裏切りの緑!!

 幌幌町の城に一人の美少女が到着した。

 長い髪が軽くウェーブがかかっている。そして少し褐色した肌が健康的な印象だ。

 俗に言うナイスバディの身体を美しく魅せるよう、歩く。その歩き方はモデルのようだ。常に誰かに見られているよう、意識している。

「あらん?獅子堂梅雨ししどうつゆじゃないのん?もあなた召集に応じたのかしらん?」

 美少女…獅子堂 梅雨はカドミウムをきつい瞳を以て一瞥し、鼻で笑う。

「カドミウム。もうお歳なんだから、その露出はやめた方がよろしくてよ」

 カドミウムはキーッとなり、梅雨に近付き、鼻に人差し指を当てる。

「私とキャラが被ってるからって、嫉妬はよしてねん!!」

 梅雨はその人差し指をグッと持ち、捻った。

「イタタタタ!何すんのよん!」

「私とアンタがキャラ被ってる?笑わせないで下さる?オバサン」

 梅雨はカドミウムをガッツリ睨んだ。

「その辺にしておけ、梅雨」

 梅雨から遅れて入ってきたデカいロールケーキ?に止められ、梅雨は人差し指を離した。

「覚えておいた方がよろしくてよ。あなたが紅一点だった時代は終わっているの。オ~ッホッホッホ!」

 梅雨は笑いながらカドミウムの前から立ち去る。カドミウムは梅雨の後姿を射殺す勢いで見つめていた…


 ダイオキシンの玉座にかしずく梅雨…

「ダイオキシン様、園園町そのそのちょう支部支部長獅子堂 梅雨。到着いたしました」

【獅子堂 梅雨よ、良くぞ参ったな。暫しゆっくりし、旅の疲れを癒やすがよい!!】

「お心遣い有り難く頂戴致します…それで私のお部屋は?」

【アパートを探すがよい、言っておくが自ら探せ。家賃も自分で支払うのだぞ!!】

 召集しておいて自腹かよ。と内心で舌打ちをする梅雨だが、表情にはおくびにも出さずに、ただニコリと笑った。

「解りました。それでは早速物件を探しに行って参ります」

 梅雨はデカいロールケーキをヒョイと持った。

 ダイオキシンンは愕然とした。と、言うか、あからさまにガッカリした。

 ダイオキシンは、あのロールケーキはお土産だと思っていたが、それは違ったのだ。

 ロールケーキに見えたのは、それを横から見た為だった。

 それはロールケーキではなくカタツムリの殻だったのだ!

 カタツムリは食べられない。寄生虫が怖いからだ。そもそも食べようとは思わないが。

 ダイオキシンは口惜しいが仕方がないと言った感じで、獅子堂 梅雨の後ろ姿を眺めていた…


「私の通う学校は幌幌高校か。その近くの部屋を探さなきゃね」

 とりあえず街に出る梅雨。幌幌町を散策していると、すれ違う男共の視線を集めた。

「ふん…ここの男共も私の虜になるのね…」

 梅雨は上機嫌になり、町を歩く。

 ふと気が付くと幌幌高校の前に到着していた。案外城から近かったらしい。

「今日は来る気がなかったから道だけ覚えたと言う事にしましょうか」

 来た道を戻ろうと踵を返す梅雨。

 その時!一瞬視界に入った女子集団が梅雨の背中を寒くした!!

 再び振り返る梅雨。そこには丁度下校しようとしている、四人の美少女がいた。

 一人は背が小さく、フワフワな髪型をしながら頬を赤らめツンツンしている。

 端の一番背の高い女の子はスラリとした身長でポニーテールが良く似合う、爽やかに笑う女の子。

 その次に居たショートボブの顔色の悪い儚げな笑顔の女の子。

 そして…

 中心に位置し、先頭で歩いている少女…

 アイドルと間違わんばかりの可愛さ、隙の無い立ち振る舞い。腰までかかる長いストレートの髪。

 この女が私の背中を寒くした女だ!!と梅雨は直感で理解した。

 その中心にいた女の子と目が合った。露に向かってニコッと微笑む美少女。嫌味を全く感じさせない、可愛らしい笑顔だった。

(こいつ…かなり出来るわ!)

