057-1 隠 密 ninja-issue
植物とも虫ともつかない邪悪な物体『種』はりおなたちの買ったクラゲのぬいぐるみに、腹部の太い針を次々と突き刺す。
「「キャーッ!!」」
このはともみじは鋭く叫んで顔を手で覆う。部長は双子の視界に『種』が入らないよう前に出た。
刺されたクラゲのぬいぐるみからは、『悪意』とおぼしき黒煙が吹き出し全体を包む。
ものの三秒もせずに、ぬいぐるみは
筋骨隆々の手足や胴体。
その上には半球状の傘が載っていて、開いたり閉じたりしている。
その半透明の傘の内側には、
――高速ダウンロードかい。ただ、パワーアップしとるのはこっちも同じじゃ。
りおなは駆け出し、右端の一体を
間髪入れずに飛び上がり直径1,5mほどの大きな傘に
水風船をアスファルトに叩きつけるような音が響き、ジェリーフィッシュマンは上体をしたたか打ちつけられた。
残り三体に動揺の色が浮かぶ。
りおなは両手を軽く挙げ、自分の身体を見回した。見た目や服装そのものは先ほどと何ら変わっていないが―――
――これが新しい
◆
時間は少し
異世界Rudibliumから帰還する直前、ノービスタウンの酒場でりおなは、町長のムフロンからもらった紙片をチーフに渡した。
「りおなさん、これはどちらから?」
「うん、町長さんが時計塔で見つけたって。
なんか字書いてあるし、この世界、るでぃぶりうむの古代文字で書かれとるからりおなは読めんかった。
ケーキのレシピじゃないじゃろけど……なんじゃろ」
「これは……新しい
「んでも、字ばっかりで線ないけど。ステンシルじゃなかったら装備の設計図じゃないじゃろ」
「これは服ではなく能力としての装備です。厳密に言うなら、様々なアイテムを合成して服装に装備の能力を付与させる、ということになりますかね。
ただどの服にもつけられるというわけでもないでしょうから、服選びは厳選すべきでしょうね」
チーフは立ち上がり酒場をうろうろしだした。
ぶつぶつとつぶやきながら、紙片に書かれている字を指で追い読み進める。
「『歓喜の結晶』が三単位、『潤いの雫』が瓶5本分、『
りおなは唇を尖らせチーフの様子を眺める。
――めったに見んけど、チーフが興奮してるっちゅうんはよくわかるわ。問題はその中身、じゃな。
「これならすぐ用意できますね」
「結局はなんなん? 服創るの? 創らんの?」
「従来の装備とは逆でりおなさんが普段着ている服、たとえば学校の制服などにソーイングフェンサーの各装備の能力を付け加える形です。
各専門職と違い、
言うなれば
「のーびす? ああ、あの高速道路でカメラで撮ってスピード違反車取り締まる……」
「「それは『オービス』ですね」」
チーフはいつも通りに、りおなは自分が言ったことに対して異口同音にツッコんだ。
チーフは咳ばらいを一つして話を続ける。
「この街にははじめ名前がありませんでした。
『ノービスタウン』という呼び名はもともとここに冒険者ギルドがあって、それから他の店舗や施設が充実していきました。
経緯はともかくこの街でこのステンシル、いえレシピが見つかったのはただの偶然ではないはず」
「直訳したら『初心者の町』け? でも『初心者装備』っていうのもしっくりこんのう。
りおなぬいぐるみ創りもバトルも結構経験値積んどるけ」
「そうですね、呼び名は大事ですから。では新装備は何という名前にしますか?」
「すっぴん」りおなは即答する。
「すっぴんですか。しかしりおなさんは普段メイクはしていませんし、それにメイクに頼らなくても、十分に可愛らしいですし魅力的です」
「…………そーゆーことでねくて……。
まあいいや、その新装備はすっぴんて呼ぶ。決定」
チーフは無言でうなずき、材料調達のためローグ商店に向かった。
◆
――変身やなく普段着でパワーアップしてるっちゅうのは変な感じじゃのう。これ、カメラで撮られてたら間違いなく衝撃映像大賞じゃな。
りおなは、自分やヴァイスフィギュアたちの周りに広がる青灰色の空間を眺める。
――これが新技術『
トランスフォンに新たに搭載された新機能『虚数域』。
チーフからは
『ヴァイスフィギュアなどりおなさんに対して敵対行動、もしくは悪意を向ける者がいた場合に展開できる特殊フィールドです。
今いる場所を空間スキャンして、ポータブルシェルターの技術を応用します。
展開された疑似空間に、りおなさんやヴァイスを転送。ヴァイスを倒せば解除されます』
という説明を受けた。
――なんしか、人目を気にせず戦えるのは助かるっちゃ。
りおなが合計四体のヴァイスに意識を集中させていると、視界の端に動くものを確認する。
駐車場の奥には三人の人影があった。
「部長!? それにこのはちゃんにもみじちゃんも! なんでおると!?」
「すまん、詳しいことは分からんがまだ微調整がうまくいってないらしい、このはともみじは俺に任せろ!」
――んなこと言ったってにゃあ……。
部長はこの際
時間はかかるけんど、一匹ずつやっつけるか。
りおなは右手を突き出し、ソーイングレイピアを出現させる。
まずは素手でアスファルトに叩きつけた一体めがけて鋭く突きを入れた。
『ギシャァァアアアアッ!!!』
大きなクラゲの傘の下、狼のような頭骨から咆哮をあげ、残りのヴァイスが突進してきた。
手にはそれぞれ、クラゲをモチーフにした武器を携えている。
――ハンマーに、ナックルにあのぶん回してるのは、鎖鉄球か。
パワーアップ再生怪人どもめ、妙なディティールでこだわりやがって。
クリーチャーデザイン担当のヤツがおったら、マイナーチェンジで引っ張ってお茶濁すなって厳重抗議しちゃる。
りおなはヴァイス達の間を縫うようにすり抜け、レイピアで各々の手足を突き刺す。
ヴァイス達の動きが止まった。ソーイングレイピアによる縫いつける攻撃、『ストップショット』の効果で、互いの手足を複雑に縫い付ける。
青白い異形たちは、もつれた糸を引きちぎろうともがきだす。
そのうちの一体が左腕に力を込めだした。
『悪意』が黒煙のように吹き出し、即座に腕の一部が変形する。左手首から触手が弧を描くようにせりだし、腕の上のクラゲの幼体が細く鋭く伸びた。
「ボウガンか!?」
りおなが叫ぶのとほぼ同時に、ヴァイスの左腕から風切り音が鳴り、白い矢が何本も飛んだ。駐車場内の車のガラスに突き刺さる。
「「きゃーーっ!!!」」
「二人ともだいじょうぶ!?」りおなは双子のもとの駆け寄った。
「わたしたちなら、だいじょうぶです」
「じぶんたちなら、なんとか守れます」
このはともみじは、リュックから手のひらに余るサイズの人形と、鉄のような黒ずんだ球を取り出した。
りおなが驚くより先に双子は人形を前にかざし声をそろえて叫ぶ。
「「
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