19話「ダンジョン―交錯する境界―」

「君の疑問の通り、ああいう魔法物質を作るには、特別な素材が必要になる。そこでダンジョン素材――秘境、魔境も含めたところで取れる薬草、霊草、あるいはダンジョンモンスターの身体や核を使うことになる」

「……ダンジョン……」

 冒険者という存在が居て、危険な場所に行って貴重な資源を調達することは知っていたが、まさかその危険な場所がダンジョンなのか? てっきり普通に秘境とかジャングルとかの過酷な環境かと思っていたが。

 ゲームじゃん。そんなのあるの? と、トリエに目で聞くと。

「――それはダメですわ」

 彼女は即断った。

「え、どうして?」

 俺が訊くと、

「危険だからですわ――ボンドさんはただの一般人ですのよ?」

 そうそう――これでも一応勇者なのに完璧に一般人だもんね。よく分っていて助かるわー。

「大丈夫だよ。欲しい素材的には、そんな危険なところじゃなくてこの近くの森程度で十分だから。彼一人でも大丈夫だろう?」

確かに、それくらいなら、林業の手伝いもしていたから山歩きや森の散策も厳しく指導されたし問題なさそう。

「ああなら俺でも大丈夫そう――ていうか、俺じゃなくても大丈夫そう?」

「モンスターが出るってちゃんと聞いてましたの?」

「あ、やっぱダメだ」

「いやいやそれはダメだ。欲しいものがあるならダンジョンには君が出張らないと――」

「ちょっと――ダンジョンに潜るのは本来依頼を受けた冒険者の役目ですわよ?」

「それでも出来れば一人の方がいいことぐらい君も知ってるだろう?」

 話を振られるが、

「……ええ?」

 ソロプレイ推奨? なんで?

「知らないのかい? ダンジョンの性質を」

「まあ、奥に行けば行くほど、危険な場所ほどいいものが手に入る的な事なら」

 あくまでゲーム知識としてだ。

 この世界のそれがどうなのかは分らない。強いモンスターや謎解きが難しいダンジョンほどいいアイテムや経験値が入るのはどのゲームも一緒だがどうなのだろうか。

「それは間違っていないな――だが僕が言いたいのはそういう法則の話じゃなく性質のことだ」

「性質?」

「……ダンジョンの事を、正式には【夢現の響界きょうかい】、または字名あざなとして【試練の迷宮】呼ぶことは?」

「いや。その辺のことはあまり自分には関係ないだろうな~と聞き流していたんで」

 という設定にした。

「……街興しなんてものを任されてる割に常識知らずだな」

 すんませんね。こっちに来てまだ一ヶ月の赤ちゃん這い這いも出来ない野郎なもんで。

「あはは。まあ申し訳ないんだけど説明してくれる?」

「はあー、……いいだろう」

 

「ダンジョンは入った人間の夢や願いに反応し様々な物が現出される――人の願望が叶う場所だ――それがモンスターやアイテム、強さ、財宝、金、万病の薬や不老不死の呪法、アーティファクトと呼ばれるものを世界が作り出し、ありとあらゆるものがそこで試練や冒険を乗り越えたものに与えられる。

 何故そんなことが起こるのかはわからない。世界が曖昧になっているとか、その所為で現実と夢が常に交錯しているとか、それを閉じ込めた場所など――そんなふうに云われている。だから、人の夢が現実に響き、世界を塗り替える場所として【夢現の響界】という字名あざながダンジョンには与えられているのだが――」

あれ、なんか、魂の器がどうこうって言われたとき、似たことを聞いたような。

「ここまではいいか?」

「ああ、大丈夫大丈夫――」

 ちょっと気が逸れていた。いけないいけない。今は関係ない話だ。

「だが、人の願いが影響する以上は、そこに入る人数にも影響される。別々の願いをもった複数の人間でダンジョンに入ると叶えられる願望が混ざり合って、その全ての願いを叶える為にそれを叶えられるだけのお金や宝石になってしまう事が多いんだ」