 梅雨も負けずに微笑み返しをした。

 しかし、美少女は自分の向けた微笑みの他、何のリアクションも取らずにお友達の方を向き、お喋りを再開した。まるで眼中にないような振る舞い。さっき感じた嫌味が無い可愛らしい笑顔とは真逆の感覚!!

(こいつ…)

「駄目だぞ梅雨。正体がバレたら厄介だ」

 言い知れぬ不快感を感じてそのままぶん殴ってしまおうか、と考えた梅雨だが、鞄の中から聴こえた声に踏み留まった。

「大丈夫よ。そこまで短絡的じゃないわ」

「そうかな?カンキョハカーイに鞍替えしたお前だ。短絡的じゃない訳は無いだろ?」

 梅雨は押し黙り、そしてゆっくりと口を開く。

「…仕方ないじゃない…アイツの恐ろしさ…目の当たりにしたでしょう?」

 梅雨は唇を噛み締め、それ以上は口を開かなかった。


「今の女…読モかなんか?」

 桜花はさっき微笑み返してきた女の子の事を皆に訊ねた。

「…ブツブツ…見てないから…ブツブツ…私に見られちゃ迷惑だろうし…ブツブツ…」

「解らないのら。どーせ流行りに乗っかってる女の子なのら」

「確かに、雑モみたいですの」

 確かに、外見はそうだ。自分の方が圧倒的に可愛いが。

 不安分子はなるべく早く排除するのが外ヅラを保つ秘訣なのだ。故に桜花はそう 言った他人の内面(主に自分への評価)を察する力に長けていた。

 なので先程の美少女が自分の裏と表を見抜いたように一瞬表情が変わったのを見逃す事は無い。

「まあ…私の方が可愛いから知ったこっちゃねぇけどな」

 気にはなるが、この先二度と出会う事が無いのなら構う事も無い。

「そうだ!私の家に来ません?実家から美味しいお饅頭が送られて来たんですの」

 力付くで話を逸らそうとする白雪。桜花に同意しないと後でいろいろ面倒くさいが、いちいち構いたくも無かったのだ。

「…ブツブツ…私をお饅頭というハイカロリーなものを食べさせて肥やす気ね…ブツブツ…」

「私の方が絶対に可愛いって。そう思うだろ?な?」

「甘いモノは苦手なのら~…」

「私の方が可愛いだろ?な?なな?」

 白雪は溜息を付いた。やはり同意するまで桜花の問いは続きそうだったからだ。

 

