第5話 願い事のルール
熱を出して寝込んでいた美少女は元気になった。
ついでに俺(鉛筆)の不思議な力も判明した。
とりあえず一つ一つ、順を追って説明していこう。
*
*
*
ルシィは本当に元気になった。
それはもう、
あれ? 病弱設定どこいった?
って思うくらいに。
ちなみに、以前までは外に2、3歩出たらふら~っと倒れてしまう程だったらしい。
それが今はどうよ。
「お母さん! こっちこっち!」
住み慣れたダントンの街を初めて見るかのように、はしゃぎまくって手を引っ張っているわけ。
「お待ちなさい、ルシィ。ほらセビー、ルシィが行ってしまうわ」
「はーい!」
家族3人で街をお散歩。
いいねえ。ほのぼの、良い風景だ。
お父さんがいないのが残念だけど。
ちなみに俺(鉛筆)で書くと、願い事が叶うようだ、という事実が判明してから3回ほど試してみた。
『ちょっと実験してみよう。何か願い事がある?』
「うーん……。やっぱり、お父さんにもう一度会いたい」
『うん、じゃあそれを書いてみよう』
「……分かった」
日記の1ページに可愛く、たどたどしく書かれた願い事。
――ルシィとお父さんを、もう一度会わせてほしい。
俺も見たいもん。ルシィが喜ぶ顔。
俺は強く願ったよ。
でも日記は何の反応もなかった。
どうやらダメみたいだ。
死んじゃった人間が生き返るとか、霊魂と再会するとか、そういう願い事は叶わないみたいだ。
『ごめんね。ダメみたいだ』
「ううん。いいよ。えんぴつさんは悪くないよ」
寂しげに笑う美少女、8歳。
こんなに大人びて聞き分けのいい子どもなんて、ちょっと可哀想。
もう少しワガママでもいいくらいなのに。
『他に願い事はある?』
「う~ん……。戦争が終わってほしいとか?」
『いいね、それ書いてみようよ』
「え、でも。もしまたダメだったら……」
『ちょっとくらい平気さ。まだまだ長いでしょ?』
俺はルシィを元気づけるように笑顔になっているつもりなんだけど、そういう風に見えているんだろうか?
「……分かった。書いてみるね」
ルシィは真剣な眼差しで、また日記に願い事を書いた。
――コガリア共和国とベルボルド帝国の戦争が終わりますように。
戦争なんて不幸と憎悪しか招かないからね。
俺も当然ながら強く願ったよ。
ルシィのために、みんなのために。
でもこれもダメだった。日記は反応なし。
「……何もおきないね……」
『うん……』
どうやら、世界を変革するとか、俺の手に余るような具体性のない願い事も実現しないみたいだ。
『ダメかあ』
「えんぴつさんちょっと減っちゃった?」
『いやいや、言うても。たかが2ミリくらいだよ』
「うー……」
ちょっと心配そうに見つめるルシィ。
くぅ。可愛すぎる。
『じゃあ最後にもう一つだけ試してみたいな』
「……うん」
『何か周りに見えるものでこうなればいいなって言うのはある?』
「まわりに見えるもの……?」
いつもの子供部屋で辺りを見回すルシィ。
お兄ちゃんの勉強道具と教科書くらいで、あんまり物が置いてない部屋なんだよね。
「あ……これ……」
ルシィの目に止まったのは窓際に置いてあった小さな花瓶と、ちょっと枯れかけた花。
品種名は知らないけど、6枚の白い花びらが3,4つ咲いてる。
でもそのうち2つくらいは枯れかけてて、少し黄色くなっていた。
「このお花、もう一度綺麗に咲かないかなあ」
『いいね。書いてみようよ』
「……うん」
ルシィは本当に素直なんだよ。
笑顔が見たいんだ。この女の子のさ。
――この花をもう一度綺麗に咲かしてほしい。
俺は願う。ルシィの喜ぶ顔が見たい。
するどどうだい。日記が光ったよ。
太陽の灯りが照らされるような温かい光に包まれて、気づけば花はまた綺麗に咲いていた。
「すごい!」
少し驚いて、満面の笑みを浮かべるルシィ。
そうそう。この笑顔が見たかった。
『叶ったね』
「かなったねえ」
どうやら叶う願い事は、ルシィのことや、ルシィの目に入るごく狭い範囲での事に限られるみたいだ。
可能性を考えてみると、もっと試してみたいことがいっぱいあるんだけど。
「もうこれでいいよね。えんぴつさんはあまり使いたくないの」
『……わかった』
ルシィは優しいのよ。
鉛筆には限りがあるからね。
俺(鉛筆)の残りのことを心配して実験はもういい、ってさ。
3ミリほど芯が削れちゃったけども、なにせ元々17センチもあるんだぜ。
全然問題ないでしょ。
今はもう、このルシィの願い事が叶う能力で、どうやったらルシィを幸せにできるかなあ、って事をすっごく考えている。
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