 それは、なんていうか。

「誕生日プレゼントに現金を渡して『これで好きな物を買え』って言われてる?」

「身も蓋もないけどその通りですわね」

「ちなみに、金で買えないようなものは?」

「そんなものほぼないだろう。力に関しても武器を買えばそれで済む。寿命も富も技術も金があれば大体何とかなる。というより、なければどうにもならないというべきだが」

 夢が無いわ。

「――だが、特別な能力、生まれ持った身体能力になると話は別だな。これはむしろ試練を乗り越えることでしか手に入れられない」

「そこは訓練で十分なんじゃ」

「訓練で出来るのは生まれ持った能力を限界まで引き出すことだけだ。その限界を超えるには金ではどうにもならないだろう?」

「……あーなるほど」

 怒りで覚醒なんてしないんですね。分ります。

 レベルアップ&ステータスですね分ります。

「どれもダンジョン内に出てくるモンスターを倒したり、最深部の試練を越えることで手に入れられるが、何階潜っても、どれだけ果てを目指しても、お金しか手に入らないのでは意味がない。これを解消するにはダンジョンに一人で入るか、よっぽど意思の統一が取れたパーティーにするかだが、概ね前者でしかない」

「一人でも願いが複数あった場合はお金か宝石になることが多いのですわ。浅いダンジョンでは特に。だから本当に叶わぬ願いを叶えたければ死を覚悟しても足りないほどのそれに挑む必要があるんですのよ?」

 ダンジョンは潜る階層が深ければ深いほど叶えられる願いの上限が増えていく――

 願いの深さに釣り合わないダンジョンでは逆に何も得られない。叶えられる願いは、潜るダンジョンの深さや広さによるということだ。

 ちなみにダンジョンには、秘境、魔境、迷宮、深淵、塔、と他にも色々あるらしい。中でも【霧の領域】と呼ばれる世界最大級のそれは大陸を海や空まで覆う規模で、それを越えれば世界規模の変革をもたらすほどの願いが叶えられるとか。

いや、でも。

「……そんなものが近所の森で?」


 キノコ狩りとか山菜とかカブトムシ捕まえるとかそんな場所で。肉体の限界を超えるとか超能力に目覚めるとか。

 厨二病のちょっとした冗談にしか聞こえないんだが。

「いや。それは今回の『街興しに使う』『魔法みたいな芋』なんてレベルの話だからで、更にはそれを用意するための『素材集め』と、割と何でもいいというところまで難易度が下がっているからの話だな。――実際ちょっとした薬草や山菜を取るレベルだ」

「あ、そんなレベルなんですね」

 にやり、とベアマートは会心の微笑みを浮かべる。そこはかとなく悪意に似た何かを感じるが、意図が分らない。

 でも、おばあちゃんの手伝いでよく行ったわ。この世界に来てからも行ったわ。

「……じゃあ今度俺一人で行くか」

「熊とかイノシシぐらい普通に出ますわよ」

「腰に鈴着けとけば大丈夫じゃないの?」

「一応ダンジョン化してますのよ? 町の大人でも複数が武器と防具を着けてようやく万全というところですわ」

「……マジッすか」

「マジですわ」

猪って雑食だから、普通に人も食えるんだよな。養豚場で野性スイッチ入った豚が牧場主を食って「お父さんが食べられてる!」とかいう話も聞いたことがるし。

 熊が出たらマジ死ぬし。ちょっと……なんだろうこれ、すごい日常っぽいのに地味に冒険なんですけど。実は山菜取りって冒険だったの?

「……冒険者を一人雇ってお願いしたら?」

「明確なビジョンと目的、願いを持ってる本人が行くことが重要だ。それだとその冒険者が何回もトライ&アタックを繰り返して目的のものが出るまで粘ることになる。そんな時間や余裕と金はあるのか?」

 大会の優勝者への賞金とかそんな高くないけど、他にもいろいろと金が掛るところはあるし、町のみんなは仕事と祭りの準備、関係各所各位への根回しがあるしな。そうでなくても明確な願いや欲求がある、発案者の俺が適任だろう。

 悪い言い方をするが、彼らは言われたから――こちらの絵空図に従っているだけだ。同じ目的に動いている一体感はあるが。個人個人の明確な目的や願いが重なっているわけではない。それぞれのそれがあるだろう。