 家に帰宅した桜花は鞄をひっくり返した。

「ぐえぇぇぇ…桜花、少し優しく扱ってくれ~」

 雷太夫は鞄の底に入れられている。なので教科書やノートの下敷きになっているのだ。

「ツチノコ、さっきの女なんだがな」

「だから私はツチノコじゃなく太った短いマムシ…ぐええええ!!」

 桜花は雷太夫を力いっぱい握り締めた。

「何でもいいだろツチノコぉ!話の腰折るなよ!」

 蛇なのに絞め殺されそうになる雷太夫。いっそのこと噛み付いて毒を喰らわせたいと思ったが、桜花が怖すぎるので踏み留まる。

「解ったからやめれ~!内臓出るぅ~!」

 こう言って離してもらう事が関の山だった。

 桜花はようやく雷太夫を解放した。

「はぁっ!!はっ!はっ!!…で、さっきの女の子が何だって?」

「ああ…何か臭かったんだよ。香水で隠してたんだが、一瞬臭ったあの匂い…あいつ、ラフレシアンじゃねーか?」

「うーん…確かに微かに気配は感じたが…どっちかと言うと、カンキョハカーイ側のような…」

 雷太夫はカンキョハカーイの幹部、ヘドロ、シーオーツー、カドミウム、更にはスイギンと同じ匂い…いや、気配を、あの女の子から感じたのだ。

 桜花はタバコに火を点ける。リラックスモードの桜花はヘビースモーカーなのだ。

「ぶっはああぁ~…敵か。同じ歳くらいの奴とやるのは初めてだなー」

 全く躊躇せず言い放った。

「と、言っても、ラフレシアンぽい気配も確かに感じた。ちょっと待て」

 雷太夫はメモリーカードみたいな物を取り出し、口に加える。

「何だよソレよ?」

「幌幌町に従者がどれだけいるか調べる。この世界のGPSみたいに捜せるんだよ」

 感心する桜花。

 さっきの女がラフレシアンなら、メタボなマムシとか、でっかいヒトデとか、ゲテモノが憑りついている筈だ。

 しかし、そうなると向こうも此方を割り出す事が可能と言う事になるが、ツチノコやヒトデがバレようが向かって来るなら返り討ちにすればいい。と割り切る事にした。

「えっと…この位置は私だろ…棘紅郎の位置はここだ。マーキングの珊瑚も一致する。黒乃守も紅葉にマーキングしているな…白雪のマーカーは不動王…で、この位置…」

 何かマーキングとか言ってるが…まあ、自分達とゲテモノ達は飼い主と下僕みたいな関係だ。

 要するに自分の主人だと他の従者に教えているのだろう。そうしないと従者同士一人の女の子とかち合う可能性もあるからだ。

 …しかしゲテモノが自分を巡って争う姿を想像するとキモい以外に無いな、と桜花は思った。

「……ん?」

「どーしたツチノコ?」

縁是留えんぜる?縁是留だって!マーキングは…獅子堂 梅雨…画像も見てみるぞ!」

 GPSだけじゃなく画像も見れるのか、と感心した。なかなか多彩な機能を持っているゲテモノだ。と。

 雷太夫は暫く考えている。そして簡単に痺れを切らした桜花。

「なんだよ縁是留とかいう奴はよ?やっぱりラフレシアンじゃねぇ?」

 黙ったままの雷太夫は、遂に口を開く。

「縁是留は惑星ドリームアイランドのフラワーパーク王国女王、ラフレシア・ケイティ様から命を受け、地球にラフレシアンを捜しに行ったんだが、行方不明になってなぁ…」

 ほうほう、フラワーパークとやらの頭がラフレシアンのボスと言う事か。

「ケイティ様はドリームアイランドの二大勢力の一つ、カンキョハカーイと熾烈な争いを繰り広げていた。カンキョハカーイの総王、ダイオキシンとは互角の力で、このままでは共倒れになってしまうって事で、フラワーパークとカンキョハカーイは不可侵条約を結んだんだが、戦争の決着は付けなければならないとこの地球で代理戦争をする事になってだ。その戦士に選ばれたのがお前達ラフレシアンぐえええええええええ!!!」

 桜花は手刀で雷太夫を机にギリギリと押し込み、グリグリと引いたり押したりした。

「テメー等の戦争に他の人間巻きこんだ訳かオイ!!おかげで私はクセェ思いしてんだよ!」

 桜花は雷太夫を絶命寸前まで追い込んだ。それ程腹に据えかねたと言う事だ。尤も、常に追い込んで入るけども。

「そ、それはスマンと思っている~…だから報奨金を出すと…」

 桜花は押し斬っていた手刀を離した。

「そーだった!金が貰えるんだったぜ。バイトするよか割いいしな」

 桜花は金の為に戦っているのだ。

 惑星ドリームアイランドの戦争や、ラフレシア女王とダイオキシン総王の確執など全く関係がない。金さえ貰えれば、カンキョハカーイと戦うのだ!!

「そ、それにしても、何故縁是留がラフレシアンを見つけたと報告をしなかったのかが解らない…」

 雷太夫は舌をチロチロと出して考えている。この辺はやっぱり蛇だな、と思う。

「本人に聞けばいいじゃねーか。どこにいるか、だいたいの場所分かるだろ?」

「そ、それもそうだな……桜花、行くぞグエッ!!」

 桜花は雷太夫の頭を拳で叩き付けた。

「命令すんなってんだろツチノコ!何で私がオメーの疑問解決の為に出歩かなきゃなんねーんだよクズ!」

「し、獅子堂 梅雨がカンキョハカーイかもしれないんだぞ?」

 なるほど、それならラフレシアンとして行動しなければならない。お金の問題だし。

 桜花はブツブツ言いながら秋物の服に着替えた。

「どこにアイドルのスカウトがいるか分からねーからなぁ~」

 桜花は外出時は常にオシャレな服に着替えているのだ。何時、何処で芸能界からスカウトが来るか解らないからだ。

 

