look…

蒼ノ下雷太郎

プロローグ

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 彼女は、余分なものまで持っていこうとする。

 頭は回るくせに、回転するだけしてあとのことは考えない。

 荷物になることを考えない。

 彼女は日々の引っ越しに、どこで手に入れたのか植物やら機械の部品やら、ビンやらを持ってきては部屋にかざる。それは、ときに芸術品のように飾られることもある。ビンを三角形に並べたり、機械の部品を、木でつくった棚に置いたりと、彼女の美的センスはピカイチだ。やりたいことは分かる。だが、それが命取りになったら元も子もないじゃないか。

「……あと、こいつ寝てばっかりだ」

 時計を見ると、朝の九時。

 もう朝と言ってられなくなる時間帯、でもこいつはベッドのシーツにくるまってスヤスヤと眠っている。元からここにあったベッド。どうにか洗ってキレイにはしてもったいないが、ここに置いてくもの。まさか、これまで持ってこってわけじゃないよね。

「おい、ねぼすけ。起きてよ。……ねぇってば」

 すやすやと、彼女は眠っている。

 黒いベリーショート、服も黒い格好が多い。今着てるのは黒いYシャツと、下着だけ。 私が女だからってもう少し服を着てほしい。隣りにこんなのがいても対応に困る。

 私は窓を見る。


 ――地下都市、七番街。

 通称、中心路。


 部屋を満たすのは日差しではなく、はるか天上に並ぶ巨大なライトの一群。

 その光が、むきだしの窓ガラスからこぼれていた。

 窓から見えるのは、円環状の立体道路――その円の内側にある、高木のように林立するビル群。

 私達はある高層ビルの一室で寝ていた。

 たまたま、下の階にいる族と交渉することで一時期的にだが宿を借りられたのだ。

 といっても、仕事の報酬ついでみたいなもんだけどさ。

 私は身支度を終えている。

 朝食はいつもの缶詰。

 地下都市では通貨代わりになっている、永久保存食品。過去の人類史の遺産らしい、腐らず、蓋を開けなければ何百年も保ってられるものなんだとか。事実、私達は腹痛どころか満足と腹を満たした。(といってもペースト状にされたもので、味も薄めだし、満たしただけで、おいしさの欠片もない代物)

 ――人類は地上を汚染し、住処を自ら失ったあと、この地下都市に居住してきた。

 その有様がこれだ。至る所がスラム化し、細かく集団が分かれ、抗争に明け暮れている。

 今も、窓から注意深く目をこらせば戦いのあと、血や肉が、見られるはず。

「……むにゃ?」

「やっと、起きたか」


 朝だよ、と私は彼女の背中を蹴った。

「起きなさい、ノヴァ」

「……んぅ、相変わらずイチルは厳しいなぁ」

 朝なんだから愛をもって接してよと彼女は言う。寝坊して遅れる奴に愛はないと私は返した。

 私達二人は用意した缶詰を、ベッドに座って食べる。

 スプーンは毎度使ってるヤツ。缶詰は毎度食ってる奴。何度目のサバ味か分からないが、食べぬよりは健康にいい。

「くそまずっ」

 空気を読めぬ人はほっておく。

 私はごちそうさまといい、ノヴァは一応食べるが何もせずにまた寝ようとした。

「って、寝るな!」「ぎゃひん!?」

 ノヴァの頭を叩き、着替えさせて廊下に出てエレベーターへ。

 最後に族の人と挨拶をして、で、別れなきゃ。

 エレベーターの中。

「もうちょい、いてもよかったんじゃない?」

「一週間ルール。情報屋の鉄則でしょ、住処を毎度変えるって」

「でもなぁー」

 エレベーターから、外の景色が見えた。

 壁が外の映像を写しているようだ。

 林立するビル群。

 大勢の人々が住まう七番街――通称、中央区と呼ばれる場所。

「でもでもー、アタシには強力な能力者様がいるしー」

「こら、私をアテにするな」

 能力者。

 どういう経緯か不明だが、人類は超常現象を自在に引き起こす能力者なんてものを生みだしてしまった。

 ある者はライターもないのに炎を起こし、ある者は雷を起こす。

 私も、そういう能力を持っている。

「アタシみたいな能なしとは違うのにー」

「自分で言わないで」

 能なし。

 能力者じゃない者を辱める言葉。侮蔑。

 ノヴァは、能力者ではない。

 だが、彼女にはそれを十分補えるほどの別の力がある。

「それに、探偵さんには必要ないでしょ?」

「ふふっ、それもそうだけどね。……でも」

 ノヴァは私に近寄る。肩をくっつけてきて、左手を――私は叩いた。

「うぅ……お、おっぱいも必要だよ」

「ブッ殺すぞ」

 スポットライトに照らされた壁は、ガラスのようにかすかにだが私の姿も映し出す。

 水色の長い髪。白いパーカー、黒のジーンズの少女。

 これが私だ。

「いいじゃん、イチルはおっぱい大きいんだよ。あまりあるほどあるんだよ。それはもっと公共のものとして提供すべきだよ」

「………」

 一瞬、ここから落としてやろうかと本気で思った。

 エレベーターは十階に着く。

 私達は族の長にあいさつしに行く。あとお礼。

 族。

 この地下都市では、人々がかたまり集団化したものを族と呼ぶ。

 チームでも、組織でもない、族だ。



「……ぷはぁ、朝のスポットライトは眩しいねぇ」

「そだね」

 空を見上げる。

 地下都市、それは地下に築かれた広大な街。

 六角形の形をしており、右から時計回りに一番街、二番街と続き――中央の七番街を入れて七つの街がある。

 それが、地下都市。

「ねー、今日はどこ行く-?」

 ノヴァが聞く。

「どこ行こうかねー」

 呑気に、私はまだ決まってない今日の住処を妄想した。


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 第一話

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