 俺はこの世界に街興しの為に呼ばれ、今はもうその為に動いている。

 いやまあ要するに最初から――

「……俺しか居ねえのか……」

 森でクマさんに出会っちゃったらどうしよう、手を取って踊れないぞ。俺イヤリングもピアスもしてないし。剣も弓も盾もましてひのきのばちも使えねえよ。服だって初期装備の布の服・町人コーディネートのままだし。

 勇者だって仲間有りで最初の街から次の街まで何回出戻りすると思ってるんだよ。雑魚の敵に何回も瀕死まで追い詰められてるんだぞ? やらなきゃいけないのかぁ……。

 やる気&諦めだが。

「ま、いっか。やろう。半分面白そうだし」

「いいのか? こう言っちゃなんだが、それなりに危険だぞ?」

「他に入れる人なんていないんですし、いいですよ?」

 ダンジョンだ、ダンジョン。実はちょっと興味もある。

 熊とか猪だけじゃなく、スライムとかウサギとか栗鼠とか人型キノコとか、電気ネズミとか裏声のネズミとかそんなゆるキャラがいるんじゃないの?

 居ないか。2Dじゃないしな。

 半分くらい絶対死にたくないけど、人食い熊はガチ怖いけど。

 正直町の生活にも慣れてきたからそういう『外』にも興味あるんだよな。いろいろ話聞いてると街の外の話題とか結構あるし。そういえば冒険者らしい冒険者にはまだ会ってない――あのバッタモンの黒の剣士はなんか違うし。

「せめて意思の無い自動人形オートマタがあればいいんだが。他に何か……」

 そう言いながら、ベアマートは分りやすく思案し始める。

 それを聞いて、

「……あの、よろしければ私がご一緒しましょうか?」

「え?」

 命さんはなんでか、ほのかにやる気で耳が上気していた。

 頬じゃないんだ。

 いや、なんで命さんが?

の巫女である私なら、願いが響界に影響を与えることはありませんので」

「……あっ、そうか……」

 何かに似ていると思ったら、ダンジョンシステム、勇者の召喚と理屈としてはほぼ同じなのか。願いによって現れるのが勇者かアイテムかで。

 しかし、そんな抜け道があったのかと思う反面。

「いや、でも、命さんには神様のお世話が」

「私も、街興しの為に、貴方のお手伝いをしたかったので……」

「そんなことないって。命さんが居なかったら俺とっくに干上がってたから」

「……いいえ。それでも、手助けという手助けではなく、これまで見ていただけの様なものでしたから……」

「本当にそんなことはなかったよ」

 あくまで、それも俺の視点と主張であることは分っている。彼女の眼から見れば、街興しに手を貸していたのではないことは明らかだ。

 しかし生活面はパーフェクトに依存してるからな。給金から食費生活費を――断られると思って神様の方に入れさせて貰っているが、もう現状それ以外〔あまり頑張らない場所〕として甘えさせて貰っているのだ。もうそれだけで本当に十分というか、そうであってほしい、というのも我儘か?

 苦悩。

「……必要ありませんか?」

 どうしてそんな卑怯な聞き方するかなあ。

これじゃ彼女の善意も努力も前向きさも捨てるみたいだ。

 大人しくて礼儀正しい人――ぐらいにしか彼女優しさを思ってなかったけど。

 実は女子力めちゃ高いんじゃないのか? それも無自覚に? 割と小悪魔系なのかこの人。家事とか料理も仕事とはいえ一生懸命だし。

 捨てられるけど怒られるのやだから我慢する、子犬の上目遣いみたいだし、くっ。仮面越しに伝わってくるなんてなんて奴だ。

 そんなふうに悩んでいたら、何故だかトリエがとても白い目をして――

 バカップルを見る目をしている?

「いいえ。錬金術の素材でしたら――むしろそこの錬金術師が行けばいいのですわ」

「いや、いやいやいやそれは無理だ。俺はインドア派だぞ?」

「いいえ。そもそもベアマート、あなた、依頼にかこつけて自分用の研究用素材も手に入れるつもりではありませんの?」

「え?」

 あ、違った?