 そして獅子堂 梅雨は案外簡単に見つかった。雷太夫の従者のメモリーカードは、ラフレシアンの現在地を知る役割にもなっている。従者いる所にラフレシアン在りだから。

「あら?アナタは?」

 とびっきりの笑顔で梅雨を偶然発見した事にし、話かけた桜花。

「あ、あら、先程は……」

 梅雨は驚いたが、桜花の「少し話をしませんか?」の言葉に従い、何故か学校近くの廃墟に連れ出された。

「こんな所で何の話を?」

 髪を掻き上げ、少しウェーブのかかった髪を跳ね上げる梅雨。連れ出すなよ鬱陶しいと思わせているのだ。

 ならば桜花も面倒な手順は踏む気も無い。と言うか初めからそんな気はさらさら無い。

「単刀直入に聞くけど、あなたはラフレシアン?カンキョハカーイ?」

 ピクリとした梅雨。何の話で連れ出されたかと思ったら結構な爆弾だったのだ。

 ちょっとだけ汗が出る。どう答えたら正解なのか?そう思案している。

 その時、すかさず雷太夫が桜の鞄から踊り出た。

「縁是留~!居るのは解ってるんだぞ~!!」

「じ、従者!?」

 ハッとする梅雨!目の前にいる、髪の長いアイドル顔負けの美少女はラフレシアン!なんとなくそうかな~?と思っていたのがドンピシャだった。

 そもそもラフレシアンかカンキョハカーイか聞いてきた時点で99パーセントそうだろうとは思っていたが。

 咄嗟に後ろに跳び下がる梅雨。桜花から間合いを遠く取ったのだ。

「雷太夫!?雷太夫か!?会いたかった!!」

 梅雨の鞄から現れたのは鬼のようにデカいカタツムリ!

「もう出てきたの縁是留!?こっちの準備はまだなのに!!」

 梅雨は慌てて変身携帯を掲げ、変身した。

 眩い光の中から現れたのは、緑の魔法少女のようなコスプレ美少女。

 桜花と違い、フリルは控え目で、オーバーニーでは無く、ルーズソックスを履いている。スカートは桜花のそれと同じ位の短さだ。当然ちょっと動いただけでもパンツが見えるだろう。

 そしてこれも当然だが、頭にバカデカい緑の花を咲かせていた。

「恵みの新緑…育つ生命の鼓動に感動…だけど!!湿気含めば膨らむ髪が不快!!美少女戦士!!ラフレシアン レイニーシーズン!!」

 モデル歩きから右手を額に、左手を胸に、手のひらを前に向けポーズを取る。これがレイニーシーズンのキメポーズだ。

「変身しやがったなクズ!!」

 桜花も応えるように変身した。

「咲き誇る桜…目にも艶やか心も豊か…だけど!!湧いて出て来る毛虫が不快ぃ……!!美少女戦士!!ラフレシアン チェリーブロッサム!!」

 ピンクのラフレシアンと緑のラフレシアンが対峙した!!両者の間に火花が散っている!!

 しかし雷太夫と縁是留は相変わらず再会を懐かしんでいる。

「しかし、なぜラフレシアンを見つけたと連絡をくれなかった?」

「したかったんだが…恥ずかしくで出来なかった!!」

 雷太夫の懐で涙を流す縁是留。恥ずかしいとは一体どうゆう事か?自分も仕えているラフレシアンがアレだから、結構クる物があるけども。

 号泣する縁是留をなだめながら考える雷太夫 。

 その時!カドミウムが機害獣アブラヨゴレに乗っかって現れた!!

「レイニーシーズン!あなたは気に入らないけどぉん!!チェリーブロッサムはもっと気に入らないから加勢するわん!!」

 梅雨はニヤッと笑い、アブラヨゴレの頭に飛び乗った。

 ちなみにアブラヨゴレはアルミ鍋に手足が生えた形で全体がぬるぬるしている。梅雨もカドミウムも頭に乗っかったのはいいが、バランスを取るのに一苦労だった。

「ラフレシアン!私はカンキョハカーイ園園町支部長、レイニーシーズン!!この場で貴様を葬る!!」

 梅雨は桜花に指を差した。絶対の自信があるようだ。

「テメェこの前のキャバ助か!私に三人がかりと機害獣で勝てなかったからラフレシアンを抱き込んだ訳かよ!!」

 三人がかりで、しかも機害獣も連れて来たのにチェリーブロッサムに負けた?

