叔父に対してどう感じたのか。そして暮らしていてどういう心情だったのか。事細かに書いている。

 リビングに行って、果物を食べた。酸っぱい物が舌に必要だったのでキウイを食べた。包丁使いが器用じゃないため、半分に切って片っぽをサランラップに包んで冷蔵庫に戻し、もう片方をスプーンでほじくるという子供でも出来る食べ方だ。緑の果実と黒い粒々とした種が口の中で砕かれる。砕かれる度に甘さ二十パーセント、酸っぱさ八十パーセントの汁が放散する。

 酸っぱさに紛れたビタミンのおかげか。頭は幾分冷静になった。

「しかし、もう一度あの小説を見るのは無理だ」

 少なくても、今日中には不可能だろう。僕の脳は、それほど疲労している。

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