 あ俺じゃないんですね、その軽蔑の視線は。

 こっちは割と真面目な話だったけど傍目ただまじまじとイチャついてた様に見えたとかそいうことじゃないんですね? 

 ていうか彼女が今言ったことは、どういうことだろうか。

「な、なにを言って!」

「そうすることも出来ますわよね? 最初からダンジョンでそこに書かれた魔法の芋を願っていればいいですのに。意識を誘導して錬金術の素材集めにこの人の思考を持って行きましたわよね?」

 ああ、あのにやりとした、したり顔はそういうこと。

 いやあれ? 確か俺、加護で悪意を持つ者からは若干認識されなくなるんじゃなかったか? 会話の最中は面と向かって話している――リアルタイムで認識されている最中だから無効なのかもしれない。目の前でいきなり意識から外れたらおかしいもんな。

「それはダンジョンで願い通りの品が手に入るなんて滅多にないから自分の手で作り出した方が確立として上で」

「だったらやっぱり最初からあなたが行けば適任じゃないですの。錬金術で芋を作ることになるあなたなら明確な目的も願いも保持することになりますわよね? なら日替わりで入ればさらに効率は良くなりますわ」

「あ、そういう方法もあるか」

「なら私も巫女様も一緒に!」

「巫女様はダンジョン初心者である彼を手助けすると言ってますのよ?」

「じゃあやっぱり彼と一緒に!」

「はい――明らかに素材より別の願いと目的が発生していますわね? お一人様ご案内ですわ」

「ぐおおおおおお! し、しまったああああ!」

 バカかこの人。しかし念のために確認する。

「まあとにかく、本当に横領しようとしてたんですか?」

「いや……そんなことはないぞ?」

 リカバリー早いな。でも、

「何で間があるんですか」

「それは――」

 ベアマートはもじもじと命に目をやる。

「要するに、素材の件も併せて別の目的があるんですわ。大方、巫女様を参加させて最終的にそこに自分も同行しようとしたのでしょう?」

 トリエの指摘に彼は目を逸らした。

 命さんの方へ。

 ああそうか、巫女さんが手助けしようとする俺を助けていい人アピールか。そんなアプローチならだったらストレートに口説けばいいのに。

「……なんでそんなことを」

「魔法が見れるかもしれないんだぞ? 紛い物の魔術ではなく本物の神代の魔法だ。世界の真理に最も近く最も遠い――可能性の現出だぞ? ついでに彼女も拝めるし」

「……は?」

「ふっ、意味も価値も分らんか。これだから向学心も探求心もないただの男は」

「いや」

 ぼそっと漏れた下心の方が気になるんだが? むしろ男ならそっちが本命だろう?

 魔法ってそんなすごいのか? 俺なんかちょっと普通に使えるぞ? みんな使えるけど道具の方が便利で使わないんじゃなかったのか?

 疑問を命さんに投げ掛けると、彼女は無言で首を横に振った。

「彼が言っているのはミナカ様が使う魔法の事ですね」

「ああ、そりゃ神様だからなあ……」

「錬金術師共通の目標は、生命の構築、そして世界の真理を導き出すこと。それは最終目標である、新たな世界の創造の為ですものね」

 トリエが補足するように言ったが。

「いや、世界の創造って」

 はい厨二来ました。でも魔法とか神様がガチで存在するこの世界なら、もしかして在り得ないわけじゃないのか。そういえば神様、魔法で世界を作れる的なことを言っていたような。SFとかで――宇宙は何もないところから始まったとかそういうのあるけど。

 なんとなく理解する。

「あ、何もない所から火や水を出せるから、魔法に興味があるのか――」

 確かにそんなことが出来る魔法の研究をすれば、世界を創造するなんてことに繋がるかもしれない――それとは別のところでもう一つ理解する。

 頭が冷え切った。なんだ、命さんへの好意の照れ隠しかと思ったが、要は使だったのか。

「……今回だけは我慢はするけど、次はないですからね?」

 その瞬間、何故だか一同は酷く驚いた。

「――あ、ああ。……分ってるさ。これでも一応この街に住んでるんだ。街の為になることなら、まあ善処する」

 本当に分ってるのか? 