 それを聞いた梅雨は瞬時にアブラヨゴレから飛び降り、桜花の前でカドミウムに立ち塞がった。

「カドミウム!あなたの負けよ!!チェリーブロッサムと、このレイニーシーズン相手に勝てると思って!?」

 そう言って、カドミウムに指を差す。かなりの自信があるようだ。物凄いドヤ顔だったから。

「……………は?オメーカンキョハカーイじゃねーのかよ?」

 超疑問の桜花。かなりキョトンとした顔で梅雨に問うた。梅雨は桜花の手をそっと握る。まるで従来の友人のように。

「私はラフレシアンよ?」

 いや、見りゃ解るけど…と困惑顔の桜花。

「裏切ったのん!?ムカつくわレイニーシーズン!!キィイ!!」

 ヒステリーを起こしたカドミウムは更にアブラヨゴレを三体召喚した。アブラヨゴレは生産コストが安かったから量産が出来るのだ!!

 ともあれ、これでカドミウムと機害獣四体となった。

 それを見た梅雨は瞬時にカドミウムの隣に飛び乗った。

「引っ掛かったなラフレシアン!!私とカドミウムの黄金コンビに勝てると思って?」

 今後は桜花に再び指を差す。かなりの自信があるようだ。思い切り胸を張って見下した形を作っているのだから。

「はあ?テメェ裏切るのかクズが!!」

 いきり立つ桜花。対して動揺するカドミウム。

「な、何を企んでるのん?」

 かなり身体が引いているカドミウムの手をそっと握る。そして慈しむような微笑みをカドミウムに向けた。まるで前世からの友のように。

「全てはラフレシアンを油断させるお芝居よ」

「そ、そうなのん?ま、まあ…だったらいいわん…」

 戦力はよりあった方が有利。困惑しながらも受け入れるカドミウム。

「な、なんだあれは~?」

 雷太夫が目を剥いた。現実に起こった出来事なのか?と疑っているかのように。

「梅雨は……レイニーシーズンは……少しでも分の良い方に着く風見鶏なんだぁ!!」

 声を上げて号泣する縁是留。

 桜花と雷太夫は驚いた。

 モデル歩きをしながら街行く男の視線を感じ、楽しんでいる感のあった自信たっぷりの美少女の内面が、都合良い方に傾くコウモリ女だったとは!!

 しかし合点がいった。恥ずかしいとはこういう事か、と。

 まあいい。敵なら倒すだけだ。桜花は瞬時に切り替えて構える。

「上等だクズ共!!まとめてぶっ潰してやんよ!!」

 人差し指で来い来いとジェスチャーをする桜花。

「その自信がムカつくのよん!!」

「まったく…身の程知らずとはこの事!!」

 レイニーシーズンのこの態度にはモヤモヤするが…ここはチャンスだ。

 カドミウムがアブラヨゴレに号令を出そうとしたその時!!

