第2話 目覚めたところで
背中に柔らかい感覚がある。耳元には風の音。そして目を開けるとそこには前の世界では見たこともないような青空と大草原が広がっていた。どうやら異世界に来たようだ。遠くの森から鳥の鳴き声も聞こえる。
そして、周囲を見てみると自分の隣には宝箱が置いてあった。
「これは?」
蓋を開けてみると中には手紙と弓が入っていた。
手紙を読んでみるとこう書かれていた。
「アオバへ、異世界はいかがでしょうか? スキルは波長の合ったものにしか使えないようなので何年かかるかはわかりませんがほどほどに頑張ってください。とりあえず、いい感じの弓があったので同封してあります。それを使って異世界ライフを満喫してください。もし、スキルを使えるものがなくてもボクの責任ではないのでくれぐれもよろしく」
波長が合わなければ擬人化できない。そんなこと聞いてなかった。たぶんピンチだ。でも今は弓でも持って自由な生活をしよう。どんな特殊能力があろうと別に活用しなくてもいいだろうし。異世界に来たからといってテンプレ通りの生活を送る必要などないだろうし。
そう思った俺は弓へと手を伸ばした。
パッと見かなり綺麗に装飾が施された芸術品って感じの弓だ。
「どれ、早速使ってみるか」
どうやって使うのかは大体の見当がついているからたぶんいけるだろう。そう思い弓を握る。思っていたよりも材質が柔らかく握りやすい。しかし、握り心地を確かめていると弓が突然七色に光り始めた。
「お、これが俗に言う魔道具ってやつか。高級品は違うな」
しかし、その発想は良い意味で裏切られた。眩しさから閉じた目を開けると、そこには一人の女の子がいた。
「ん?」
「はい?」
お互い相手を見ると困惑した。擬人化の能力が使えたらしい。
「あ、これが擬人化か!」
「う、うん。擬人化された元魔弓のエレナです。呼び出したからには大切にしてよね」
エレナか。ほうほう、なかなか俺好みにできたものだ。髪型は黒髪のツインテール、気が強そうで整った顔立ち。あまり主張しすぎない胸。俺の求めていたものがいとも簡単に手に入った。
「な、ちょっとジロジロみないでよ」
「ああ、悪いな」
「それに、あんたも名前ぐらい教えなさいよ」
「おう、俺の名前は青葉だ」
「アオバ? ふーんそう」
「とりあえず、俺のスローガンを発表しておこう」
「うん」
「ずばり≪ダイナミックにバーン≫だ」
「うわー、可哀想なくらいに語彙力が無い」
「考えが声に出てますけど。俺もう傷ついた。どうせ言葉も不自由ですよ」
「そんな事思ってないって。と、ところでアオバ、あんた武器とか持ってないの?」
「いや、ついさっきまで弓を……」
「なるほど、それで私が出てきたってことね。なら、責任をもって街までアオバを守るわ」
「……」
「何よ、私がこんなこと言ったら変?」
「変じゃないけど、なんか意外」
「その代わり街に着いたら何か奢ってよ」
「ああ、街に着いたらな」
「やった! なら精一杯頑張るね」
単純なやつだ。まあそういうのも嫌いじゃないが。そのうち簡単に騙されて詐欺にあうんじゃないだろうか。
「で、お前は何ができるの?」
「私は弓で戦えるよ」
「いや、そうじゃなくてもっとこうなんていうか」
「戦闘以外にも一応。りょ、料理とかできる、かな」
「かな?」
「それぐらいできるって。私を誰だと思ってるのよ」
そんなやり取りをすると草原を離れ街へ向かうために俺たちは歩き始めた。道のようなものがなく心配ではあるがまあどうってことないだろう。それにここは異世界。俺に都合よく出来ていて、俺は望めば勇者にも王にもなれるのだ。
「アオバ、伏せて」
「え、ちょっといきなりなんだよ」
「あれ、ドラゴンじゃない?」
「あれがドラゴンか少し遠回りして行こ……何やってんだよ」
生まれて初めてドラゴン見た。なんか思っていたのより小さい、なんというかトカゲみたいだ。でも、表面は鱗のようになっていて矢が通るようなものではないだろう。
エレナはドラゴンに弓を向けていた。擬人化したものをそのまま持っているようだ。しかし矢がないけど大丈夫だろうか。
「おい、矢は?」
「矢なんていらないわ。これは魔弓、魔力を込めればそれが矢になるのよ」
「なるほど、って違う弓なんか効く訳ないだろ」
「弓なんかってなによ。いいから黙って見てなさい。」
「……」
「当たれ!」
そういって放たれた魔力の塊らしき矢はまっすぐに飛んでいきドラゴンに刺さった。その瞬間辺りに爆音ととてつもなく眩しい光がやってきた。反則だろ、こんなの。
「エレナどうだ?」
「見た? これが私の実力よ!」
「すごいな」
「でしょ? まあ、子供のドラゴンだったからっていうのもあるけど…… 早速素材を剥ぎ取りに行こ?」
「なあ、子供のドラゴン倒して大人のドラゴンが反撃に来たりしないのか?」
「大丈夫よ。よっぽど知能のある種類じゃない限りそんなことはないから」
「そうか、なら大丈夫だな」
まだ生きてるとかそういうのが怖いが、あれをまともに喰らって生きていられるわけがない。
「エレナ、これいくら位になるんだ?」
「さあ。でも当面の生活費ぐらいにはなるんじゃない」
「そうなのか。でも俺この世界の金銭感覚が無いからな」
「買い物ぐらいしたことあるでしょ」
「無いぞ。それに一文無しだからな」
一瞬、静まる。もしかして一文無しはお嫌いでしたか……
「なら、ここで別れた方が良いかもね」
「ちょ、それは無いだろ。金持ちが好きなのか?」
「そういうことじゃなくて、私お金かかるから……」
「維持費か?」
「そうじゃなくって、その買い物に……」
「それくらい、自粛しろよ」
「じゃあ、出来る限りそうする……」
なんで不貞腐れるんだろうか。でも可愛いから許そう。俺はそういうことには寛容だからな。
「とりあえず、近場の街があったらそこに行こう」
「ん、分かった。じゃあ着いたら買い物ね」
「お、おう」
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