 ていうか微妙にこの男、俺から目を逸らしている。なんか何かが爆発したような雰囲気だ。

 あれ? 部屋中が? 生暖かい空気が? 何故? 

 そして女子二人は何故俺の顔をじっとみる。

「……なんか顔についてる?」

「いえ。そういうところもあるんですのね。ちょっと安心しましたわ」

 私は分ってます的な一方的通知は止めようか女子よ。俺がバカみたいじゃん。

 ていうか俺どんな顔してたんだ? 命さんに目で問う。

「……いえ。普通、だと思います」

 ……普通だよなあ? 

 命さんは表情に出ないから本当のところは分らないけど。

 まあいいか。

「――じゃあとりあえず材料になりそうな物を、近くの森のダンジョンから取ってくればいいんですね」

「ああ。出来れば植物だけじゃなく、もしスライムの核が取れたら取ってきてほしい」

「スライムの核?」

「こういうものだ」

 言いながら、ベアマートは戸棚を開け中から瓶詰になったグミみたいなものを見せてい来る。

「――へえ、これがスライムの核」

「ああ。人工生命ホムンクルス合成獣キメラを作るときはこれが必須になる。スライムは生命の中で最も柔軟に環境に適応することができる優れた細胞の塊みたいなものだからな。別個の細胞を掛け合わせ繋ぐには打って付けの要素だ。きっと新しい芋でも魔法の芋でも同じだろう」

「スライムってそんなすごいんだ?」

「すべての生命はスライムから始まったと言っても過言ではない」

海じゃないんだ。

「――それからすまない」

「は?」

「いや……決して不純な気持ちで彼女のことを観ていた訳じゃないんだ。ただ好奇心が絡むとどうも歯止めが利かなくて。一応これから彼女を口説くときは、君に断りを入れることにしよう」

「……」

 なんか序列が付けられてる?

 ていうかあれ? 俺ひょっとして片想い№1的な立ち位置なの? おやビンなの?

それより何気に好意自体は否定しないんだな……。

「……それだったらハッキリ今ここで素直に告白したら?」

「えっ、いや、そんなつもりは」

 なんでそんな信じがたいものを見る目をするんだ。

 トリエが壁をドンドン叩き出したが気にすまい。いや、跳び膝蹴りまでしているので止めた方がいいのか?「すごい自信! すごい自信ですわ!」

 とか呟いて過呼吸しているが。

 あれ? 告白しても、彼女は俺の事が好きだから絶対振るぞ? って取られてる?

 不穏分子を排除しようとしてるように見えなくもないか? いやいやいやだって俺のこと関係なしに命さんはどうみても彼に脈無しだぞ? 可能性の無い片想い続けるのって結構無駄だよ? 既に二、三年それをしてる自分が言うのもなんだが好意を隠さず素直に言える彼への俺なりの好感でただの残酷な親切だからな?

……あれ? 何この配慮、やっぱ俺片想いキング?

 見なかったことにしよう。

「……帰ろう」

 これ以上ここに居てはいけない。なんかそんな気分になったので。

 そして、いつまでも品の無い笑いで腹を抱えているトリエを後にして、

「……」

「……」

 なんでか、三歩、半身後ろから付いてくる命さんを、背中に汗をかきつつ常に意識していた訳で。

「じゃあ、明日は近所の森に行くってことで」

「はい……」

 止めて、そんなつつましく伏せがちな顔をしないで? まるで恋する乙女か妻が恥じらっている様よ。

「……それも、デートの練習、ですか?」

「……どうしようか」

 いや、もうホントに。

「おにぎり、作りますね」

「はい」

 もう本当に! ――きっと同性なら、彼女が天然か人工的なのか分るんだろうけどさ。

 男には、そんなこと関係ないわけでさ。いや顔が見辛い見辛い。

 でも、

 ……確か、熊が出るんだよなあ。

 

 これ、死亡フラグ、って奴じゃねえの?

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