「待たせたわね…チェリーブロッサム…ブツブツ…別に待っていないか…」

「抜け駆けするのは無しなのら~…クスクス…」

「悪のカンキョハカーイは許しませんの!!」

 変身した珊瑚達が駆け付けた。

 それを見た梅雨。再びアブラヨゴレから飛び降り、桜花達の前に立ち、カドミウムに指を差す。

「カドミウム!あなたもお終いよ!!私達ラフレシアンが全てのカンキョハカーイを倒す!!」

 もう訳の解らないくらい鞍替えしている。桜花もカドミウムの困惑を通り越してイライラし出した。珊瑚達は『誰あれ?』とキョトンとしているが。

「……ハッ!!う、裏切るのん?裏切るのねん?ダイオキシン様に報告するわん!!」

 カドミウムは全てのアブラヨゴレと共にテレポートで撤退した。

 梅雨は腰に手を当てて胸を張ってオホホ!!と笑う。

「やったわ!私達の正義の勝利よ!オーッホッホッホッ!!オーッホッホッホッ!!ぐわしっ!!」

 桜花は梅雨の頭を思い切りぶん殴った。

「テメェふざけんなよクズ!アッチ行ったりコッチ来たりよぉ!!」

 梅雨は涙目になって頭を押さえて蹲りながら、桜花に目を向けた。

「イタタタタ…仕方ないでしょ!私は自分の身が一番可愛いんだから!!」

 清々しい程の開き直りに敬意を表してもう一度ゲンコツを喰らわした。

「ごああっ!マ、マジで痛い!!ホントマジでっっ!!」

「当たり前だクズ!!私も大概の奴にクズだクズだと罵ってきたが、お前はその中でも掛け値なしのクズだ!!」

 何度も拳骨を喰らわす桜花。ぎゃあ、とかぐわあ、とか叫んでいる緑のラフレシアン。その状況が全く解らない珊瑚達。

「……一体何があったのら?」

 聞きたいが聞ける雰囲気ではない。珊瑚達は折檻が終わるまで待つ事にした。

 そして、それを遠巻きに眺めていた雷太夫がボソッと呟いた。

「…あれは確かに恥ずかしくて言えないなぁ…」

「そうだろう?よりによってラフレシアンの適合者があんなだとは…」

 縁是留の涙は暫く止まる事が無かった。


「…とんでもない女を連れてきたのら、桜花~…」

 次の日転校してきた梅雨は、女の子グループの派閥争いに、より分がある方ある方に流れ、遂にはハブにされた。

 そして美少女だったので、男にはチヤホヤされ、当然告白男子が跡を絶たなかったが、告られた男より、恰好良い男、更により恰好良い男に流れ、遂には男にもウザがられハブにされた。

「…ブツブツ…で、私達に流れて来た、と…ブツブツ…」

 どこにも相手にされなくなった梅雨は、桜花達美少女軍団に紛れ込んだ。

「私も美少女でラフレシアンだから良いではないですか!!」

 デカい声でラフレシアンだと言う梅雨。白雪が慌てて梅雨の口を手のひらで塞ぐ。

「バ、バカ!声が大きいですの!!」

 フガフガともがいていたが、やがて白雪の手からひらりと逃れると、純粋な眼差しを桜花達に向ける。

「そんな訳でぇ~…カンキョハカーイにも戻れない、秘密を共有する者同士、仲良しになりましょう!絶対裏切っちゃイヤですからね!?」

「オメーが言うな!!世界一説得力が無ぇ!!」

 桜花達は頭を抱えた。自分達も大概だが、この女はもっとヤバい。絶対に厄災を呼び込むだろう。

「……ブツブツ…でも監視を付けないと…私達の秘密を平気で言い触らしそうだし…」

 梅雨が自分達をラフレシアンだとバラす爆弾にならないか心配だった。

 それならばいっその事、監視の意味も含めて、仲間に入れた方がいいのではないか?と思ったのだ。

「それがいいと思いますわ」

「だからお前が決めるななのら」

 紅葉に頭部をぶん殴られた梅雨。その後頭部を擦りながら桜花にすり寄る。

「桜花なら解ってくれますよね?止むに止まれぬ事情が世の中にあるのだと言う事が」

「ああ。お前を仲間にすることが止むに止まれぬ事情だってくらいはな…」

 桜花も珊瑚に賛成だった。つうか、こいつには絶対に監視が必要だ。

 梅雨はパアッと表情を明るくし、桜花の手を挟み込むように両手で握る。

 桜花も笑った。その笑顔で梅雨と向き合う。梅雨は笑顔のまま固まった。それは超冷たい笑顔だったからだ。

「まあ…改めて言う事も無いけど……裏切ったら殺す!!」

 梅雨は固まった笑顔のままウンウン頷いた。こいつとは友達のままでいよう。と、硬く心に誓いながら…

 

 一方、カドミウムの報告を受けたダイオキシン。

【おのれ獅子堂 梅雨!!アッサリ裏切りおって!!】

 やっぱりお怒りだった。当たり前だが。

「そんなに怒るなダイオキシン。我等に寝返った時も、全く迷い無く寝返ったじゃないか。裏切りは予測済みだろう?」

 総王たる自分を呼び捨てにする男をギロリと睨むダイオキシン。

【……お前にはドリームアイランドでの留守を任せておった筈だが?】

「ふん。誰も攻めて来なくて暇でな。不可侵条約でラフレシア女王もケンカ売って来ないし、ケンカ売る訳にもいかないし」

 ダイオキシンは男を睨んだ。

【……お前程の男がいるからこそ攻めて来ないのだろうに?副王シーペストよ!!】

 副王シーペスト…総王ダイオキシンと互角の力を持つと言われる、カンキョハカーイナンバー2だ。

「いざとなったら戻るさ。それまで俺にも楽しませろよダイオキシン!!」

 シーペストは声高らかに笑った。それは城中に響く程。

 ダイオキシンは近所から笑い声がうるさいと苦情が来ないか心配になった……

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